デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

アンドレ・プレヴィンとラス・フリーマンのDouble Play

2015-03-29 09:19:49 | Weblog
 球春到来!プロ野球ファンが待ちに待った開幕だ。待ちきれずにオープン戦も数試合観戦したが、やはり本拠地札幌ドームのシーズン開幕戦は格別である。我が贔屓のチームは昨年3位だったが、クライマックス・シリーズを勝ち進み、日本シリーズへあと1勝にまで迫る快進撃をみせた。発売日に完売したというチケットが、今季の期待の大きさを表している。

 この時期恒例の野球がらみのジャケットを数枚紹介してきたが、忘れてならないのがこの「Double Play」だ。アンドレ・プレヴィンとラス・フリーマンのピアノ2台とシェリー・マンのドラムという変わった編成である。チック・コリアと上原ひろみや、ラムゼイ・ルイスとビリー・テイラー等で今ではお馴染みのピアノ・デュオだが、1957年録音当時は画期的といっていい。ともにクラシックの素養がある同じタイプのピアニストなので、ソロリレーも違和感がないし、お互いを刺激しながら高まっていく様子が鍵盤の強弱から伝わってくる。

 2台のピアノと野球のプレイをかけたタイトルと、身に着けているものは野球帽だけの美女ジャケット、そして収録されている曲も野球に因んだタイトルを付けるほど凝った内容だ。「Take Me Out To The Ball Game~野球場につれていって」の他は全て二人のオリジナルで、「Called On Account Of Rain」・・・ドーム球場が増えたので滅多にない「降雨のためコールドゲーム」、「Safe At Home」・・・アウトかセーフか?「本塁セーフ」で勝ち越し!、ガーシュウィンの「Strike Up the Band」をもじった「Strike Out The Band」 、そしてアルバムタイトルの「Double Play」・・・643のゲッツーでゲームセット!最高の試合だ。

 開幕戦に先立ち行われた始球式には、「DREAMS COME TRUE」の吉田美和さんと中村正人さんがサプライズでマウンドに登板し、シーズン開幕に華を添えた。試合は超満員の大声援におされて4年連続の開幕戦勝利だ。143試合の1試合、1試合の1球、1イニングのワンプレイ、その一つ一つがファンの胸に刻まれるような試合を楽しみにしている。
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撫でるようにキーを押さえていたレッド・ガーランド

2015-03-22 09:31:14 | Weblog
 小川隆夫著「ジャズマンが愛する不朽のJAZZ名盤100」(河出書房新社)に、デイヴ・ブルーベックが「Groovy」を聴いた感想が紹介されている。「逆立ちしたってわたしにこのような演奏はできない(笑)。レッド・ガーランドのプレイはバック・ビートを強調することでソウルフルな味わいを発揮するところが特徴だ」。ブルーベックはマイルスとのジョイント・コンサートでガーランドとよく顔を合わせていたという。

 生演奏を何度も耳にしているピアニストならではの表現だが、ソウルフルな味わいはリスナーも感じ取れる。そして「タッチに艶がある。これは鍵盤の触れかたに理由がある。レッドはいつも撫でるようにキーを押さえていた。それでこういう音が生み出される」と。この艶はレコードからも伝わってくるが、「撫でるようにキーを押さえていた」というのは驚きだ。確かにバラードにおけるシングルトーンはそんな感じだが、お得意のブロックコードはダイナミックだし、速い曲では力強く鍵盤を叩いているようにしか聴こえないが・・・

 このブルーベックの所感に思わずうなずいたのは、ガーランドが死の1年2か月前に残したサンフランシスコの名門クラブ、キーストンコーナーで行なわれたライヴだった。バラードの「My Funny Valentine」は勿論だが、アップテンポの「Love For Sale」もキーを撫でるような印象を受けた。ラスト・レコーディングであることや、人生を達観した深い味わいがそう感じさせるのかもしれないが、速いフレーズも間違いなく「撫でる」音である。一度聴いたら忘れられないグルーヴ感は鍵盤の触れかたによるものと解明したが、これだけはどんなピアニストも真似できない。

 ブルーベックは、「スイングしないピアニスト」というネガティブなレッテルが貼られ、ジャズ喫茶ではさっぱり人気がなかったが、本国では多くのキャンパス・コンサートを開いてジャズファンを増やしている。一方、ガーランドのレコードがジャズ喫茶でかからない日はない。ともに逆立ちしたって演奏できないスタイルがジャズを面白くしてきたのだろう。
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「Pavanne」「Why Not」「Impressions」が線でつながった

2015-03-15 09:26:07 | Weblog
 以前、デイブ・パイクの「Pike's Peak」を話題にしたとき、アルバム・トップの曲「Why Not」は、コルトレーンの「Impressions」と同じ曲だということに触れた。作曲者はパイクだ。そして、ロッキー・ボイドがジャズタイム・レーベルに残した唯一のリーダー・アルバム「Ease It」に収録されている「Why Not ?」も同じ曲で、こちらはこのセッションに参加しているピート・ラ・ロカが作曲者としてクレジットされている。

 タイトルも作者もまちまちだが、元を辿っていくとモートン・グールドが1935年に発表したシンフォネット第2番「Pavanne」のメロディに行きつく。録音年で追ってみるとパイクは1961年11月、ボイドは同年3月、そしてコルトレーンが演奏した最初の記録はニューポートに出演した同年7月だ。ボイドが一番早い録音になるが、調べてみるとアーマッド・ジャマルが1955年に原タイトルで録音している。更にヴァイブ奏者のエイドリアン・ロリーニが、1939年に録音した記録がある。こちらの音源はLP化されていないので聴けないが、おそらく原曲に近いものだろう。

