デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

映画 BLUE GIANT でかかったソニー・スティット

2023-03-19 08:48:24 | Weblog
 ジャズを題材にした細野不二彦の「Blow Up! 」は熱心に読んだので、コミックは嫌いではないが最近はほとんど見ない。「BLUE GIANT」が映画化されたのをジャズ誌で知ったものの原作を読んだことがないし、アニメも苦手なのでスルーしていたが、ジャズ仲間が挙っていい映画だと言うので早速観た。昔の「鉄人28号」や「鉄腕アトム」の記憶しかないだけに綺麗な絵とスムーズな動きに驚いた。

 何より演奏内容が素晴らしい。上原ひろみが書いた楽曲はライブ毎にその会場で映えるように作られている。テナーの馬場智章は札幌出身で当地で聴いたこともあるが一段と成長していたし、石若駿は劇中のドラマーの上達に上手く合わせていた。最近はレコードが見直されているが、そんなファンがニヤリとするシーンがある。主人公が上京してふらりと入ったジャズバーで、ママが壁の引き戸を開けるとレコードがずらりと並んでいるのだ。5メートル、5段、推定5000枚、その中から選んだ一枚は・・・

 ソニー・スティットのジャズランド盤「Low Flame」で、ラベルがオレンジのモノラル盤だ。ジャズランドはリバーサイドの再発がメインのレーベルだが、このアルバムはオリジナル録音である。以前、拙ブログで話題にしたが、スティットはリーダーアルバムを作るのが趣味の人で、その数は優に100枚を超える。かつてSJ誌でディスコグラフィーを掲載していたが、抜けているものが多数あった。その多作の中からマニアックな1枚を選んだのは作者の石塚真一が攻めのアルトとテナーの寛ぎがお気に入りなのだろう。

 平日の昼間の上映なのにやたらと混んでいた。2月17日に封切され、一か月以上経った今も上映中だ。アニメ映画ファンや原作者の画が好きな方、人気俳優が声優を務めているのでそれが目当ての人もいるかもしれないが、多少ともジャズに興味がなければ観ない映画だ。ここからジャズミュージシャンを目指したり、ジャズクラブやジャズ喫茶の扉を開ける人が増えると嬉しい。ジャズはスゲー熱くて激しい・・・劇中のセリフだ。
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ウェイン・ショーターをリアルタイムで聴いた半世紀

2023-03-12 08:28:55 | Weblog
 3月2日に89歳で亡くなったウェイン・ショーターを最初に聴いたレコードはどれだったろうかとジャズを聴き始めた55年前に想いをめぐらす。田舎のジャズ喫茶もどきにリーダーアルバムはなかったので、メッセンジャーズの「Caravan」か、マイルスの「ESP」だ。それまでに聴いた力強いロリンズや激しいコルトレーンとは違い謎めいた印象だった。

 東京の本格的ジャズ鑑賞店で Vee Jay 時代の59年録音「Introducing」から「Wayning Moments」、そしてブルーノート時代64年の三部作「Night Dreamer」、「JuJu」、「Speak No Evil」と足跡を追うように聴いた。多彩な曲作りに圧倒される。続けて「The All Seeing Eye」、「Adam's Apple」、「Schizophrenia」。何かに憑りつかれたのか雰囲気が変わってきた。そしてリアルタイムで体験した69年録音の「Super Nova」。前作までのオカルティズムは消え、進む方向が変わったのを感じた。ソプラノ・サックスという天使の笑い声にも悪魔の囁きにも聴こえる音色がそう思わせたのかも知れない。

 2007年に「Super Nova」を拙ブログで話題にした。当時はコメント欄でベスト3企画を展開していて、多くの投票からトップに挙がったのは74年録音の「Native Dancer」だ。ウェザー・リポート在籍中の作品で、「ブラジルの声」と呼ばれるミルトン・ナシメントと組んでいる。美しい歌声とショーターの悟りの境地ともいえる深い音とフレーズが見事に調和した芸術性の高い作品だ。盟友のハービー・ハンコックが参加していてマイルス・バンドで切磋琢磨していた頃を彷彿させる。この時代のショーターにとって「動」がWRなら「静」がこのアルバムといえよう。

 80年代後期には「Atlantis」、「Phantom Navigator」、「Joy Ryder」と意欲的な作品を次々とリリースし、1995年の「High Life」はグラミー賞の最優秀コンテンポラリー・ジャズ・パフォーマンス賞に輝いている。2013年に発表した「Without A Net」は何と80歳。そして遺作となった「Emanon」まで常に進化していた。稀代のジャズ音楽家と同じ時代を過ごしたことに感謝したい。
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世界最高のドラマーを生涯支えたケイコ・ジョーンズ

2023-03-05 08:30:27 | Weblog
 ジャズ誌で忘れかけていた名前を見ることがある。一時は死亡説まで流れたジャッキー・マクリーンの5年ぶりの新作「Live At Montmrtre」とか、収監、入院を繰り返して半ば引退状態のアート・ペッパーが、「Living Legend」で復帰したという嬉しい話題もあったが、大抵は訃報である。今回もそれだ。ケイコ・ジョーンズが昨年9月に亡くなっていたことを知った。

 ツーショットのジャケット「Poly Currents」も、「Coalition」も、「Keiko’s Birthday Song」が収められた「Puttin' It Together」も久しく聴いていない。一度会ったことがある。正確に言うとライブ会場ですれ違っただけなのだが、印象は強かった。ウィントン・マルサリスとマッコイ・タイナーが参加した97年の「Tribute to John Coltrane : A Love Supreme」である。日本人離れの派手な服装の女性がスタッフ数名を従えて会場を歩いていた。立ち見も出るほどの盛況ぶりを見にきたのだろうか。数メートル手前からシャネルの香水が匂う。

 「Coalition」は70年録音のブルーノート盤で、ジョージ・コールマンとフランク・フォスターの2テナーにウィルバー・リトルのベース。このメンバーだけでかなり強烈なのだが、さらにコンガのキャンディドが参加してポリリズムを全面に打ち出した作品だ。トップに収められている「Shinjitu」はケイコ作で、エルヴィンのドラミングがより映える曲だ。生で見たエルヴィンは全身バネで、スティックを止めようにも止まらない。そして一体腕が何本あるのかと思うほどの複雑な音。フロントを煽るバスドラムとハイハット。楽器のセッティングはケイコというから驚きだ。

 ケイコはライブ前にステージに上がり、メンバーの紹介とエルヴィンの偉大さを語るのが習わしだ。10分を越える長話に「エルヴィンは世界最高のドラマー」とうフレーズが何度も出てくる。当時は退屈したトークも今となれば懐かしいし、鼻に残る強烈な香水もいい思い出だ。世界最高のドラマーを生涯支えた日本人。享年85歳。合掌。

敬称略
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