Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

飯守泰次郎&東京シティ・フィル「第九」

2010年12月29日 | 音楽
 気がついてみたら、今年も年末になってしまった。この時期になると、(もう何年も前のことだけれども)年末年始を利用して、ベルリンに行ったことを思い出す。ベルリンにはオペラ劇場が三つもあるし、オーケストラも、東京ほどではないにしても、いくつもある。大晦日にはそれぞれ個性的なオペラやコンサートをやっていた。そのなかでマレク・ヤノフスキ&ベルリン放送交響楽団の「第九」を聴きに行った。モノラル録音で聴く往年の巨匠のような演奏。会場のコンツェルトハウスを埋めた聴衆の熱狂がすごかった。ヤノフスキのベルリンでの人気はひじょうに高いそうだが、実感としてわかった。

 さて、昨日は仕事納め。去年は夜遅くまで飲んだが、今年は飯守泰次郎&東京シティ・フィルの「第九」の演奏会があるので、途中で抜け出した。普通より少し遅めの19:30開演だったので助かった。

 演奏はヤノフスキと似ていなくもなかった。あらゆる演出を排して、虚心坦懐にスコアと向き合ったもの。功名心など微塵もなく、ただただベートーヴェンの音楽に肉薄しようとする演奏だった。

 この演奏会はベートーヴェン交響曲全曲シリーズの第4回でもあった。第1回から続けているマルケヴィチ版による演奏。すでに明らかなように、マルケヴィチ版による演奏とは、膨大な校訂報告を伴うマルケヴィチ版と向き合うことによって、飯守さんが自らのベートーヴェン解釈を洗い直していることと同義だ。言い換えるなら、私たちは飯守さんの総決算に立ち会っているわけだ。

 弦は16型(第一ヴァイオリンから順に16-14-12-10-8の編成)。木管は倍管(原譜は2管編成だが、これを各4人にする編成)だった。そのわりには鳴っていなかったのはなぜだろう。

 第1楽章冒頭は時間が止まったような感覚。この演奏は悠然とした遅いテンポかと思いきや、むしろ速めのテンポで進んでいった。第2楽章も速いテンポ。第3楽章は遅めのテンポだったと思うが、粘らないので、あまり遅さを感じなかった。第4楽章もことさら面白く聴かせようとはせず、スコアをそのまま鳴らそうと努めていた。全体に淡々とした印象だが、終わったときには、感動がこみあげてきた。多分この演奏がしっかりドイツ語で語っていたからだ。手垢にまみれた日本の歳時記の「第九」とは一線を画していた。

 これで今年も終わり。では、皆さま、よいお年をお迎えください。

(2010.12.28.東京芸術劇場)
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