Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

新国立劇場「カルメン」

2021年07月04日 | 音楽
 新国立劇場の新制作「カルメン」の初日。ポイントはいくつかあるが、まずなんといっても、タイトルロールのステファニー・ドゥストラックの素晴らしさだ。声量が豊かで、どの声域も滑らか、また表現も濃やかで、今回の歌手の中では群を抜いている。語弊があるかもしれないが、当プロダクションはこの歌手のためにあるとさえ思った。

 ドゥストラックはフランス出身で、キャリアのスタートはウイリアム・クリスティに見出されたこと。なので、当初はバロック・オペラを歌っていた。わたしはそれを知らなかったが、休憩時間中にプログラムを読んで知り、驚いた。カルメンの歌唱とバロック・オペラとが結びつかなかったからだ。帰宅後、新国立劇場の情報誌「ジ・アトレ」のバックナンバーを読んでさらに驚いた。ドゥストラックはクリスティ指揮の「レ・パラダン」の日本公演で2006年に来日していた。その公演ならわたしも観た。日記をひっくり返すと、たしかにアルジ役でドゥストラックの名が載っていた。

 ともかくドゥストラックは大器だ。すでにベルリン・ドイツオペラなどでカルメンを歌っている。現代の最先端のカルメン歌いであることはまちがいなく、またカルメンにかぎらず、今後さらにレパートリーを広げる豊かな可能性を秘めた歌手だ。

 当プロダクションのもうひとつのポイントはアレックス・オリエの演出だ。2019年の「トゥーランドット」では核シェルターの内部のような地下世界を舞台にしたが、今回はロック・フェスティバルのようなイベント会場を舞台にした。無数の鉄パイプによる仮設のステージが組まれている。視覚的なインパクトは「トゥーランドット」に劣らない。

 カルメンはロック歌手のスターだ。現代感覚の物語が進行する。たいへんおもしろかったのだが、ひとつ疑問を感じた点は、エスカミーリョは「闘牛士」という設定を踏襲したことだ。第4幕の前半に多彩なロック歌手その他が登場する中で、エスカミーリョが闘牛士の衣装で登場したときは、どうしようもない陳腐さを感じた。もしかするとその陳腐さはオリエが意図した異化効果だったかもしれないが。

 大野和士の指揮はていねいにドラマを追っていた。カルメンの登場の歌「ハバネラ」では第3節のテンポをぐっと落としたが、ドラマが停滞することはなかった。エスカミーリョの「闘牛士の歌」では、オーケストラの出だしが熱狂的で、思わず惹きこまれたが、残念ながらエスカミーリョ役の歌手が低調だった。

 ドン・ホセ役の村上敏明が不調とのことで、演技と台詞のみをつとめ、歌は村上公太が舞台の袖で歌った。村上公太は大健闘だった。
(2021.7.3.新国立劇場)
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