デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

還暦を迎えたエリントン

2012-06-24 07:43:26 | Weblog
 「今日、初めての還暦を迎えまして・・・」と言ったのは長嶋茂雄氏だったが、私事ながら先週、その還暦を迎えた。60歳を機に現役を引退し、悠々自適の第二の人生を歩むといえば様になるが、疾うに第一線を離れた自由業の身ともなれば、それにより仕事や環境が変わるわけではないし、生活サイクルも同じだが、大きな節目を迎えるのは感慨深い。赤い頭巾とちゃんちゃんこが不思議と似合う。

 さて、エリントンは還暦のときにどんな音楽に取り組んでいたのか。1899年生まれなので60歳というと1959年である。59年といえばマイルスのカインド・オブ・ブルーが出たジャズにとってメモリアルな年だが、エリントンは小編成のコンボで録音に臨んでいる。それもエリントニアンは盟友のジョニー・ホッジスだけで、ベイシー・バンドのハリー・エディソンとジョー・ジョーンズ、そしてモダン期のサム・ジョーンズ、レス・スパンという組み合わせが面白い。さらに選曲は両バンドのお得意曲ではなくブルース曲ばかりである。活躍したバンドや方向性は違えど基本は同じである、というエリントンならではのアイデアだろう。

 名手が揃っているだけありどのブルースも味わい深いが、ルイ・アームストロングが十八番にしていた「ベイズン・ストリート・ブルース」が素晴らしい。力強いピアノのイントロから艶のあるアルトと張のあるトランペットが呼応するテーマ部分は、ビッグバンドで鳴らした花形だけが持つ華やかさで彩られているし、メリハリが利いた長めのソロは小コンボという編成ならではである。「私の楽器はオーケストラだ」と語ったようにエリントンは自身が弾くピアノさえもそのオーケストラに溶け込ませるが、このアルバムはピアニストとしての側面もそのソロでたっぷり味わえる貴重な作品ともいえる。

 「back to back」はジャケット写真のように「背中合わせ」という意味だが、「引き続いて」という意味でも使われる。エリントンはこの後、フランスの批評家アンドレ・オデールに演奏をもって反論した「ポピュラー・エリントン」や、大作の「極東組曲」、「ニューオリンズ組曲」に挑む。還暦だからといって立ち止まらず常に前進するエリントンに見習いたい。引き続き拙いブログを書き続けて10年後に「70th Birthday Concert」を話題にしたいものだ。
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テディ・チャールズの実験は成功したか

2012-06-17 07:23:30 | Weblog
 テディ・チャールズ。久しく忘れていた名前をジャズ誌の訃報欄で見た。本国ではその音楽性が高く評価されていたようだが、日本では人気がないヴァイヴ奏者である。ライオネル・ハンプトンとミルト・ジャクソンの二人が独走状態だったヴァイブ界で頭角を現すのは容易なことではないし、ゲイリー・バートンやボビー・ハッチャーソンでさえも名前が挙がるのは巨匠の次ページで、あとは余白に近い。

 その片隅に名前があるのがチャールズで、唯一語られるアルバム「テンテット」はその後のジャズの方向を示唆したうえで重要な1枚と思われるが、これも大きな話題を呼んだことはなかった。傑作とか意欲作という褒め言葉の次に判を押したよう添えられるのは、「実験的」である。保守的なジャズを好む日本では、この「実験的」なジャズに拒否反応を起こす傾向にあり、ジミー・ジェフリーやドン・エリスが人気がないのもここにある。かく言う小生も忘れていたのだから偉そうなことは言えないが、「テンテット」こそ新しいハードバップの形で、その形が変化したのがフリージャズであり新主流の方向性でもあると思う。

 久しぶりに不気味な縞の陰影のジャケットを取り出してみる。その実験的な作品を聴きかえしてみよう。改めてメンバーを確認するとアート・ファーマー、ジジ・グライス、マル・ウォルドロン、そして異色のJ.R.モンテローズ、更にチューバも入っている。メンバー構成だけでも実験的だし、更にギル・エバンスやジョージ・ラッセルという理論派のアレンジャーが並ぶ。さて内容は・・・ミンガスの「直立猿人」を思わせる・・・数十年前に初めて聴いたときの印象は変わらない。一言でいうなら「ハード・バップ型集団即興演奏」とでもいえば分かりやすいだろうか。録音された1956年という時代には早過ぎたのかもしれない。

 76年発行の世界ジャズ人名辞典には、53年に立ち上げたバンド「ニュー・ディレクション」を64年に再結成したあと音楽とヨット・クラブ経営の両面で活動している、と記されている。ヨットはまっすぐ風上の方向に進めないが、チャールズはジャズの風上に向かって帆走した数少ないプレイヤーではなかろうか。人名辞典に、実験に成功したヴァイヴ奏者、享年84歳、と書き足しておこう。
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トニ・ハーパーのスウィンギーな♪In the still of the night

