Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

大野和士/都響

2017年07月01日 | 音楽
 大野和士らしい問題意識が感じられるプログラム。1曲目はブリテンの歌劇「ピーター・グライムズ」から「パッサカリア」。弦の底光りするような透明感のある音が美しい。緊張感が漲るシャープな造形。弓がしなるような‘しなやかな’うねり。前プロの範疇を超えた本気度満点の演奏だ。

 2曲目は細川俊夫の「弦楽四重奏とオーケストラのためのフルス(河)―私はあなたに流れ込む河になる―」。2014年の作品で今回が日本初演。弦楽四重奏はアルディッティ弦楽四重奏団。オーケストラは2管編成で弦は12型。演奏時間は約18分。

 弦楽四重奏とオーケストラのための作品というと、サントリー芸術財団のサマーフェスティヴァル2014で演奏されたパスカル・デュサパンの弦楽四重奏曲第6番「ヒンターランド」を思い出す。弦楽四重奏曲と銘打ちながらも、実際はオーケストラを伴う曲で、ヒンターランド(後背地)という副題が示すように、オーケストラは弦楽四重奏の向こうに広がる空間のように感じた。

 一方、細川俊夫の本作は、もっと積極的に弦楽四重奏とオーケストラとの相互浸透が図られているようだ。弦楽四重奏がアンサンブルとして自己完結(または孤立)するのではなく、時には弦楽四重奏を4人の奏者に解体することも辞さずに、オーケストラの中に溶解する。

 わたしがもっとも印象的に感じた点は、曲の後半に弦楽四重奏のカデンツァが出てくるが、チェロ、ヴィオラ、第2ヴァイオリン、第1ヴァイオリンの順に激しい音型を弾くそのカデンツァが、弦楽四重奏団に任せられるのではなく、大野和士が指揮をしていたことだ。そのときの弦楽四重奏は、一つのまとまったアンサンブルというより、4人の奏者のように感じられた。

 ついでながら、N響が2018年1月に日本初演するジョン・アダムズの「アブソリュート・ジェスト」も弦楽四重奏とオーケストラのための作品だ。それもまた楽しみ。

 3曲目はスクリャービンの交響曲第3番「神聖な詩」。ブリテンとも細川俊夫とも違うスクリャービンの音の‘熱量’が放射される。わたしの頬は火照るようだった。複雑に入り組んだ音楽の進行が、迷走せずに、力強い起伏のあるドラマとして表現された。

 大野和士と、読響を振ったシモ―ネ・ヤングと、今日もまたN響を振るパーヴォ・ヤルヴィとは同世代だ。三者三様の個性がその充実のときを迎えている。
(2017.6.30.東京オペラシティ)
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