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デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ドルフィーのパイプの煙が『Benguiat Interlock】に吸い込まれる

2025-04-27 08:39:05 | Weblog
 関西の月刊ジャズ情報誌「Way Out West」の発行人でありグラフィックデザイン事務所JAZGRA代表の藤岡宇央さんが2月号で、エド・ベンギアトを話題にしていた。初めて聞く名前である。フォント界の巨匠と呼ばれる人でデザイン業界では著名な方らしい。書体デザイナーになる前はジャズパーカッション奏者としてウディ・ハーマンやスタン・ケントン楽団で活躍していたという。

 「PLAYBOY」をはじめ「Ford Motor」、「NY TIMES」、「Esquire」、映画「猿の惑星」のロゴが代表的な作品だ。プレスティッジとその系列レーベルのレコードジャケットも手がけていてシンバル・ワークを存分に楽しめるロイ・ヘインズの「CYMBALISM」、オリヴァー・ネルソンがアルト奏者として参加したジーン・アモンズ「Late Hour Special」、そしてパイプ愛好者が増えたというエリック・ドルフィー「IN EUROPE VOL.2」を藤岡さんは紹介していた。ベンギアトが59年に作った「Benguiat Interlock」と呼ばれる書体だという。ヨーロッパの「VOL.1」と「VOL.3」を並べると明らかに字体が違うのに気付かなかった。

 ジャケットのデザインというとピンク・フロイド「原子心母」やレッド・ツェッペリン「聖なる館」で有名な集団ヒプノシス。ヴァーヴ・レーベル草創期を飾ったデヴィッド・ストーン・マーチンのイラスト。ブルーノートは初期のポール・ベーコン、後期はフランシス・ウルフの写真を使用したリード・マイルス。プレスティッジやリヴァーサイドはエスモンド・エドモンズにドン・マーティン、トム・ハナン。ウエストはプレイボーイ誌のプレイメイトを撮ったハル・アダムスを起用したコンテンポラリー。かのように全体が一人のデザイナーの作品と思っていただけに独立したフォントと組み合わせたものがあるのは驚きだ。

 普段メールを送る時、設定したままで気にも留めない書体だが、パソコンのフォントを開いてみるとゴシックや明朝体、創英体だけでも相当な種類がある。印象が異なるので用途が違うのだろう。加えて教科書体に行書体、「Aptos」から「Wingdings」までアルファベットの文字列が並ぶ。それぞれ特徴があるのでその字体をデザインした人がいる。初めて知ったフォントの世界だが、本当に奥が深い。
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ロイ・エアーズが気鋭のジャズ・ヴァイブ奏者として注目された時代

2025-04-13 08:52:09 | Weblog
 1969年に大ヒットしたハービー・マンの「メンフィス・アンダーグラウンド」は正統派ジャズ・ファンに不評だったが、今思うとメンバーが凄い。ドン・チェリーの「Eternal Rhythm」に参加した直後のソニー・シャーロックに、ジャズとロックを融合させたバンド「フリー・スピリッツ」のラリー・コリエル、1曲だけとはいえWR結成前のミロスラフ・ヴィトウス・・・

 そして3月4日に亡くなったロイ・エアーズも参加しているのだ。8ビートに乗せたキャッチーなメロディからマンの歯切れのいいソロと、弦が切れるかと思うほどの騒音に近いシャーロックに続いて実にクールな響きとモダンジャズの枠を超えた斬新なフレーズのロイが出てくる。前後するが67年の「Virgo Vibes」は、ジャケットこそ今では死語になったサイケデリック調で、さすが時代を感じさせるが、2枚目のリーダー作ながらチャールズ・トリヴァーにジョー・ヘンダーソン、レジー・ワークマンという当時のシーンを引っ張るメンバーにひけを取らないソロに驚く。

 60年代後半といえばカントリーやクラシックに寄った「Duster」をリリースし、カーラ・ブレイと組んだ「A Genuine Tong Funeral」で現代音楽の要素を取り入れたゲイリー・バートンがいた。そしてブルーノートの新主流派名盤「Happenings」を発表し、「Total Eclipse」でハロルド・ランドと奔放なソロを展開したボビー・ハッチャーソンがいる。70年代初頭に結成した自身のバンド「ロイ・エアーズ・ユビキティ」から大きくスタイルが変わるまでの短い期間ではあったが、ミルト・ジャクソン以降、ジャズ・ヴァイブ界を牽引するこの2人に肩を並べる勢いがあったのがロイだ。

