後期ゴシック彫刻・市民運動・演劇教育

小学校大学教師体験から演劇教育の実践と理論、憲法九条を活かす市民運動の現在、後期ゴシック彫刻の魅力について語る。

〔357〕志真斗美恵著『追想美術館』は「絵のいのちがよみがえる」評論本です。

2021年04月12日 | 図書案内
 先日、洗練されたオシャレでハイセンスな表紙の『追想美術館』という美術評論本が作者の志真斗美恵さんから送られてきました。このブログでも紹介していますが、名著『ケーテ・コルヴィッツの肖像』や『芝寛 ある時代の上海・東京 東亜同文書院と企画院事件』を出版している方です。
 彼女は私と同世代の1948年生まれ、大学非常勤講師を40年以上続けてこられたそうですが、コロナ禍によりリモート授業になるというので退職されたそうです。そしてコロナの日々、今まで20年くらいにわたって訪ねた美術展を「追想の中で再訪する」ことにしたというのです。元になっているのは様々な雑誌や新聞に執筆された美術評論やご自身の講演記録でした。

 軽いタッチの表紙をめくると単なる美術評論の域を超えている本の世界が広がります。展覧会の作品を時代の背景や作者の思いに心寄せながら具体的事実に即してしっかりと記述されています。それぞれの展示内容が複眼的多角的横断的に評価・評論されているといえるでしょう。
 取り上げた展覧会・作者に通底するのは、あくまで虐げられている人民や民衆に寄り添ったものになっていることです。
 浅学の私が知らない美術家も多く登場するのですが、お馴染みのベン・シャーン、粟津潔、佐伯祐三、国吉康雄、竹久夢二、いわさきちひろ、ケーテ・コルヴィッツなどについても言及されています。多少なりとも交流のある石川逸子さんのお連れ合いの彫刻家・関谷興仁さんや面識はないが何冊か著書を持っている内田宣人さんの名を文中に見つけて心躍りました。

 一番興味深かったのは藤田嗣治の戦争画に関する記述でした。小栗康平の映画「FUJITA-フジタ」から書き出され、各地での戦争画展、北村小夜さんの証言(このブログ掲載)や秋山清の詩で締めくくっています。紛れもなくひとつの藤田嗣治論が展開されています。

 コロナ禍の今、『追想美術館』でじっくりと紙上美術巡りを楽しまれたらどうでしょうか。



●『追想美術館』志真斗美恵、績文堂出版、195頁、2021年2月

目次
1 美術館に行く 春・夏篇
木場と調布―桂ゆきと富山妙子
群馬・桐生―麦秋のベン・シャーン ほか

2 美術館に行く 秋・冬篇
和歌山城址―アメリカへ渡った二人 国吉康雄と石垣栄太郎
東京・横網と八広―二つの追悼式と竹久夢二 ほか

3 破壊から再生へ
再生への模索―セバスチャン・サルガド

4 女性たちのつくる平和
平和主義者として生きる―ケーテ・コルヴィッツ
母子像のこと―三・一一の後に

5 ケーテとともに
コスモスの咲く安曇野―いわさきちひろ
新潟で考える―ゴヤ、グロッス、そしてブレヒト ほか



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