Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

騎士オルランド

2008年10月26日 | 音楽
 北区が毎年この時期に開催している「北とぴあ国際音楽祭」で、ハイドンのオペラ「騎士オルランド」が上演された。アーノンクールの名盤でその音楽の素晴らしさはよく知っていたが、舞台をみることができるのは遠い先だと思っていたので、嬉しい驚きだ。

 粟國淳の演出は、とくに目新しい解釈があるわけではなかったが、音楽と舞台上の動きがよく合っていた。また、歌手たちの立ち位置もワンパターンではなかった。横田あつみの美術はシンプルなもので、舞台正面を額縁で囲み、それと同じ額縁が、一つは床面に斜めに敷かれ、もう一つは正面奥の壁に少し傾いて掛けられていた。その他の装置は一切なし。笠原俊幸の照明がそれらの二つの額縁に色彩豊かな光をあて、また、さまざまな映像を映し出す。これだけの舞台だが、私は飽きなかった。
 歌手はみな健闘した。その中でも、臼木あいという若いソプラノ歌手が、嬉しい発見だった。やや硬質な声で、歌に正確さがあり、イタリア語の発音も明瞭だ。現在はザルツブルグに留学中とのことで、将来が楽しみだ。
 オーケストラはいつものとおり寺神戸亮&レ・ボレアード。寺神戸亮の指揮は、一昨年のこの音楽祭でやったハイドンのオペラ「月の世界」に比べて、積極性が増したと思う。レ・ボレアードはオリジナル楽器のオーケストラ。日本にもいつの間にかオリジナル楽器の演奏者が育っているという感慨をもった。

 このオペラでは、騎士オルランドとその宿敵のバルバリア王ロドモンテは、いつもいきり立った滑稽な音楽が与えられ(もっとも、オルランドの音楽の一部にはシリアスさがあるが)、女王アンジェーリカとその恋人メドーロは、真情あふれる音楽が与えられ、また、オルランドの従者パスクワーレとその恋人エウリッラは、素朴で庶民的な音楽が与えられ、魔法使いアルチーナは物々しい音楽が与えられている。そのような具合に、音楽の性格分けが実に明快だ。

 それにしても、これはだれでも気がつくことだろうが、このオペラはモーツァルトのオペラを連想させる点が多い。従者パスクワーレは「ドン・ジョヴァンニ」のレポレッロに似ているし、パスクワーレとその恋人エウリッラは「魔笛」のパパゲーノとパパゲーナにそっくりだし、メドーロはその優柔不断さで「ドン・ジョヴァンニ」のドン・オッターヴィオを連想させる。アルチーナは「魔笛」の夜の女王そのものだ。
 「騎士オルランド」の作曲は1782年で、同年にエステルハーザ宮殿で初演された。大変好評だったようで、83年と84年にも再演されている。ウィーン初演は1791年のようだ(当日のプログラムによる。アーノンクール盤の解説では1792年となっている)。一方、モーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」の作曲・初演は1787年で、「魔笛」は91年だ。
 私には、どうしても、モーツァルトはこのオペラを知っていたのではないか、という疑問がわいてくる。おそらく、可能性はあると思う。モーツァルトがウィーンに住み始めたのは1981年で、間もなくハイドンと固い友情をむすぶ。その交友の中で、ハイドンの当時の成功作「騎士オルランド」のことが話題にのぼり、譜面をみたことさえあったかもしれない。もしみたとしたら、モーツァルトはハイドンをたたえなかったろうか。
 美しいエピソードに事欠かない二人の交友関係だが、これもまた微笑ましいエピソードになりそうだ。
(2008.10.25.北とぴあ「さくらホール」)
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