Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

白井聡「国体論 菊と星条旗」

2018年07月10日 | 身辺雑記
 森友・加計問題を巡って国会、中央省庁その他で起きていることと、その一方で底堅い動きを続ける内閣支持率とをどう考えたらよいのか、その解明の糸口がつかめればと思って、白井聡(しらい さとし)の「国体論 菊と星条旗」(集英社新書)を読んでみた。

 本書の骨子は、明治維新(1868年)から現在までの日本の近現代史を、明治維新から太平洋戦争の敗戦(1945年)までの前半部分と、敗戦から現在までの後半部分とに分け、前半部分を、天皇を頂点とする「国体」の形成期、安定期、崩壊期の3段階で把握し、後半部分も、再編された「国体」の同様の3段階で把握することにある。

 わたしなどは、日本の近現代史というと、明治、大正、昭和、平成という元号で捉えがちだが、それよりも、日本の敗戦という大きな区切りで分け、その前と後とで捉えることは、新鮮で、また説得力がある。

 かつ本書で特徴的な点は、前半部分で辿った「国体」の形成、安定そして崩壊の過程が、後半部分でも、「国体」が再編された上で、繰り返されているという指摘だ。

 では、「国体」の再編とは何か。いうまでもなく、天皇制は戦後も維持されたが、戦後は天皇を上回る位置にアメリカがいる、という形での再編だった、というのが本書の見方だ。具体的には日本国憲法と合わせて日米安保条約が存在し、実質的には日米安保条約のほうに実効性があるという状況を生んだ。

 そして今、わたしたちは再編された「国体」の形成期と安定期を過ぎ、崩壊期に入っている、と著者はいう。明治維新から敗戦までの前半部分は77年続いたが、敗戦から現在までの後半部分もすでに73年たち、崩壊がどのような形で訪れるか、それは予測できないにしても、崩壊は近づいている、と。

 以上が本書のフレームワークだ。それ自体ひじょうに興味深いが、そのフレームワークに沿って解釈されるディテールが、また興味深い。たとえば、今上天皇の退位の「お言葉」の意味は何だったか。それに対する安倍首相の対応はどうだったか。その一方で、トランプ大統領とのゴルフ外交や、その近親者の歓待は何を意味するか、等々。

 で、冒頭の「内閣支持率の底堅い動きはなぜか」だが、それが崩壊期の現象の一つだと考えると、分からないでもない。しかもそれが戦前~戦中期の「最も内省の稀薄な意志と衆愚の盲動」(坂口安吾の代表作「白痴」より)の繰り返しだとしたら、これほど恐ろしいものはない。
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