「湯浅譲二 作曲家のポートレート―アンテグラルから軌跡へ―」と銘打った演奏会。サントリー芸術財団は「作曲家の個展」と銘打った演奏会を続けていたが、それと関係があるのかどうか。ともかくサントリーホール・サマーフェスティバルと同時期の開催なので、サマーフェスティバルの一環かと思いがちだが、別枠だ。演奏は杉山洋一指揮の都響。
1曲目はヴァレーズの「アンテグラル(積分)」、2曲目はクセナキスの「ジョンシェ(藺草(いぐさ)が茂る土地」。ともに湯浅譲二の選曲だろう。周知のように、湯浅譲二の「クロノプラスティクⅡ」は「E・ヴァレーズ頌」という副題をもち、「クロノプラスティクⅢ」は「ヤニス・クセナキスの追悼に」という副題をもつ。
ヴァレーズの「アンテグラル」は管楽器アンサンブルと打楽器のための曲だ。演奏は少々おとなしかった。ヴァレーズというとどうしても爆発的・破壊的な音楽を想像するが、そうでもなかったのは、演奏のせいか、作品のせいか。一方、クセナキスの「ジョンシェ」は爆発的な作品・演奏だったが、延々と続く大音響を聴くうちに、単調さを覚えた。あるいは大音響の中に微妙な変化があったのに、それを聴きとれなかったのか。
プログラム後半は湯浅譲二の作品。まず「哀歌(エレジイ)」。この曲は当初マンドリン・オーケストラのための曲だったそうだ。白石美雪氏のプログラム・ノートによると、2008年に玲子夫人が亡くなり、湯浅譲二は作曲できない日が続いた。その気持ちに区切りをつけようと、メトロポリタン・マンドリン・オーケストラからの委嘱を受けて作曲したという。その弦楽合奏用の編曲版だ(ハープ、ピアノ、ヴィブラフォン、ティンパニが加わる)。結尾にハープとピアノの呼び鈴のような音型が現れる。意味深だ。
次に「オーケストラの時の時」。湯浅譲二の代表作のひとつだ。壮年期の充実した力がみなぎる。今回の演奏では途中にいったん区切りが入った。ちょっと戸惑ったが、元々そうだったか。ともかく電子音楽を思わせる流体のような音の層が重なり、そこに鋭い音が打ちこまれる。語り口の滑らかさと音の透明感という湯浅譲二の特徴が、今回の演奏では鋭角的に表れたようだ。
最後に新作「オーケストラの軌跡」。大きな打撃音で始まり、最後は宙に消え入るように終わる。演奏時間は5~6分。今年94歳になった湯浅譲二が2017年の「作曲家の個展Ⅱ」では未完だった曲を完成させた。高齢であるにもかかわらず、音の密度は薄れず、精神力は衰えず、甘えがない。終演後舞台に現れた湯浅譲二は、熱い拍手を受けた。
(2023.8.25.サントリーホール)
1曲目はヴァレーズの「アンテグラル(積分)」、2曲目はクセナキスの「ジョンシェ(藺草(いぐさ)が茂る土地」。ともに湯浅譲二の選曲だろう。周知のように、湯浅譲二の「クロノプラスティクⅡ」は「E・ヴァレーズ頌」という副題をもち、「クロノプラスティクⅢ」は「ヤニス・クセナキスの追悼に」という副題をもつ。
ヴァレーズの「アンテグラル」は管楽器アンサンブルと打楽器のための曲だ。演奏は少々おとなしかった。ヴァレーズというとどうしても爆発的・破壊的な音楽を想像するが、そうでもなかったのは、演奏のせいか、作品のせいか。一方、クセナキスの「ジョンシェ」は爆発的な作品・演奏だったが、延々と続く大音響を聴くうちに、単調さを覚えた。あるいは大音響の中に微妙な変化があったのに、それを聴きとれなかったのか。
プログラム後半は湯浅譲二の作品。まず「哀歌(エレジイ)」。この曲は当初マンドリン・オーケストラのための曲だったそうだ。白石美雪氏のプログラム・ノートによると、2008年に玲子夫人が亡くなり、湯浅譲二は作曲できない日が続いた。その気持ちに区切りをつけようと、メトロポリタン・マンドリン・オーケストラからの委嘱を受けて作曲したという。その弦楽合奏用の編曲版だ(ハープ、ピアノ、ヴィブラフォン、ティンパニが加わる)。結尾にハープとピアノの呼び鈴のような音型が現れる。意味深だ。
次に「オーケストラの時の時」。湯浅譲二の代表作のひとつだ。壮年期の充実した力がみなぎる。今回の演奏では途中にいったん区切りが入った。ちょっと戸惑ったが、元々そうだったか。ともかく電子音楽を思わせる流体のような音の層が重なり、そこに鋭い音が打ちこまれる。語り口の滑らかさと音の透明感という湯浅譲二の特徴が、今回の演奏では鋭角的に表れたようだ。
最後に新作「オーケストラの軌跡」。大きな打撃音で始まり、最後は宙に消え入るように終わる。演奏時間は5~6分。今年94歳になった湯浅譲二が2017年の「作曲家の個展Ⅱ」では未完だった曲を完成させた。高齢であるにもかかわらず、音の密度は薄れず、精神力は衰えず、甘えがない。終演後舞台に現れた湯浅譲二は、熱い拍手を受けた。
(2023.8.25.サントリーホール)