Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

エゴン・シーレ展(3)

2023年03月04日 | 美術
 エゴン・シーレ展。シーレの作品については2月3日と2月15日のブログで触れたが、他の画家の作品にも触れたいものがあるので、もう一度。

 シーレといえば反射的にクリムトとなるが、何点か展示されているクリムトの作品の中では、「ハナー地方出身の少女の頭部習作」が気合の入った作品だ。キャプションによると、学生時代の制作と推定されるそうだ。顔がまるで生きているように描かれている。クリムトの並々ならぬ力量が感じられる。

 もっとも、本展ではクリムト以上にリヒャルト・ゲルストルの作品がまとまっている。ゲルストルは音楽好きのあいだでも多少知られた画家だ。ゲルストルは音楽も好きだった。作曲家のシェーンベルクはゲルストルと親交を結んだ(シェーンベルクは、一時は画家になろうかと思ったくらい、美術も好きだった)。年齢はシェーンベルクが9歳上だが、二人はお互いを認め合っていた。

 だが、ある事件が起きた。ゲルストルはシェーンベルクの妻のマティルデと親しくなり、1908年に駆け落ちした。周囲は大騒ぎになった。マティルデを説得し、結果マティルデはシェーンベルクのもとに帰った。シェーンベルクもマティルデを受け入れた。一方、傷心のゲルストルは自殺した。

 わたしはそのエピソードが記憶に残っていたので、初めてレオポルド美術館を訪れ、思いがけずゲルストルの「半裸の自画像」(本展にも展示されている。画像はHP↓に掲載)に出会ったとき、その出会いに半ばうろたえた。こういう人物だったのか、と。腰から下を白い布で覆い、上半身は裸。まるで運命に魅入られた人物のように見えた。展示室にはヘッドフォンが備えられていた。ヘッドフォンを耳に当てると、シェーンベルクの弦楽四重奏曲第2番が流れてきた。上記の事件が起きたころに作曲された曲だ。

 本展で「半裸の自画像」に再会した。背景の紺色は記憶よりも明るかった。そこから浮き上がる人物は「私はここにいる」と言っているように見えた。

 ゲルストルの展示作品の中に「田舎の二人」という作品があった。手前に女性、その奥に男性が描かれている。二人とも野外の明るい日射しのもとに座っている。だがどういうわけか、二人の顔が判然としない。目鼻がはっきり描かれていないのだ。最初みたときは、未完の作品かと思った。キャプションを読むと、女性はマティルデ、男性はマティルデの兄のツェムリンスキー(シェーンベルクに作曲を教えた人だ)という説があるとのこと。制作は上記の事件のあった1908年。顔をはっきり描かなかったのは、なにか意図があったのか。
(2023.1.31.東京都美術館)

(※)本展のHP
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