後期ゴシック彫刻・市民運動・演劇教育

小学校大学教師体験から演劇教育の実践と理論、憲法九条を活かす市民運動の現在、後期ゴシック彫刻の魅力について語る。

〔126〕『フィンランドは教師の育て方がすごい』は教師養成の貴重なヒントになります。

2017年01月27日 | 図書案内
  私は埼玉大学で非常勤講師として9年間、特別活動論と生活科指導法を教えてきました。そして現在は、白梅学園大学で教育実習指導にあたって5年を終えようとしています。
  最近、教育実習の学生に1冊の本を紹介しました。出版されたばかりの斎藤孝著『新しい学力』(岩波新書、2016・11)です。2020年に予定されている学習指導要領の大改訂で目指しているものは何なのか、それらをコンパクトにわかりやすく提示してくれています。文科省の動向を俯瞰するものとして手っ取り早い出版物です。
 著者はその流れを否定するのではないのですが、教育改革はそれだけでは不十分であり、教師は伝統的な方法も加味しながら実践していくのが望ましいとしているのです。
  参考までに『新しい学力』の内容をもう少し紹介してみましょう。

●『新しい学力』斎藤孝、岩波新書、2016・11
〔トビラ〕2020年に予定されている文科省学習指導要領の大改訂。〈新しい学力観〉に沿った教育現場の改革はすでに始まっている。教科の再編、アクティブ・ラーニングの導入、評価基準の変化──。大きな変化の中で、本当に求められる〈真の学力〉とは何だろうか? 教師も親も学生も必読、〈人〉を育てる教育への、熱意あふれる提言の書!

  読んでいて次の記述に引っかかりました。OECDのPISA(学習到達度調査)についてのことです。

「一時期、この調査で上位にあったフィンランドは、思考力を伸ばす教育方法を実践しているとして注目された。もちろんその教育方法にはいいところもあるが、少なくとも二〇一二年の結果では、フィンランドは三項目とも日本より下位に位置する。」(69頁)

  確かにそのとおりなのですが、なにか違和感をもったのです。そして、フィンランドの教師養成はどうなのか、知りたくなったのです。そんな時、うまい具合に『フィンランドは教師の育て方がすごい』という本が手に入りました。読んで教師養成をする立場の人は一度は目を通しておきたい本だと思いました。表紙の写真に意表を突かれました。小学生2人を指導している、ペンダントを付けた髭面のTシャツの男性は担任の教師ではなく大学の教授でした。大学教師が教育現場に赴くことはまれなことではないようなのです。
  著者の福田誠治さん(現・都留文科大学学長)とは一度だけ出会っています。ラボ教育センターの講演会でのことでした。

●『フィンランドは教師の育て方がすごい』福田 誠治、亜紀書房 2009/3
 〔オビ〕“プロの教師”を育てる仕組みと理念に注目せよ!
テストもないのに子どもたちが勉強する国。
教師が専門職として人気も倍率も高く、国民に尊敬される国。
そして、PISA(学習到達度調査)でつねにトップクラスの国。
その秘密は「揺るがぬ教育理念」と「徹底した実践主義」にあった!
日本と同じく新保守主義の強風に見舞われながらも、格差も競争もない、
子ども一人一人の学力を伸ばす教育体制を作り上げた
フィンランドの“奇跡”を検証する。

〔目次〕
はじめに 足に靴を合わせるように、子どもに学校を合わせる
第1章 フィンランドの教師の一日
1 労働時間/2 学校で何をしているのか/3 授業前後/4 補習の種類/5 学校を出てから帰宅まで/6 帰宅後および休暇/7 学年歴/8 教師の福利/9 教師のゆとりは子どもに返っていく/10 専門家として育てる/11 現場に全権限を/12 教える教育から支援する教育へ/13 自己評価
第2章 フィンランドの教育の特徴とは
1 なぜフィンランドは学力世界トップクラスなのか/2 フィンランドの教育のどこに注目すべきなのか/3 教師の優秀さ/4 教師の仕事の中身/5 教師を信頼する社会と教師を生かし切る行政
第3章 カリキュラムが変わる、教育学が変わる
1 フィンランドにおける総合制学校の確立/2 フィンランドの教師養成とカリキュラムの歴史/3 カリキュラムの歴史と教師の役割の変化/4 新自由主義の流入/5 一九九四年『国家カリキュラム』/6 カリキュラムの影響と評価/7 新カリキュラムの根底には構成主義/8 社会構成主義/9 教師も生徒も学習する/10 学力段階のブレイクスルーとカリキュラム改革の教育学的な意味/11 一人ひとりの子どもに対応する教師養成/12 平等概念の解釈変更/13 小規模学校こそ大切に/14 パラダイム転換とは何だったのか/15 フィンランドの教育現場はどれだけ変わったか/16 一九九〇年代の教育行政改革の影響/17 最近の教育改革/18 「探求型」教師養成の展望/19 学校評価/20 ボローニャ・プロセス──教師養成の展望とグローバリズム
第4章 探求的教師とは──フィンランドの教師養成制度
1 トゥルク大学にて/2 マルック・ハンヌラ教授からの聞き取り/3 トゥオモ・マキマウヌス君からの聞き取り/4 トゥルク教師養成専門実習校校長から/5 カイヤ・コルホネンさんの教育実習/6 カイサ・ヴェクストロームさんの教育実習/7 イナ・ラウリラさんの教育実習/8 教師は何ができるか──授業への関わり方/9 銃乱射事件への対応
第5章 OECDとEUの教育観の転換
1 北欧型教育の形成期/2 北欧型教育の発展期/3 北欧モデル対アングロサクソン・モデル/4 フィンランドとOECD、新自由主義/5 WTOとGATS/6 EUの教育方針の確立/7 OECDとDeSeCo──義務教育の学力をすり合わせる/8 社会も教室も異質な者の集まり/9 EUの知識観が変わる──知はオープンなもの/10 DeCeCo計画とPISA──考える力こそを/11 ロバート・パットナムと社会資本/12 社会資本とPISA型学力/13 日本の逆流──「低学力」批判という名の構成主義否定/14 テストのための教育は時代遅れで非効率
おわりに
注釈
フィンランド国家教育委員会『総合制学校カリキュラム大綱』(1994年)


  巻末のフィンランド国家教育委員会『総合制学校カリキュラム大綱』を読むだけでも十分価値がありそうです。さらにフィンランドの教師養成法には目を見張りました。専門職としての教師の位置づけが鮮明なのです。フレネ教育者と対比してみるのもおもしろいかも知れません。

〔トビラ〕フィンランドの教師養成法
①五年間の在学期間のうち、ほぼ半年(約二〇週)が教育実習に当てられる
②教師は情報伝達者や講義者ではなく、助言者であり学習案内者である
③教師はみな修士の資格をもつ
④教師や学校の善し悪しの外部評価はない
⑤「国家カリキュラム」(学習指導要領に相当)の解釈・運用は現場任せに
⑥学校査察も教科書検定もない





最新の画像もっと見る