デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ビル・エヴァンスも水玉のドレスが似合う彼女を想っただろうか

2016-01-31 09:23:04 | Weblog
 野球中継以外めったにテレビを観ないが、たまたま付けると綾小路きみまろさんの「あれから二十うん年、かつては乙女、今では太め」と漫談調のナレーションが入った。大人のカロリミットというダイエットサプリのCMで、久しぶりに会ったら体型が変わっていて、昔の面影がなかったというよくある同窓会の一コマだ。乙女のときも太めの今も水玉のワンピースを着ており、その水玉の大きさが二十うん年という時を表している。

 同窓会といえばジャズ・メッセンジャーズ卒業生の「Art Blakey & The All Star Jazz Messengers」だろう、という読みを外して「Polka Dots and Moonbeams」を持ってきた。1940年に当時トミー・ドーシー楽団の専属歌手だったシナトラのためにジョニー・バークとジミー・ヴァン・ヒューゼンのコンビが書いた曲だ。バークの可愛らしい詞も魅力だが、ヒューゼンのロマンティックなメロディーに魅せられてヴォーカルよりもインストで人気がある。特にピアニスト、それもパウエルをはじめクロード・ウィリアムソン、ハンプトン・ホーズ、アル・ヘイグといったバップ・ピアニストが挙って録音している。

 力強いタッチでグングン押すバップ派と対照的に綿々と語るのはビル・エヴァンスだ。最高のパートナーと信頼を寄せていたスコット・ラファロが1961年に自動車事故で急逝したショックからようやく立ち直った約1年後のトリオによる録音である。ベースはチャック・イスラエル。ラファロと比べると地味だが、叙情的なピアノをポール・モチアンとの連係プレーでしっかりと支えている。エヴァンスの中では目立たないアルバムだが、この曲名を聞いたとき美女をあしらったジャケットと「Moon Beams」というタイトルで真っ先に思い浮かべる名演ではなかろうか。

 久しぶりの同窓会で女性が一番気にするのは体型だという。ネットで公開されている同窓会川柳を見てみると「同窓会 案内届いて ダイエット」や「ガードルを 強めに引き締め 同窓会」と、「同窓会 憧れの君は ただのデブ」と言われないために必死だ。おっと、男性も同じだけ歳を取っているのを忘れていた。「同窓会 片思いですみ 大正解」に「同窓会 いとしい彼方は よきおっさん」 ・・・見られているなぁ。
コメント (15)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ベティ・ローシェのスキャットにエリントンは太鼓判を押した

2016-01-24 09:19:32 | Weblog
 先週話題にした「Hi-Fi Ellington Uptown」は、テーマ曲である「A列車で行こう」が収録されている。エリントンのソロに続いてベティ・ローシェ、次いでポール・ゴンザルベスのうっとりするフレーズから一気にクライマックスのエンディングに持っていくスタイルだ。このバージョンが特に印象深いのはこのローシェにある。♪Hurry! Hurry! Hurry! TAKE THE A TRAIN! The findest quickest wayto get to Harlem・・・1コーラス歌ったあとスキャットに入るのだがこれが凄い。

 意味のない音を即興的に歌うのがスキャットなのだが、それに詞がふられているかのようなストーリー性がある。豊かな感性がなせるわざだ。これで一躍有名になったローシェは56年、ベツレヘムに同タイトルのリーダー作を吹き込み再唱している。コンテ・カンドリやエデイ・コスタを中心にしたスモール・コンボがバックなのでビッグバンドとは一味違う趣があるものの、スキャットに迫力がない。再演が初演を超えた例は少ないと言われるが、それである。さらに看板曲だけならまだしも「In A Mellow Tone」や「Route 66」でも同じようなパターンでスキャットに持ち込む。セールスポイントをアピールするのもわからなくはないが、少々耳につく。

 そんな鬱憤を晴らしてくれるのが61年のプレスティッジ盤「Lightly And Politely」だ。バックはプレスティッジの傍系レーベルTru-Soundに「Misirlou」の傑作を残しているジミー・ニーリーが率いるカルテットで、1曲だけ短いスキャットを入れているものの歌詞をかみしめるようにスタンダードをじっくり歌っている。43年にカーネギーホールで「Black, Brown and Beige」の「Blues」を最初に歌ったシンガーだけあり堂々としているし、ソフィスティケートされた表現力はさすがだ。特に「I Got It Bad」はエリントン楽団の先輩シンガー、アイヴィー・アンダーソンに負けず劣らずの名唱といっていい。