 マイルスが「Bitches Brew」を録音した69年以降、電化によりジャズの流れが大きく変わる。右に倣えのフュージョン派もいれば、頑なにスタイルを守るのもいた。独自の音楽性を完成させるのは容易なことではない。ユビキティ以降ジャズ・ファンが離れるもネオ・ソウルのゴッドファーザーと呼ばれ、クラブ・ミュージック・ファンに愛されたロイ・エアーズ。享年84歳。合掌。 
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リー・コニッツのユーモアとエスプリ

2025-03-30 08:30:10 | Weblog
 「ミュージック・フォー・ブラック・ピジョン Music for Black Pigeons」。映画のタイトルである。黒い鳩のイラストが大きく描かれたポスターからはミステリーか、鳩の生態のドキュメンタリーを思わせるが副題が付いていた。「ジャズが生まれる瞬間」とある。デンマークの作曲家ヤコブ・ブロが世代や国境を越えて音楽家と交流した記録を捉えた作品だ。

 出演者はビル・エヴァンスをサポートしたポール・モチアンに、セシル・テイラーの理解ある相棒アンドリュー・シリル。菊地雅章との録音で知られるトーマス・モーガン。モチアン・バンドのビル・フリゼールにジョー・ロヴァーノ。ECMのドラマー、ヨン・クリステンセンに、マイルスが演奏した「Aura」を作編曲したパレ・ミッケルボルグ。現代ジャズ・テナー・サックス界を牽引するマーク・ターナー。アバンギャルドなパーカッショニストとして知られる高田みどりもいる。このメンバーとなれば中心にいるのはマンフレート・アイヒャーだ。

 そしてリー・コニッツ。ウネウネした長い旋律や抑えたトーンのトリスターノ派は苦手な方が多いようだが、1949年にマイルスと共演した「Birth Of The Cool」から2015年の「Frescalalto」まで閃きのあるアドリブは変わらない。その音楽性から堅いイメージがあるものの会話はウィットに富んでいる。この映画では100歳まで生きたユービー・ブレイクのことや1945年に初めて150ドルで買ったサックス等、ユーモア溢れる話に笑ってしまうし、インタビュー集「ジャズ・インプロヴァイザーの軌跡」のエスプリに富んだ応えを知ると聴き方が変わるかも知れない。

 タイトルの意味はラストでコニッツが明かす。犬にクラシック音楽やソフトロックを聴かせると穏やかな表情になり、猫に鳥のさえずりや川のせせらぎの自然音を流すと飼い猫が大人しくなると言われている。ネタバレになるので詳しく書けないが、心地よい音楽は鳩をも窓辺に引き寄せる力を持つようだ。そして、その黒い鳩は演奏が終わると飛んでいったという。

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急進的なスタンスを保持したスタン・ケントンは絶賛されても謙遜した

2025-03-09 08:33:14 | Weblog
 ジャズ誌「Jaz.in」に岡崎正通氏が「Close Up ! Jazz Composer’s」を連載している。2月26日発売の017号は「スタン・ケントン楽団を再評価しよう」だ。アート・ペッパーやケントン・ガールズを追いかけた時にかなり聴きこんだ。ジャズ喫茶に置いていないし、国内盤は数枚しか出ていない、輸入盤も多くはない頃だったので音源を探すのに苦労した。

 「Discogs」によるとリイシューを含めてだがアメリカでは500以上のタイトルが並ぶ。一方日本はCD時代でも国内プレスは10枚にも満たないのだ。これほど本国と日本の評価と人気が著しく違うのは珍しい。岡崎氏が指摘している通り、難解さが付きまとっているからだ。エリントンやベイシーのように身体で感じるスウィング・バンドではなく、コンサートホールで厳かに鑑賞する音楽だ。ジャズ喫茶向きでもなければビッグバンドが手本にするスタイルでもないから現在まで大きく取り上げられたことがないのだろう。

 これから聴いてみようという方にお勧めは1955年録音の「Contemporary Concepts」でスタンダードに魔法をかけた演奏だ。前後するがペッパーを始めメイナード・ファーガソンやシェリー・マンの名を曲名にしている50年の「Stan Kenton Presents」は、縦横無尽なソロと耳に鮮やかなアレンジを満喫できる。そしてタイトルからして新しい「New Concepts Of Artistry In Rhythm」は何と52年だ。46年から51年までの音源をまとめたアルバムは「A Presentation of Progressive Jazz」である。常に急進的なスタンスを保っていたのだ。

 斬新な音楽を創造し続けたことが一番に評価されるが、誕生しては消えていく大所帯のビッグバンドを長年に亘り安定経営したのが凄い。ジューン・クリスティとデュエット・アルバムを作るほどのピアニストとしての感性も見逃せない。そしてジャズ史を彩る多くのソロイストやヴォーカリストを育てた。その功績を絶賛されても「彼らの実力です」とケントンは謙遜したという。
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マーシャル・ソラールのテクニックにニューポートの観客は驚いた

