Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

サントリーホール・サマーフェスティバル2023:ノイヴィルトの室内楽

2023年08月29日 | 音楽
 サントリーホール・サマーフェスティバルの今年のテーマ作曲家・ノイヴィルトの室内楽演奏会。全5曲。以下、順に触れるが、結論を先にいうと、作品、演奏ともにすばらしく、例年の室内楽演奏会に増して充実した演奏会になった。今年のサマーフェスティバルを締めくくるにふさわしい演奏会だ。

 演奏順が一部変更になった。1曲目は「インシデント/フルイド」。ピアノとCDプレイヤーのための曲。沼野雄司氏のプログラム・ノートによれば、ピアノの中音域にプリパレーションが施され(音色が変形される)、かつ内部奏法が駆使される。加えてCDプレイヤーがピアノに設置され、スピーカーからドローン音が流れる。

 言葉でそう説明されても、どんな音か、そしてどんな音楽か、見当がつかないと思うが、実演に接すると、じつにさまざまな音色が聴こえて、音の風景のようだ。気迫にとんだ音から、静かな、かすれるような音まで、目まぐるしく変化する。ピアノ独奏は大瀧拓哉という若い人。目の覚めるような鋭い演奏だ。

 2曲目は「…アド・アウラス…イン・メモリアムH」。2つのヴァイオリンとウッドドラム(任意)のための曲。2つのヴァイオリンは60セント(半音の3/5)の差でチューニングされる。それがどう聴こえるか。わたしの感覚では、2人の役者の演劇のように聴こえた。2人は時に声高に、時に声をひそめて話し続ける。必ずしも一体化しない。むしろ各々の個を保持するためにチューニングがずらされているようだ。そんな2人の会話はどこかユーモラスだ。打楽器がユーモアを増幅する。打楽器はカホンが使われた。ただし、素手ではなく、マレットを使った。

 休憩後、3曲目は「クエーサー/パルサーⅡ」。端的にいうとピアノ三重奏曲だが、音色に工夫が凝らされている。まずピアノは若干のプリパレーションが施され、かつE-bow(弦に近づけると弦を振動させ、音を発生させる小さな機器)が使われる。その効果は抜群だ。通常のピアノでは得られない長く伸びる音が発生する。一方、ヴァイオリンは2曲目と同様に60セント低く調弦される。通常の調弦のチェロを加えた三重奏は、ピアノとヴァイオリンの対峙のわきでチェロが呟くような演劇的空間を生む。

 4曲目は「マジック・フルイディティ」。フルートとタイプライター(!)のための曲。タイプライターの音がユーモラスだ。5曲目は「スパツィオ・エラスティコ」。7名の室内アンサンブルのための曲。当初の発表にはなかった指揮者が加わった。指揮者なしでは演奏困難だろう。指揮は馬場武蔵。演奏終了後、ノイヴィルトがステージに現れた。小柄で、飾らず、気さくな人のようだ。
(2023.8.28.サントリーホール小ホール)
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