Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

インキネン&日本フィル

2010年12月11日 | 音楽
 12月の在京オーケストラには2人の若い首席客演指揮者が登場する。日本フィルのピエタリ・インキネンと都響のヤクブ・フルシャ。ともに個性を反映したプログラムを組んでいる。昨日はインキネン指揮の日本フィルの定期。インキネンは今シーズンから来シーズンにかけてマーラーを取り上げる。前プロがシベリウスというのがユニークだ。

 1曲目はシベリウスの組曲「クリスティアン2世」。この曲はシベリウスの親友のアドルフ・パウルという劇作家の劇にシベリウスがつけた音楽とのこと。交響詩「フィンランディア」や交響曲第1番と同時期の作品だ。第1曲「ノクターン」は、ヴァイオリンの息の長い旋律と、ヴィオラの舞曲調の動きの応答で始まる。いかにも若き日のシベリウスの音楽だ。以下、第5曲「バラード」まで性格的な音楽が続く。私たちはシベリウスのさまざまな曲に親しんでいるつもりだが、実はごく限られた曲しか知らないことがよくわかる。未知の曲がたくさんあり、私たちの発見を待っているのだ。

 インキネンの指揮は、オーケストラを煽らず、アンサンブルを整え、音楽と一体になったもの。若い伸びやかな音楽性が、曲に浸透し、濾過され、湧出してくる。

 日本フィルの演奏には、やはり伝統があるのか、と感じさせるものがあった。渡辺暁雄さんが亡くなってから20年になり、メンバーの大半は入れ替わったが、それでもなにか絶対的なものを感じた。もしかするとそれは私の幻想だったかもしれない。でも、そうあってほしいという願望は裏切られなかった。

 2曲目はマーラーの交響曲第1番「巨人」。第1楽章冒頭のフラジオレットの最弱音から、シベリウスと同様、このオーケストラの日常のレベルをこえた演奏になることを予感させた。デフォルメされたところのない、端正で、清冽な演奏。いつもの大雑把さが影をひそめていた。

 インキネンをみていると、まだ20代だったころのビエロフラーヴェクの日本フィル初登場を思い出す。音楽的な筋のよさが抜きんでていた。しかも個性を主張するに性急ではなかった。インキネンとビエロフラーヴェクではレパートリーがちがうが、資質的には似ている。

 日本フィルは、今はまだリハビリ中だ。インキネンが振ると、生まれ変わったような演奏をする。この水準を維持して、聴衆が戻ってくるのを待つしかない。ラザレフも契約を5年延長したそうだ。ラザレフともども、日本フィルを託したい。
(2010.12.10.サントリーホール)
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