デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ハワード・ロバーツはベンチャーズの影武者だったのか!?

2009-05-17 08:38:49 | Weblog
 65年のアストロノウツに呆れ、66年のビーチボーイズに失望し、67年のTボーンズには腹を抱えて笑った。来日アーティストのライブはどうしてこれほどひどいのか。レコードではみな安定したプレイをしているのに、なぜ?という疑問からハリウッドの60年代ポップ・ミュージックの謎を解明したのは翻訳家の鶴岡雄二さんだ。著書「急がば廻れ’99」によるとアーティストはスタジオではプレイせず、かわりに一握りのスーパープレイヤーたちが影武者をつとめたのだという。

 その一握りのスーパープレイヤーとはドラマーのハル・ブレインや女性ベーシストのキャロル・ケイという膨大なレコーディングを残したミュージシャンや、バド・シャンク、バーニー・ケッセル、シェリー・マン等のジャズマンであり、そのなかにギタリストのハワード・ロバーツもいる。プレスリーをはじめ60年代のヒット曲の伴奏を手がけ、ジャズからポップス、フュージョンまで幅広い芸風を持ち、また音楽学校を起ち上げ後進のギター教育活動にも尽力した人だ。スタジオの仕事が多かったためジャズファンには馴染みが薄いが、正統的モダン・スタイルの安定したプレイと確かなテクニックはポップ・シーンでも際立っていた。

 キャピトルを中心にイージー・リスニングのリーダー作品を数多く残しているが、ヴァーヴ盤の「Good Pickin's」はビル・ホールマン、ピート・ジョリー、レッド・ミッチェル、スタン・リーヴィといったウェスト・コーストの仲間と録音した最もジャズ寄りの作品であろう。スタンダード中心の選曲で、「Will You Still Be Mine?」、「All the Things You Are」、「Lover Man」、そしてロバーツのギターをフューチャーした「Easy Living」が聴きものだ。指が絃に絡みつくのか、絃が押さえる指をよぶのか、指と一体となったギターは独特の美しさを弾きだす。三つのメイジャー・コードだけですむポップスでも丁寧に弾いたロバーツの音楽性は、まさにタイトルの「Good Pickin's」である。

 「急がば廻れ」は有名なベンチャーズのヒット曲で、本のタイトルから察しが付くと思われるが、ベンチャーズの録音にも影武者がいたことが明かされていた。ライブでも満足できる演奏をするベンチャーズのこと勿論全部ではないが、ハリウッドで録音された同じ日にハワイで演奏をしているデータもある。一世を風靡したベンチャーズのテケテケ・サウンドはもしかするとハワード・ロバーツだったのかもしれない。
コメント (26)
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