Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

鳴砂

2011年08月01日 | 音楽
 仙台オペラ協会が制作した「鳴砂」(なりすな)。作曲は仙台の合唱指導者、岡崎光治(おかざき・みつはる)(※)さん、原作はNHK仙台放送局のラジオドラマ作家・演出家、菅原頑(すがわら・がん)さん。1986年に初演された作品だ。今回、新国立劇場の地域招聘公演として同劇場に招かれた。

(※)「崎」のつくりは上が「立」、下が「可」。

 鳴砂とは、砂浜を歩くとキュッ、キュッと音を立てる現象で、日本各地で見られるそうだ。古くから土地の人々に愛されてきた。なんともロマンティックな現象だ。これはまた、文明によって汚されていない、自然環境の豊かさの象徴でもある。

 宮城県には鳴砂の砂浜がいくつかあるが、そのなかには、東日本大震災により失われたものもあるそうだ。鳴砂をつくったのも自然、失わせたのも自然、ともに自然がすることなので仕方がない。

 今、女川原発がある場所にも、昔は鳴砂があったそうだ。今ではコンクリートで固められている。この場合はどう考えたらよいのだろう。

 オペラ「鳴砂」では、ある日、難破船が打ち上げられ、青く光る謎の美女エテルが現れる。村の青年ミナジは惹かれる。ミナジを愛する盲目の娘イサゴは、正気を失う。

 女川原発の運転開始は1984年、その2年後に初演された本作は、当時いろいろ話題になったそうだ。今回初めて観るわたしも、寓話性を感じた。寓話の対象は、さまざまに解釈できるが、その可能性の一つは、やはり原発問題だ。それは今だからこそ、でもある。原発事故が現実に起きて、人々の生活を奪っている今だからこそだ。

 もっとも、本公演の主催者側には、原発問題と関連して捉えられるのを、慎重に避けているふしが感じられた。作品を上演することが最優先で、そのためには、国にたいする配慮、あるいはスポンサーにたいする配慮が働いたのかもしれない。

 そうではないかもしれないし、かりにそうであったとしても、仕方がないとは思う。けれども、今でなくては見えない面が、せっかく見える機会があったのに、それをつかまえそこなったとは思う。

 でも、これは二義的なことだ。3.11以降の喪失と混乱の日々にあって、よくここまで準備し、公演にこぎつけたものだと、素直に思う。終演後、カーテンコールが続くなかで、幕が早く上がりすぎたのか、指揮者の山下一史さんと同協会音楽監督の佐藤淳一さんが抱き合っているのが見えた。会場からは温かい笑いが起こった。
(2011.7.31.新国立劇場中劇場)
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