 エリントンは自伝「A列車で行こう」(晶文社)で、ローシェを評して「歌詞を加えたりして彼女が行なったフレージングの多くは、インストゥルメンタルな装飾楽符同様にすぐれたものだった。一例をあげると、『A列車で行こう』の歌い方はオリジナルなレイ・ナンスのトランペット・ソロと同じように古典的である」と。太鼓判を押した「A列車で行こう」のスキャットは、この曲を歌うときのバイブルといっていい。美空ひばりもローシェをお手本にしていた。
コメント (10)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

一生モノの Hi-Fi Ellington Uptown

2016-01-17 09:19:20 | Weblog
 四谷のジャズ喫茶「いーぐる」の店主でありジャズ評論家として健筆を奮っている後藤雅洋さんの著書「一生モノのジャズ名盤500」(小学館101新書)は、50年代のハードバップを中心に幅広く名盤を紹介している。ブルーノート偏重や嫌いなベニー・ゴルソンは1枚も出さない等、偏りもみられるが長年ジャズを聴いてきた耳は流石に鋭い。これからジャズを聴こうとする方の羅針盤になるし、長年ジャズを愛している人にとっても新たな発見があるだろう。

 エリントン・ファンとして気になるのは何を選んだかだ。3枚挙げている。満場一致と思われるのはジミー・ブラントンがいた40年代初頭の公式録音を集めたもの。次にピアニストとしてのエリントンで選んだのはレイ・ブラウンとのセッション「ジミー・ブラントンに捧ぐ」。ピアノを聴くなら「マネー・ジャングル」だろうという反論が即座に出る。そして「Hi-Fi Ellington Uptown」?!ホッジスが自楽団結成のために仲の良いローレンス・ブラウンとソニー・グリアを連れてバンドを抜けたあとの作品である。「?」はホッジスがいないエリントン楽団は美女がいないガールズバーみたいなものだと異論を唱える人だ。

 穴を埋めるためにハリー・ジェームス楽団にいるかつての盟友ファン・ティゾールに復帰の要請をする。ボスの窮地と聞いて同楽団のウィリー・スミスとルイ・ベルソンも連れてくる男気をみせるのだ。すっかりティゾールのファンになってしまった。ハリーはといえば一度に3人抜けようがバンドはスターの俺で持っているようなものだからと意に介さない大物ぶりをみせる。「!」は新メンバーの加入で生まれ変わった楽団に拍手を送る人だ。リリースされた1952年に生まれた小生も異論はない。どの曲も素晴らしいが、ティゾールが作曲した「Perdido」は何度も演奏したなかでトップにランクされる。

 後藤さんが500枚を選ぶために聴いた枚数はその数十倍にも及ぶ。拙ブログは本稿で500を数える。選ばれた500枚、紹介した500枚は好みが大きく反映されているのでジャズの名盤ばかりとは言い切れないが、ジャズ耳を養うために一度は聴かなければならないものばかりだ。たとえ気に入らなくてもその1枚から広がるジャズの世界は無限である。1枚でも多くのアルバムを聴いて自身の一生モノのジャズ名盤を並べてほしい。
コメント (13)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

Happy Minors を飾ったら幸せだろうなぁ

2016-01-10 09:06:26 | Weblog
 新年に相応しい「Happy」とか「New Year」のタイトルはないかと棚を眺めていると「Happy Minors」に目が留まった。聴き込んだレコードはタイトルを見るだけで音が聴こえてくるが、このアルバムは、タイトルを目にすると思わず笑みがこぼれる。少年が3人並んだだけのジャケット・デザインなのだが、表情や服装、ポーズが何とも愛らしい。バート・ゴールドブラットの手による逸品だ。

