わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

韓流映画界のミューズ、ペ・ドゥナの魅力

2009-09-07 18:41:12 | スターColumn

Img159 韓流映画界のミューズといえば、断然、ペ・ドゥナだと思う。彼女は、是枝裕和監督の最新作「空気人形」(9月26日公開)で、最高の魅力を発揮しています。彼女が演じるのは、孤独な男性(板尾創路)に愛玩される空気人形。空気人形とは、言ってしまえば、旧称ではダッチワイフ、いまでいえばラブドールのこと。その人形が、あるとき人間の心と魂を持つようになり、昼間ひとりで街を歩き始め、アルバイトの職を得て、恋人(ARATA)までできてしまう、という物語。原作は業田良家の短編漫画で、その抜群のアイディアと寓話性を生かして、是枝監督が人間の愛と孤独をテーマに、みごとな作品に仕上げている。
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 この作品を生かしているのは、もちろんペ・ドゥナのキャラクターと演技力です。是枝監督にいわせると、以前からペ・ドゥナといっしょに仕事をしたかったが、今回は、かたことの言葉(日本語)を話す人形という設定なので、ドンピシャと彼女にはまったというわけ。透明感の中に悲哀を秘めたペ・ドゥナの容姿。無表情な人形から、心を持つにつれて次第に人間らしさが育まれて成長していく、彼女の演技の移り変わりがみごと。映画は、そんな空気人形が抱える孤独と哀しみと、かすかな希望が、逆に都会に生きる周囲の人々の心を映し出すという設定になっている。「戯夢人生」や「花様年華」などの台湾の撮影監督、リー・ピンビンのカメラが、空気人形の見る心象風景を巧みに映像化しています。
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 ペ・ドゥナの代表作といえば、「ほえる犬は噛まない」(00年)に始まり、「子猫をお願い」(01年)、日本映画初主演の「リンダ リンダ リンダ」(05年)、「復讐者に憐れみを」(02年)、「春の日のクマは好きですか?」(03年)、「グエムル/漢江の怪物」(06年)といった異色作ばかり。決して大作・話題作ぞろいではないけれど、ポン・ジュノやパク・チャヌクら才能ある監督の作品がお好みのようです。また、彼女自身、美女でもカワイイ女優でもない。表面だけ見ると、一見不愛想だけど、常に自然体。あくまで俳優は監督の素材と心得ながら、いつの間にか等身大の個性をにじみ出させているという稀な女優です。彼女に言わせると、是枝監督は「技術より真心を大事にする相性のいい人」だそうです。


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