Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ルサルカ

2011年11月30日 | 音楽
 新国立劇場の「ルサルカ」は2009年のノルウェー国立オペラ・バレエのプロダクションだ。主人公ルサルカをはじめ登場人物の心理描写が細やかなことが印象的。とくに注目したのが第2幕だ。幕開き早々からルサルカと王子との気持ちのすれ違いが描かれ、さらに客人たちの踊りがルサルカを無言のうちに追い詰める。孤立無援のルサルカは痛ましいほどだ。

 全体的にはルサルカの夢想という枠組みで構成されている。序曲が始まると森のなかのルサルカの家が現れる。ルサルカはベッドにいるが眠れない様子だ。横の椅子では父ヴォドニクが居眠りをしている。窓には煌々と月の光が射している。父ヴォドニクは目を覚まして階下に降りて行く。ルサルカはベッドから起き上がり鏡のなかの自分を見つめる。少女ルサルカは大人の恋を夢見る。

 そこから第1幕になる。ルサルカの家は消えて、湖の底の水の精たちの世界になる。水の揺れを描く青い照明が美しい。第1幕と第3幕はこの青の世界だ。第2幕は王子の宮殿なので、赤が中心になるが、父ヴォドニクが現れてルサルカを慰める場面では青い照明が揺れる。

 その他、衣装やメイクをふくめて、この舞台は美しく、しかも現代的だ。反面、ボヘミヤの森のメルヘンではない。わたしは気に入った。何年も前にメトロポリタン歌劇場で観たときには、ボヘミヤの森のメルヘンだったが(オットー・シェンクの演出。ルネ・フレミングが歌った)、それよりもよかった。演出はポール・カラン、美術・衣装はケヴィン・ナイト、照明はデイヴィッド・ジャック。いずれもイギリス人だろう。

 ルサルカはオルガ・グリャコヴァ。今年6月に「蝶々夫人」を歌う予定の歌手がキャンセルしたときに、急きょ来日して急場を救った歌手だ。そのときも美貌の歌手だと思ったが、今回も美しかった。声も立派だ。もっとも、第1幕の「月に寄せる歌」や第3幕冒頭のアリアでは、あまりチェコ語らしく聴こえなかった。

 その点、王子を歌ったペーター・ベルガーは、スロヴァキア人だけあって、チェコ語に問題がない。今回のキャストのなかでは唯一のチェコ系の歌手だ。声も甘美だった。

 指揮はチェコ人のヤロスラフ・キズリング。本作を味わうにはなんの不足もない演奏だが、その上であえていうと、細部の詰めが甘く、ぼってりした演奏だった。これは東京フィルのせいかもしれない。この壁を乗り越えるのは大変だ。
(2011.11.29.新国立劇場)
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする