デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ロイ・ヘインズの愛車

2014-06-29 08:29:50 | Weblog
 CGを一切使わず実車のカー・アクションで話題の映画「ニード・フォー・スピード」を観た。車好き、それもスーパーカーに憧れる人にはたまらない作品だ。シェルビー・マスタングGT500をはじめ、ランボルギーニ・セスト・エレメント、価格は2億円ともいわれるブガッティ・ヴェイロン、そして最高速は440km/hに達するとされているケーニグセグ・アゲーラR・・・乗るどころか実際に走っている姿さえ見ることのない車が並ぶ。

 登場する車は車高が極端に低いことからガルウィング式というドアの開閉方式で、このジャケット写真のように開く仕組みになっている。車種はよくわからないが、デ・トマソ・マングスタに似たスーパーカーだ。おそらくロイ・ヘインズの愛車だろう。録音は1998年というからヘインズが72歳のときで、ダヴィッド・サンチェスにケニー・ギャレット、グレアム・ヘインズというフロントに3管を配したグループだ。実の息子もいるが、息子ほどの年齢の若手の背中を押すヘインズのドラムは力強い。後継者を育てるのがベテランの使命なら、ヘインズは立派にそれを成し遂げている。

 この「Praise」と題されたアルバムで注目すべき選曲は、「My Little Suede Shoes」だ。チャーリー・パーカーが作った曲で、初演はラテン企画で物議を醸しだした「Fiesta」に収められている。1951年の録音で、ダイヤルやサヴォイしか認めないパーカー・ファンにとっては親の仇のような作品だが、ジャケットのように明るく屈託のないメロディはパーカーの本質でもあるし、めくるめくアドリブは健在だ。このセッションのときのドラマーがヘインズで、パーカーと共演したことで大きな自信を得たことは容易に察しが付く。キャリアを積み重ねるうえで必要なのは揺るぎない自信を持つことなのだ。

 車のジャケットといえばヘインズのアルバムに1960年録音の「Just Us」がある。サンダーバードのコンバーチブルといえば聞こえがいいが、ポンコツに近い。40年も経つと愛車も変われば、ジャズシーンも変わった。ジャズがどのようなスタイルに変わっても、強力なビートで正確なリズムを刻むドラムは要になる。パーカーとのセッションから「Praise」までヘインズの力強さは変わらない。
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そこにはシャイで繊細なボビー・ティモンズがいた

2014-06-22 09:48:43 | Weblog
 ソウルフルでファンキー、この形容詞だけで出てくる名前が何人かいる。ボビー・ティモンズもその一人で、一音でそれとわかるあくの強いピアノだ。ゴスペルを基調とした「におい」を、「匂う」と感じるか、或いは「臭う」と鼻に付くかで大きく好みが分かれる。同時代のウィントン・ケリーやレッド・ガーランドに較べると人気が今一なのはソウル色漂う強烈な個性によるものだろう。

 ジャケット両サイドの文字とシャイなティモンズが妙にバランスを取っているのは「ソウル・タイム」で、リバーサイドに於ける2枚目のリーダー作だ。タイトルからしてアーシーで、ブルー・ミッチェルにサム・ジョーンズ、そして1960年当時の親分アート・ブレイキーという面子、そして選曲はアルバムタイトル曲をトップにメッセンジャーズのブルーノート盤「チュニジアの夜」で初演されたティモンズのオリジナル「So Tired」と続く。これだけでレコードに針を落とす前から音も聴こえてくる。レコードをかけるとここまでは予想通りの展開だが・・・

 次の曲名を見て驚いた。「The Touch Of Your Lips」とある。同名異曲も珍しくないので、これもティモンズの曲かと思ったが、聴いてみるとレイ・ノーブルの曲だった。イギリス出身のバンドリーダーで、代表作の「Goodnight Sweetheart」や「The Very Thought of You」と同じくメロディの美しさは類を見ない。レパートリーにしているチェット・ベイカーやビル・エヴァンスの例を挙げるまでもなく、繊細であることがこの曲を歌ったり演奏する条件になっている。ミッチェルがじっくりとテーマを歌い上げ、ティモンズのソロに引き継がれるのだが、玉を転がすようなシングルトーンで美を構築していく。まるで別人だ。

 ティモンズは参加したメッセンジャーズやキャノンボールのコンボでそのファンキーな才能を開花させたのは疑いないし、リフを重ねて次第に盛り上がっていきクライマックスに達するソロは「俗っぽい」という批判もあるが、同時にそれはジャズの醍醐味ともいえる。繊細なピアノを下敷きにこのスタイルが成り立っているのを聴き取れるなら、そのファンキーは良い「匂い」かもしれない。
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優雅に舞うプア・バタフライをバレルとウッズで聴いてみよう

2014-06-15 09:20:43 | Weblog
 1939年当時、ギターというとコードを弾く伴奏楽器だった。今のようにメロディを弾き、ホーン奏者と対等のソロを取った最初のギタリストはチャーリー・クリスチャンで、偶然オクラホマで演奏を聴いたプロデューサーのジョン・ハモンドが、金の卵とばかりにベニー・グッドマンのオーディションを受けさせる。勿論スイング王も納得する演奏で、即日メンバー入りだ。

 その後のギタリストは当然ながら、クリスチャンの影響を受け、ジャズギターの概念までもが大きく変わった。クリスチャンがジャズ・ギターの開祖と呼ばれる所以である。ケニー・バレルの「A Generation Ago Today」というアルバムはクリスチャンに捧げたもので、クリスチャンが在籍したグッドマンのコンボがレパートリーにしていた楽曲で構成されている。「Stompin' At The Savoy」をはじめ、「Wholly Cats」、「A Smooth One」、「Rose Room」といったギタリストなら世代を超えて一度は演奏する曲で、テクニックは勿論のこと表現力、歌心、さらに遊び心まで問われる曲と言っていい。

 なかでも素晴らしいのは、「Poor Butterfly」だ。プッチーニのオペラ「蝶々夫人」に触発されて生まれた曲で、優雅な舞を見せる蝶々のような美しいメロディを持っている。バレルの洗練された絃の輝きは勿論のこと、フィル・ウッズのバラード表現は絶品だ。ウッズというとジーン・クイルと組んだバンドや渡仏後に結成したヨーロピアン・リズム・マシーンでハードなアルトというイメージが強いが、叙情性あふれるバラード奏者としての一面を見逃してはならない。後半、倍テンポになるのだが、これが実にスムーズでグイグイ引きこまれる。

 通常バンドマンは他所での演奏を禁じられていたが、グッドマンは連日ミントン・ハウスに出かける才能あるギタリストを黙認していたのだろう。グッドマンの温情がなかったらバップの夜明けともういうべき貴重な演奏も記録されなかった。音楽的には素晴らしいグッドマンも人間性に問題があると言われているが、案外良い奴だったかもしれない。名前のように。
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歌う映画スター、トニー・パーキンス

2014-06-08 09:12:36 | Weblog
 ジャズ・ヴォーカルとポピュラー・ヴォーカルの違いはよく話題になる。これといった定義もないので、聴き手の主観に委ねられるようだが、この分類で困るのは中古レコード店だ。例えばトニー・ベネットの「霧のサンフランシスコ」が収録されているレコードはポピュラーの箱に置かれ、ビル・エヴァンスと共演したアルバムはジャズ・コーナーにあったりする。

 さて、このトニー・パーキンスの「From My Heart」はどの棚に入れよう。ヒッチコック監督の映画「サイコ」のイメージが強いトニーだが、二枚目俳優として数々の映画に出演しているし、シンガーとしても「月影のなぎさ」というヒット曲も持っている。分類するならポピュラーになるが、バックを見るとそうともいえない。「Urbie Green , HisTrombone and His Orchestra」で、トロンボーン奏者としてのグリーンを強調したクレジットになっている。更にアレンジはアル・コーン、メンバーはハル・マクジックをはじめジーン・クイル、ハンク・ジョーンズ、ミルト・ヒントンといった一流が並ぶ。

 バックがジャズバンドだからといってジャズ・ヴォーカルと呼べるわけではないが、トニーのジャジーな一面を大きくクローズアップしたアルバムで、ジャズ・コーナーに置かれていても何ら違和感はない。「Taking A Chance On Love」や「Speak Low」といったスタンダードに並んで、「Swinging On A Star」を取り上げている。ビング・クロスビーが主演した映画「我が道を往く」の主題歌だ。威勢のいいバックに乗って語りかけるように、そしてリズミカルに歌うトニーは粋というよりスマートといったほうが正しいだろうか。映画俳優の余技を超えた歌唱はジャズ・ヴォーカルといっていい。

 このレコードが入っていた中古レコード店の箱にはマリリン・モンローをはじめアン・マーグレット、ジェーン・ラッセル、ブリジッド・バルドー、ジェーン・バーキン、そして石原裕次郎に小林旭のレコードもあった。箱には「歌う映画スター」と書かれている。この手があったか。今度、この箱でトニー・パーキンスを見付けたら、ジャズ・ヴォーカルのコーナーにそっと移しておこう。
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マイルスは隠遁中、レスター・ボウイを聴いたか

2014-06-01 09:42:06 | Weblog
セントルイスのラジオ局の電話インタヴューで、「僕は2週間前にレスター・ボウイのインタビューをしたのですが、彼があなたについて話していました。ちょうど、AEC(アート・アンサンブル・オブ・シカゴ)とこの町にいたんです」、「ああ、彼らの演奏はかなりのもんだ」と答えたのはマイルスだ。「マイルス・オン・マイルス」(宝島社刊)というインタビュー集に紹介されている。

 マイルスが褒めたAECといえばステージ上に膨大な数の楽器を並べる多楽器主義のフリー・ジャズ・バンドで、正統派のジャズファンからは色眼鏡で見られる存在だ。確かにパフォーマンス性が強いが、ジャズの本質が即興にあるとすれば、多くの楽器を次から次へと演奏すること自体、即興のうえで成り立っているのでそれもジャズなのかもしれない。このバンドの中心的メンバーといえばトランぺッターのレスター・ボウイで、二つに分けた長い顎鬚と、白衣という新興宗教の教祖のようないでたちで知られる。この変わった意匠でさらに敬遠されのだろう。

 アヴァンギャルドな印象が強いが、トランぺッターとしてはルイ・アームストロングの伝統に根ざしたスタイルで、見た目よりも良く歌うし、音色も美しい。滅多にスタンダードを演奏しないが、1989年の「Serious Fun」で、「God Bless The Child」を取り上げている。ビリー・ホリデイが作詞作曲に加わった曲で、特徴のあるメロディに惹かれるのか多くのプレイヤーがレパートリーにしているジャズ向きのナンバーだ。先入観を捨てて聴いてみよう。ビリーの魂の叫びをトランペットで表現しているようだ。視覚以上のジャズ感覚がそこにある。

 先のインタビューは1980年8月3日に行われた。マイルスが自ら課した隠遁生活をしていたころだ。インタビューの最後に「もう一度、ステージに立とうと思っているか」と聞かれ、「たぶんな、いま、話があるのさ。どえらい大金が積まれているんだぜ」と。1981年の「ウィ・ウォント・マイルス」でそのライブが聴ける。沈黙を破ったライブはどことなくレスター・ボウイとAECの異次元を感じた。
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