2025-02-16 08:47:08 | Weblog
 1年前にミシェル・サルダビーを追悼した時にヨーロッパを代表するピアニストとしてベンクト・ハルベルクにマーシャル・ソラール、アンリ・ルノーを挙げた。1970年前後のジャズ喫茶全盛時代はアメリカのレコードが中心で、欧州盤は滅多にかからないので名盤も知られていないし知名度も低い。その一人マーシャル・ソラールが昨年12月12日に亡くなった。

 74年発行のSJ誌増刊「幻の名盤読本」に1枚紹介されている。ヴォーグ・レーベルの10インチ盤をカップリングした国内盤で、最初のリーダー・セッションとサラ・ヴォーンの伴奏者として渡仏していたジョー・ベンジャミンとロイ・ヘインズがバックの4曲も収録している。仏オリジナル盤は市場に出ないので貴重なアルバムだ。発売した東宝レコードに拍手を送りたいが、プレス枚数が少ないうえ売れなかったようで直ぐに廃盤になり一度も見ないままだ。その後CDで聴いたが、3分ほどの演奏に起承転結が凝縮された見事な内容に驚いた。

 日本でにわかに注目されたのはアメリカにデビューしてからだ。タイトルは「アット・ニューポート '63」だが、バックは同行したガイ・ペデルセンとダニエル・ユメールではなく、テディ・コティックとポール・モチアンがサポートしたスタジオ録音である。おそらくステージが素晴らしかったので、滅多にないチャンスとばかりアメリカ勢と組ませたのかも知れない。「Stella by Starlight」のアドリブの構築や「'Round Midnight」のメロディー・ラインの間は本場のピアニストには出せない独特の味わいがある。そして何より抜群のテクニックに圧倒される。

 アメリカのピアニストがスウィング期はテディ・ウィルソン、バップ期はパウエルに右倣いだったが、その影響が少ないだけにフランスで独自のスタイルを磨いたのだろう。生涯50作以上の意欲的なアルバムを作り、ゴダールの「勝手にしやがれ」をはじめ多くの映画音楽も手がけたフランスを代表するジャズ・ピアニスト。享年97歳。合掌。
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中平穂積氏が聴いたジャズ、視たジャズマン

2025-01-26 08:23:49 | Weblog
 新宿のジャズ喫茶「DIG」とバー「DUG」の創業者、中平穂積氏が昨年12月1日に逝去された。SJ誌の広告欄を頼りに「DIG」に初めて行った時、空席待ちの行列に驚いたものだ。店内は喫茶店というよりジャズ道場と言うほうが相応しい。当時30代半ばのマスターは全身ジャズに染まったオーラがあり近寄りにくかったが、レコードを真剣に聴く学生を優しい目で見ていた。

 氏はジャズ写真家としても著名な方で「JAZZ GIANTS1961-2002」(東京キララ社刊)は50年にわたり撮り続けた貴重なジャズマンの姿が収録されている。音が聴こえてくるステージも魅力だが、普段見ることができないオフショットは貴重だ。モンクと肩を組む白木秀雄、パパ・ジョーに何やら冷やかされている様子のトニー・ウィリアムス、ピアノを弾くデイブ・マッケンナの指先を真剣に見ているサッチモ、ビリヤードに興じるアンソニー・ブラクストン、「Fickle Sonance」のジャケットと同じようなチェックのバケットハットを被って羽田に降り立ったジャッキー・マクリーン・・・

 なかでもニューポート・ジャズ・フェスの観客席の1枚は珍しい。マイルスが振り返って後列にいるニーナ・シモンと話をしているではないか。年代は記されていないが、シモンは70年にアメリカを離れているのでおそらく60年代後半と思われる。音楽の話だろうか。CBSとRCA、ともにメジャーにいる二人、契約のことだろうか。あるいは「シシリーとうまくやっているの?」。「フェラーリの新車買ったから乗せてやるよ」とでも。ビッグネーム二人がいても周りの観客はステージを見ている。これが本場のジャズの楽しみ方なのだろう。この写真集にあるのはファインダーから覗いたジャズの感動である。

 1960年代の新宿は当時ジャズ喫茶と呼ばれていたロカビリーの聖地「新宿ACB」に、ジャズレコード専門店「オザワ」、ジャズ・ライブは「PITINN」、そして「木馬」、「PONY」、「ビザール」のジャズ喫茶が賑わっていた。その中心でジャズ文化を積極的に発信したのが「DIG」だ。ジャズを愛し、ジャズマンに愛された中平穂積氏。享年88歳。合掌。
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SWING 2025