 こうして並べてみるとやはり「Impressions」のタイトルのコルトレーンがその演奏内容からいって最も影響力が強く、カヴァーも多い。珍しいところではジェラルド・アルブライトが、1991年にバードランド・ウェストのライブで取り上げている。アルブライトといえばスムース・ジャズの頂点に立つサックス奏者で、4ビートファンからは敬遠されるが、このステージはそんな拒否派も納得させるものだ。この曲ではアルトを吹いているが、1961年11月3日にヴィレッジ・ヴァンガードでこの曲を吹いたコルトレーンを彷彿させる激しく熱い内容で、スムース・ジャズという括りで見逃すには勿体ない。

 「Impressions」は、コルトレーンがマイルスの「So What」と同じモードを使って作曲したと言われている。マイルスが気に入っていたピアニストといえばジャマルだ。パイクのセッションに参加しているビル・エヴァンスは、「So What」で弾いている。「Ease It」のベーシストは、60年代初頭からマイルス・バンドに加わるロン・カーターだ。1961年に録音された3曲のつながりは解明できなかったが、回り回って名曲は生まれるのかもしれない。
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Witchcraft がフィフティ・シェイズ・オブ・グレイで流れた

2015-03-08 09:11:55 | Weblog
 今話題の映画「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」を観た。原作はイギリスの女性作家E・L・ジェイムズが書いた小説で、全世界で1億部が売れたという。書店の平台にうず高く積まれていたので題名は知っていたものの、その装丁から女性向けの恋愛小説と思い手に取ることもなかったが、映画のチラシで内容を知って驚いた。BDSMの主従契約を結ぶというものだ。

 ストーリーの外観が見えた中盤すぎに流れたのは「Witchcraft」で、これには思わず膝を打った。この展開でこの曲か!勿論、ネルソン・リドルのアレンジで録音したシナトラのオリジナル・ヴァージョンだ。1959年の第1回グラミー賞にノミネートされたほどの名唱である。1957年のステージ・レビュー用にサイ・コールマンが作曲し、キャロライン・リーが作詞したもので、タイトル通り「君以上の魔女はいない」という歌だ。ネタバレになるのでこれ以上詳しく書けないが、ゴージャスなスイートルームのBGMにこれほど似合うシンガーはいない。

 この曲を聴いて条件反射的に思い浮かぶのはクリス・コナーである。同名のタイトルと魔性の女を連想させる目のジャケットが強烈だ。アーニー・ロイヤルをはじめフランク・リハク、ハンク・ジョーンズ、マンデル・ロウ、ミルト・ヒントン等の名手で固めたオーケストラを指揮し、アレンジを施したのはリチャード・ウエスである。ウエスといえばコニー・フランシスやボビー・ダーリン、アレサ・フランクリンの編曲でお馴染みだが、シンガーの隠れた魅力を引き出す魔術を持っている。クリスもその魔術にかかったとみえていつも以上に感情を前面に押し出している。クールなクリスのホットな歌唱も魅力だ。

 BDSMとは「Bondage」「Discipline」「Sadism & Masochism」を略したもので、拘束、体罰、加虐、被虐という特異な嗜好を指す。この小説は主婦層に人気があることから「マミーポルノ」と呼ばれているそうだが、「ハリー・ポッター」や「ダ・ヴィンチ・コード」を超えて史上最速でベストセラーになったのは誰もがその願望を持っているからかも知れない。
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Dear Old Stockholm をマイルスはどう料理したのか

2015-03-01 09:16:24 | Weblog
 「リハーサルのときに渡された楽譜は普通の長さだった。それで何度かテーマ・パートを演奏しているうちに、マイルスがイントロの4小節分を加えて演奏するようになった。エンディングも咄嗟の思いつきだ。メロディは綺麗だが、展開が平坦で変化に乏しい。それで、構成に少し手を加えたのさ。結果はご機嫌なものになった」と。ジャッキー・マクリーンの回想が、小川隆夫著「ジャズマンが語るジャズ・スタンダード120」に紹介されている。

 さて、曲はお分かりだろうか? マクリーンがマイルスと共演したのは1951年の初レコーディング「Dig」、次に52年のブルーノート、55年にミルト・ジャクソンが参加したプレスティッジしかない。この中から「メロディは綺麗」で絞ると一目瞭然「Dear Old Stockholm」である。元はスウェーデン民謡で、スタン・ゲッツが51年に同国をツアーしたときに録音した曲だ。当時ゲッツのバンドにいたホレス・シルヴァーがマイルスにこの曲を教えたという。二人は同じアパートに住んでいたので毎夜、これからのシーンを熱く語っていたのかも知れない。

 日本人好みの哀愁を帯びたメロディなので、日本企画のアルバムに必ずと言っていいほど収録されているが、その殆んどは綺麗なメロディを強調した演奏だ。それはそれで良いのだが、やはりお座なりではないインパクトが欲しい。ジョルジュ・アルヴァニタスが、1997年に「DUG」のオーナー中平穂積氏に招聘されたときに録音された「Rencontre」はかなり刺激的だ。甘さを抑えながらも琴線のツボを外さない演奏に惹かれる。フランス人のアルヴァニタスはこの曲にどのような印象を持っているのかは分からないが、日本人に通じる郷愁を感じ取っていたことは確かだろう。

 ゲッツといえば「枯葉」もマイルス以前に取り上げている。「枯葉」にしても、このスウェーデン民謡にしても素材をいち早く見付けるセンスの良さは抜群だ。その素材をモダンジャズ・ヴァージョンに仕立てたマイルスは見事としか言いようがない。デッサンをするゲッツ、それに色づけするマイルス。楽曲がジャズナンバーとして成立するには二つの才能が必要だった。
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