2012-06-10 06:40:55 | Weblog
 ♪In the still of the night As I gaze from of my window ・・・タイトルからの歌いだしはコール・ポーターが作詞作曲した「イン・ザ・スティル・オブ・ザ・ナイト」で、ヴァースなしのコーラス72小節という変則的な構成になっている。同じポーターの「ビギン・ザ・ビギン」の108小節からみると短いが、ポピュラー・ソングは長くても32小節構成だからこの曲は相当長い。このような長い曲はあまりスローに歌うと間延びするせいかテンポを速めに取るようだ。

 シナトラはミディアム速め、エラ・フィッツジェラルドは遅め、ジュリー・ロンドンは速い4ビート、ジョー・スタッフォードも速いがこちらは2ビート、と様々にテンポとビートを変えて歌っているので聴き比べていると夜が更けるのも忘れる。スピードは違えどヴァースがないことからほとんどはコーラスの頭から入るが、最終コーラスの♪Like the moon growing dim On the rim of the hill・・・からスウィンギーに歌いだすのはトニ・ハーパーだ。アレンジとバックバンドを率いたのはマーティ・ペイチで、アート・ペッパーをはじめフランク・ロソリーノやバド・シャンクというオールスターズが盛り上げる。

 ハーパーはエリントン楽団で活躍したシンガー、ハーブ・ジェフリーズに認められて47年に「キャンディ・ストア・ブルース」のヒットでデビューしているが、何とこのときタイトルのキャンディが似合う10歳というから驚く。この音源は聴いたことがないが、大人顔負けのテクニックを持っていたという。その後ピーターソンが伴奏をしたヴァーヴ盤でジャズファンに広く知られるようになったが、この録音時でさえ18歳という早熟ぶりである。「ナイト・ムード」はタイトルからして大人の雰囲気が漂うが、それでもまだ23歳で、キャリアからくる余裕の音吐朗朗な歌い方はバックのオールスター・バンドに引けを取らない。

 この曲は原題そのままの「夜の静けさに」という邦題が付いている。どうしても曲名からは包み込むようなストリングスを背景にじっくり歌うバラードや、ピアノに肩肘付いてブランディ・グラスを燻らしながらの気だるい歌い方をイメージさせるが、多くのヴァージョンは先に触れたようにスピードのあるテンポと、目が覚めるような派手なアレンジが施されている。アメリカの夜は相当に賑やかなようだ。
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ジャイヴ・アット・ファイヴをビル・ハリスで聴いてみよう

2012-06-03 07:35:00 | Weblog
 ジョージ・ガーシュインは数多くのスタンダード・ナンバーを書いているが、なかでも「アイ・ガット・リズム」はメロディが美しいことに加え、コード進行が秀逸なためそのコード進行を元に多くの曲が生まれている。パーカーの「アンソロポロジー」や「ムース・ザ・ムーチェ」、ロリンズの「オレオ」、ビル・エヴァンス・トリオのライブのテーマ曲として使われてた「Five」等、所謂「リズムチェンジ」と呼ばれているものだ。

 そして、ベイシーとハリー・エディソンの手による「ジャイヴ・アット・ファイヴ」もその一曲で、ベイシーのコンサートでは欠かせない十八番になっている。スウィング期のビッグバンドや、その時代のプレイヤーが好んで取り上げる曲で、ジャズ喫茶の人気盤であるズート・シムズの「ダウン・ホーム」を思い出される方もあろう。それに負けず劣らずの名演にウディ・ハーマンのファースト・ハードで活躍したトロンボーン奏者のビル・ハリスがある。ハリスのリーダー作は少ないので、その意味でも三つのセッションを収めたこの「ビル・ハリス・ハード」は貴重だが、一時ベーシストのチャビー・ジャクソンと組んでいたコンボの音源は珍しい。

 ハリスはハーマン時代、トロンボーンの人気投票で首位を独走した人で、「スターダスト」で有名なジャック・ジェニーに影響されたというバラード・プレイに一際光るものがあるが、この曲のようなミディアム・テンポでも流麗なラインをみせる。リズミカルに演奏することでスウィング感を出せる曲なので、ともするとビートを強調したくなるが、重量級のジャクソンもその点は心得ているとみえてソロを取る間は控えめだ。短いソロながらハリスに続くチャーリー・マリアーノも伸び伸びとしている。録音は52年で、ビッグバンド育ちのハリスとジャクソンがコンボでみせた快心の演奏は気持ちが良い。

 今では速いテンポで演奏することが常識になっている「アイ・ガット・リズム」は、もともとスロー・テンポで演奏されることを念頭に置いた曲だった。スロー・テンポでもリズムが生きるように作ったガーシュインの意図は、音楽に限らずリズムが如何に重要な要素を持つかを示唆したものかもしれない。社交ダンスのジャイヴは、基本的にジルバと同じ踊り方だがリズムに乗ることでより華麗なステップを踏めるという。
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