2025-01-05 08:31:01 | Weblog
 明けましておめでとうございます。手元に置きたい絶対的名盤、聴いておきたいジャズシーンを変えたレコード、魂を飛ばす奇盤、不思議な魅力がある珍盤までモダンジャズを中心に幅広く話題にしてきた当ブログは20年目に入ります。ここ数年は不定期更新でしたが毎日多くの方にご覧いただき総訪問者数100万、閲覧数250万を超えました。感謝申し上げます。

 正月恒例の福笑いは「Duke's Big 4」を選びました。録音時、エリントンは73歳です。今年は私も同じ年齢になるせいか顔つきが似てきました。ギターは志藤奨さん。店のマネジメントに黒岩静枝さんのスケジュール調整と多忙ですが、そのピッキングのように軽やかにこなします。バンドリーダーの佐々木慶一さん。魂のこもったスティックの一撃は快感ですし、多くのドラムレッスン生を持つ先生でもあります。そしてこのジャケットを作った鈴木由一さん。安定したベースラインでシンガーを支えます。私の根城「DAY BY DAY」の素敵なメンバーです。

 1973年に録音されたパブロ盤はジャズ界最大のレジェンドが、それぞれの楽器を極めたジョー・パス、ルイ・ベルソン、レイ・ブラウンと組んだ異色のセッションです。3人は当時40代でしたので御大とは親子ほど年の差があります。緊張と興奮、そして感動。ミスター・ヴァーチュオーゾの流麗なラインに絶妙なシンバルのタイミング、歌心満点の太い低音でアグレッシブなピアノをサポートしています。「Prelude to a Kiss 」や「Just Squeeze Me」というエリントン・スタンダードが新鮮に響くのは世代を超えた一体感と適度の張り詰めた空気感がもたらすのでしょう。

 ここ数年ジャズ喫茶の閉店が相次ぎ、それに伴いリスナーも減ったと言われていますが、ジャズ史を彩る名盤がCDと併せてレコードという形で次々と再発されています。レコード店で流れていた4ビートに魅せられて新しいファンが生まれたのも事実です。アルバム選びに迷ったとき、当ブログが指針になれば幸いです。今年もよろしくお願いいたします。
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ビル・ホルマンの名アレンジとジャイヴ・テナーを聴いてみよう

2024-12-22 08:39:46 | Weblog
 今年も多くの愛すべきジャズミュージシャン達が旅立った。拙稿で追悼したのはミシェル・サルダビーにアルバート・ヒース 、デヴィッド・サンボーン、ベニー・ゴルソン 、クインシー・ジョーンズ、ルー・ドナルドソン、そしてロイ・ヘインズとビッグネームばかりだが、ジャズ誌の片隅にしか掲載されないジャズマンや、日本で報じられない人もいる。

 5月6日に96歳で亡くなったビル・ホルマンは、「Band Live」で2006年のグラミー賞ジャズ・アンサンブル部門にノミネートされたアレンジャーだ。スタン・ケントン楽団時代に素晴らしいスコアを残しているが、なかでも55年録音の「Contemporary Concepts」は70年経った今でも色褪せることがない。「What's New」に「Stella By Starlight」、「Cherokee」という大スタンダードの編曲の見事さよ。こんなにもこのメロディは美しかったのかと驚愕する。チャーリー・マリアーノやビル・パーキンスのソロも一段と映える仕掛けだ。

 テナー奏者としても一流で多くのアルバムをリリースしている。訃報を聞いてまず浮かんだのは「Jive for Five」だ。ジャケットをよくご覧になって欲しい。先頭のホルマンの後ろはメル・ルイスなのだが、このイラスト誰かに似ていませんか?ザ・ドリフターズの仲本工事にそっくりです。訃報記事でこれを出すと「ふてほど」と怒られるので見送った。さて、そのテナー。トップの「Out of This World」を聴いてみよう。スマートなアドリブライン、激しく熱いフレーズに漂うそこはかとない気品、「JIVE」のときめき、この世のものとは思えない。

 訃報を受けて小生同様、レコード棚を探した人もいるだろう。時が経つと持っているはずなのに見つからないとか、買ったことさえ忘れているものもあるが、なかには入手した時期、店名、価格、初めて聴いた印象、当時の情景までをも想い出させてくれる。青春の1ページが1枚のレコードからよみがえるのだ。これがジャズの魅力なのだろう。
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ロイ・ヘインズは霜月の晴れた午後、安らかに眠りについた

2024-12-08 08:33:33 | Weblog
 田舎のジャズ喫茶もどきにもあった「We Three」に「Misterios」、今も邦題の印象が強い「惑星」で、11月12日に亡くなったロイ・ヘインズを聴いた。55年以上も前になる。聴き初めなのでニューボーンやモンク、グリフィン、ドルフィーに集中して、ドラムに耳を傾ける余裕などない。ジャケットのクレジットで名前を知った程度で、ベースとドラムの役割も知らなかった。

 ようやくジャズのコンボ編成やリズム・セクションの重要性が解りかけた頃出会ったのは「Selflessness」だ。「My Favorite Thing」が終わる絶妙なタイミングで入るアナウンス「John Coltrane・・・Roy Haynes」。「Blue Train」や「Ballads」とは違うソプラノサックスのめくるめくソロに驚いたのは勿論のこと、延々と18分全力で叩くスネアに圧倒された。ジャズのライブとはこんなにも激しくて熱いものかと全身で感じたものだ。ナイアガラ瀑布のブレイキーや歌うローチ、ヘヴィー級のエルヴィンとは一味違うジャズドラムの世界を知った。

 数あるリーダー作から1枚選ぶなら62年の「Out of the Afternoon」だ。脂が乗った37歳。オープニングから派手に飛ばすロイは気持ちいい。「Moon Ray」のローランド・カークはおどろおどろしさもなく歌心あふれるフレーズで唸らせる。「Fly Me To The Moon」のトミー・フラナガンはスウィンギーで勢いがある。ロイの代表曲であり、歯切れの良いスネアの音からアル・マッキボンが名付けた「Snap Crackle」は、ロイに呼応するヘンリー・グライムスの端正なビートが力強い。グライムスがアイラーと共演する前なので貴重な録音だ。

 ロイが参加したアルバムは600枚を超えるだろう。レスターやパーカーと共演したのは今となっては伝説だが、パウエルにマイルス、ロリンズ、サラ、マクリーン、シェップ、バートン、チック、メセニー・・・多くの名盤に「Roy Haynes (ds)」のクレジットがある。ロイのディスコグラフィーを紐解くと1949年から2011年までのジャズシーンが見える。享年99歳。合掌。
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ジャズ喫茶でルー・ドナルドソンをリクエストしただろうか

2024-11-24 08:31:33 | Weblog
 「ルーさんのプラスさん」という妙に語呂のいい駄洒落に、ジャケットが浮かぶ「ルウドナのロケット」、「イラストのルー」でも分かるのにピー・ウィー・マーケットよろしく「ルーダーナスンQQS」。11月9日に亡くなったルー・ドナルドソンのレコードをジャズ喫茶でリクエストする時の呼び名である。誰が言い出したのか分からぬが、舌をかみそうな名前なので簡略化されたのだろう。

 ブルーノートとアーゴに数多くのリーダー作があるのに日本のジャズファンの間では敬遠されている。先に挙げたブルーノート前期の作品はパーカーまっしぐらでよく歌い人気もあるのだが、63年以降のアーゴとブルーノート後期はそもそもジャズ喫茶に置いていない。コンガでリズムを刻むラテン調やオルガンをフューチャーしたソウル系は苦手な方が多いことによる。そして「Alligator Boogaloo」。大ヒッしたアルバムはコマーシャリズムだと批判されジャズに非ずという風潮があり、ジャズ評論の名著、粟村政昭「ジャズ・レコード・ブック」にルーは名前すら出てこない。

 小生のサラ回しの経験のなかで一番のリクエストはリード・マイルスのジャケット・デザインが印象的な「Lou Donaldson- Quartet/Quintet/Sextet」だった。ブラウニーと肩を並べた「バードランドの夜」とほぼ同時期の3つのセッションをまとめたもので盤としての統一性はないもののパーカーを凌駕するのではないかと思わせる立て板に水の流麗なアドリブが凄い。同世代のスティットやキャノンボール、マクリーンと比べても何ら遜色のないアイデアに富んだフレーズの連続だ。新人を支えるミッチェルにドーハム、シルヴァー、ホープ、ブレイキーの優しい雰囲気も伝わってくる。

 時代の流れに沿ってスタイルを変えたルーはR&Bやファンク系のファンに受け入れられジャズの間口を広げたのは間違いない。ソウル・ジャズから聴きだし「LD+3」や「Lou Takes Off」が愛聴盤の方もおられるだろう。「Light-Foot」に「The Time Is Right」、「Here 'Tis」とジャケットのルーは柔やかだ。笑顔が長寿の秘訣なのかも知れない。享年98歳。合掌。 
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