 トリオや3管で構成されたレッド・ミッチェルの初リーダー作で、、どの曲でもレナード・フェーザーをして「ジャズにおける最高のベース・ソロイスト」と言わしめたプレイがたっぷり聴けるのが嬉しい。おそらくジャズ喫茶世代ならポール・チェンバースと並んで数多く聴いているベースだ。毎日どこかの店でかかるといわれたピアノトリオの大名盤ハンプトン・ホーズのトリオや、これまたアンドレ・プレヴィンの人気盤「キング・サイズ」で腸に響く音を鳴らしている。リーダー作こそ少ないが、参加したセッションとなると毎週1枚ずつ話題にしてもゆうに3年はかかるだろう。それだけミュージシャンに信頼の厚いベーシストだ。

 初リーダー作に相応しいメンバーが揃っている。ジャケットに並んだ文字のサイズからもビッグネイムとわかるボブ・ブルックマイヤーとズート・シムズ、そしてコンテ・カンドリにクロード・ウィリアムソン、スタン・リーヴィー。この作品はズートが参加していることで話題を呼んだが、そのズートを大きくフューチャーしたのが「Scrapple From The Apple」だ。パーカーの愛奏曲で、循環コードのシンプルな作りからジャムセッションでよく演奏される。ここでは短いテーマのあと少々テンポを落としてベースを刻んでいるのだが、バップナンバーとなるとやたら張り切るウィリアムソンとの掛け合いが面白い。

 このアルバムはかなり昔にジャズ喫茶で片面しか聴いたことがなく、CDで全曲聴いたのは最近のことだ。ベツレヘムの10吋オリジナル盤はマニア垂涎の的で、とある中古レコード店の店主曰く、このレコードはディスクよりもジャケットの状態が良いほうが高く売れるという。一度は部屋に飾ってみたいジャケットだ。きっと「Happy」な気分だろうなぁ。「Minor」だから無理な話か。
コメント (14)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

キャンバスいっぱいに広がる Jazz Pictures 2016

2016-01-03 08:28:16 | Weblog
 明けましておめでとうございます。毎月発売されるおびただしい数の新旧譜から選りすぐりのアルバムを毎週紹介してきた当ブログも11年目に入りました。開設当初はブログブームに便乗していたずらに書いてみようかという軽いノリでしたが、日を追うごとに増えるアクセス数に弾みが付きました。また、鍛えられた耳で本物を選んでのコメントに励まされました。ジャズを愛する読者と一体になったブログはライフワークでもあります。

 さて、正月恒例の福笑いジャケット。今年は「naomi and the keiichi sasaki trio featuring duke matsuda」です。私の耳元でささやくように歌っているのは薄野のジュリー・ロンドンことナオミさんです。その後ろにいるのは志藤奨さんです。シャイなギタリストですのでこの写真になりましたが、歌うフレーズと語る音は前面に響きます。そんな感じでいいんじゃない、と納得しているのは見事なブラッシュワークでシンガーをサポートする佐々木慶一さんです。そして、しなやかな指で強靭なビートを刻むのはこのジャケットを制作した鈴木由一さんです。ともに私がこよなく愛するジャズスポット「DAY BY DAY」の素敵なメンバーです。

 元になっている印象的な構図のジャケットはオランダの歌姫リタ・ライスの「Jazz Pictures」です。バックを固めるのは夫君のピム・ヤコブスのトリオにケニー・クラーク。このアルバムがヴォーカル名盤と呼ばれるのはケニーの参加が大きいでしょう。バスドラの一打、スネアやシンバルの一音に刺激されてリタが乗ってくる様子が伝わってきます。絵は一本の線や一つの丸から描きだし、それに色づけをすることで作品が仕上がります。同じようにジャズもピアノやトランペットの一音にシンガーや楽器が音を付けて素晴らしい演奏になります。それこそが「Jazz Pictures」でしょう。

今年もキャンバスいっぱいに広がるジャズの風景を紹介していきますので、昨年同様ご愛読いただければ幸いです。コメント欄はベスト3企画がメインですが、ベストの1枚、聴き比べてみたい曲、気になるアルバム等、ベスト3にかかわらずコメントをお寄せください。また、ジャズに関するご質問、ご感想もお待ちしております。完成された絵に隠れたデッサンの話題にも及ぶかも知れませんが、今年もよろしくお願いします。
コメント (17)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする