Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

マーク=アンソニー・ターネジ:Hibiki

2016年11月13日 | 音楽
 サントリーホール30周年記念委嘱作、マーク=アンソニー・ターネジ(1960‐)の「Hibiki」が初演された。大野和士指揮都響の演奏。

 1曲目に30年前のサントリーホール開館に当たって芥川也寸志(1925‐1989)に委嘱された曲「オルガンとオーケストラのための響」(1986)が演奏された。祝典的な機会音楽のはずだが、暗い音色が織り込まれている感じがする。作曲者晩年の作品だからだろうか。大野和士/都響の演奏はパワフルだった。

 2曲目は「Hibiki」。全7楽章からなる曲。第1曲「Iwate」はカラフルな電飾が明滅するような音楽。第2曲「Miyagi」は暗く緊張した地響きのようなテクスチュアに激しい打音が何度となく打ち込まれる。

 本作は東日本大震災5年の追悼の想いが込められた曲でもある。最後の第7曲は「Fukushima」。遠い海鳴りのようなオーケストラの音の上に児童合唱のFukushimaの呟きがいつまでも反響する。終わらない苦しみ。

 曲はそのまま消え入る。拍手が起きた。ブラヴォーの声は、最初はわずかに出たような気がするが、長くは続かなかった。わたしは打ちのめされたような気持ちだった。

 曲の最後に再生への希望が見えたらよかったろうか。でも、そんな終わり方は、今なお故郷に帰ることができずに避難生活を送っている福島の人々には、安易に思われるのではないだろうか。そんな希望など演奏会の華やぎの中の傲慢かもしれない。

 第3曲「Hashitte Iru」は宗左近(1919‐2006)の長篇詩「炎える母」(1967)の中の「走っている」をテクストにした曲(英訳)。第二次世界大戦下の東京で、空襲のさなか、母の手を取って逃げる詩人が、手を離した瞬間、母が焔に包まれてしまう‥。単行本で300頁にも及ぶ長篇詩は、詩人の自責の念で埋め尽くされているが、音楽は言葉の繰り返しから生まれるスピード感にしか関心が向いていないようだった。

 第4曲「Kira Kira Hikaru」はマーラーの交響曲第3番の児童合唱を彷彿とさせる曲。第5曲「Suntory Dance」はノリのよいオーケストラ曲。第6曲「On the Water’s Surface」は近松門左衛門の「曾根崎心中」から心中の道行をテクストにした曲(英訳)。この曲では藤村実穂子の深い歌唱に感銘を受けた。
(2016.11.12.サントリーホール)
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