Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

カーチュン・ウォン/日本フィル

2023年12月10日 | 音楽
 カーチュン・ウォン&日本フィルの快進撃が続く。12月の東京定期はこのコンビらしいプログラムだ。1曲目は外山雄三の交響詩「まつら」。日本フィル恒例の九州公演から生まれた曲だ。わたしは1985年9月の渡邉暁雄&日本フィルと、2014年12月の外山雄三&日本フィルの演奏を聴いた。今回久しぶりに聴き、「こんなにいい曲だったっけ」と思った。冒頭の静謐な音楽から祭囃子の幻想的な音楽へ自然に移行する。祭囃子がお祭り騒ぎにならない点が好ましい。この曲の難点だと思っていた強引なエンディングは、軽いアクセントを打って終わるように聴こえた。

 2曲目は伊福部昭の「ラウダ・コンチェルタータ」。マリンバ協奏曲だ。わたしは一時この曲に夢中になった。きっかけは1990年4月に聴いた安倍圭子のマリンバ独奏、山田一雄&新星日響の演奏だ。憑依したような安倍圭子のマリンバ演奏に圧倒された。山田一雄の指揮も思い入れたっぷりだった。巨大な渦がステージ上に巻き起こるような印象だった。その後2010年6月に聴いた安倍圭子のマリンバ独奏、井上道義&日本フィルの演奏ではあまり感銘を受けなかったが‥。

 今回のマリンバ独奏は池上英樹。当然のことながら、安倍圭子とは異なる。硬質な音が飛び回るような演奏だ。安倍圭子の場合は大地に打ち込むような音だった。言い方を変えれば、安倍圭子の場合は深々とした低音が印象的だったが、池上英樹の場合は高音が印象的だ。率直にいえば、安倍圭子の演奏のほうが音の数が多く、池上英樹の演奏は音の数が少ないように感じた。

 池上英樹のアンコールがあった。「星に願いを」を自由に崩した演奏だ。重音を極力避けて、単音がポツン、ポツンと続く。例えていえば、冬の澄んだ夜空のような感覚だ。そこから「星に願いを」のメロディーが浮き上がる。

 3曲目はショスタコーヴィチの交響曲第5番。先に結論をいえば、日本フィルのイメージを一新する演奏だった。音がクリアーなことにまず耳を奪われた。暖色系で色彩豊かだ。日本フィルはラザレフの指揮でショスタコーヴィチの名演の数々を繰り広げたが、ソ連時代の証言のようなラザレフの指揮では、音はモノトーンだった。それに引き換え、カーチュン・ウォンの指揮では現代的でカラフルな音になる。

 細部へのこだわりは驚異的だ。次から次へと驚くべき発見がある。今まで埋もれていたパートが浮き上がり、意表を突くテンポの変化があり、また思いがけない音色が現れる。端的にいえば、至る所にドラマトゥルギーがある。長大なこの曲があっという間だ。日本フィルの集中力は最後まで切れなかった。
(2023.12.9.サントリーホール)
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