Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

インキネン/日本フィル

2023年04月29日 | 音楽
 インキネンの日本フィル首席指揮者としての最後の東京定期。曲目はシベリウスの「クレルヴォ交響曲」。記念碑的な作品によるこれ以上ない舞台設定だ。

 「クレルヴォ交響曲」は何度か聴いたことがある。ハンヌ・リントゥ指揮の都響、パーヴォ・ヤルヴィ指揮のN響が記憶に新しいが、若いころには渡邉暁雄指揮の都響も聴いた記憶がある。それぞれ感銘を受けたが、それらのどれとくらべても、今回のインキネン指揮の日本フィルは感銘深い演奏だった。

 羽毛のような柔らかい音からエッジのきいた音まで、音の多彩さもさることながら、なにより印象的なことは、インキネンの「クレルヴォ交響曲」という巨大な世界を真正面から受け止める胆力だ。豪胆といってもいい。明るく爽やかなイメージのあるインキネンだが、腹の座り具合は並大抵ではない。「クレルヴォ交響曲」の圧力を一身に受け止め、一歩もひるまない精神力を持っている。

 それはインキネンがワーグナー指揮者であるからかもしれない。だてにバイロイトで「ニーベルンクの指輪」を振っているわけではないのだ。インキネンはかつて日本フィルのインタビューで「ワーグナーを振ると血沸き肉躍る。そうでない指揮者はワーグナーを振るべきではないと思う」という趣旨の発言をした。そのような資質が「クレルヴォ交響曲」にも感応するのだろう。

 独唱者はソプラノがヨハンナ・ルサネン、バリトンがヴィッレ・ルサネンだった。とくにヨハンナがすごかった。声に深みがあり、劇的であると同時に滑らかな歌い方だ。聴く者を包みこみ、絡めとっていく力がある。プロフィールによると、フィンランド歌劇場で「トリスタンとイゾルデ」のイゾルデや「ニーベルンクの指輪」のブリュンヒルデを歌っている。いいだろうなと思う。一方、ヴィッレのほうは、出だしは不安定だったが、すぐに安定して劇的な歌唱を聴かせた。プロフィールによると、フィンランド歌劇場でブリテンの「ビリー・バッド」のタイトルロールを歌っている。これもいいだろうなと思う。

 SNSでは合唱が大評判だ。皆さんおっしゃるように、すごい「音圧」だ。ヘルシンキ大学男声合唱団に東京音楽大学のメンバーを加えた編成。インキネンがギアを入れると、元々の野太い声がさらに一段と音量を増し、信じられないような「音圧」が生まれる。それが聴衆を圧倒した。

 インキネンは有終の美を飾った。2008年4月の日本フィル初登場を覚えている。才能豊かで日本フィルとの相性も良かった。それから15年。すっかり成長した。スケールの大きな自信あふれる指揮ぶりに感嘆する。
(2023.4.28.サントリーホール)
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