デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ジーン・クルーパとバディ・リッチの友情

2024-01-21 08:30:48 | Weblog
 今年初めから素晴らしい映画に出会った。舞台は西部開拓時代のオレゴン州。背景に合わせたかのようにゆっくりとした展開の静かな物語だ。冒頭、イギリスの詩人ウィリアム・ブレイクの言葉「鳥には巣、クモには網、人間には友情」が引用される。そして、いきなりラストにつながるシーンが出てくる。ネタバレになるのでこれ以上は書けないが、厚い友情を描いた作品だ。

  ライオネル・ハンプトン楽団で同じ釜の飯を食ったベニー・ゴルソンは、不慮の事故で亡くなったクリフォード・ブラウンを偲んで曲を書いた。ジャズの深い絆で結ばれたモンクとニカ男爵夫人。男と女の情を超えた莫逆の友なのだろう。映画の題材にもなったバド・パウエルと、フランス人デザイナー、フランシス・ポウドラの交流。「オレがトレーンの代わりに雇ったのは、すっかりヤクと切れて刑務所から出てきたばかりの古い友達ジミー・ヒースだった」と語ったマイルス。そのマイルスにハンク・モブレーでは心配だからと呼び出され、「Someday My Prince Will Come」のレコーディングに駆けつけた僚友コルトレーン。

 ジャズ界には多くの友情物語がある。同時代のドラマーでライバル的にみられるジーン・クルーパとバディ・リッチだが、度々ライブやレコーディングで共演するほど仲がいい。「シング・シング・シング」のソロでドラムをリズム楽器から花形楽器に押し上げたクルーパ、片や映画「セッション」の主人公が目標にする速く正確に叩く超絶技巧の持ち主である。両雄並び立たずと言われるが、それだけに並んだ迫力は凄い。更にリッチの奥さんはクルーパの元恋人だという。ロック界ではジョージ・ハリスンとエリック・クラプトンとパティ・ボイドの関係が有名だが、男同士の「情」は時に男と女のそれを遥に超える。

 映画館を出てジャズバーに向かう道すがら何人かの旧友の顔を思いだした。若いころ、マイルスの電化はどうのこうの、フリージャズの行方は、フュージョンはジャズを殺すと激論を交わした何十年も会っていない友。年賀状だけの付き合いになった飲み歩いた友人。麻雀卓を囲んだ遊び仲間。ビル・パーキンスの「Just Friends」をリクエストしようか。盟友リッチー・カミューカとの息の合ったアンサンブルが聴こえてきた。
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SWING 2024

2024-01-07 08:25:27 | Weblog
 明けましておめでとうございます。昨年は16本の更新でしたが、毎日多くの方にご覧いただきました。感謝申し上げます。訃報記事が中心でしたので、長くジャズを聴き、ジャズマンを愛している方は寂しさを感じたことでしょう。また、忘れかけていたミュージシャンも話題にしました。これを機に聴き直された方もいるかも知れません。そこからジャズの世界が一段と広がるならブログ冥利に尽きます。

 正月ですのでジャケットで遊びましょう。僭越ながら私が一番上におります。赤いマフラーが似合うのはバンドリーダーでドラマーの佐々木慶一さんです。天に抜けるシンバルの一音、空を切るスネアの一打、地に響くバスドラムの一撃、絶妙です。ベーシストはこの福笑いジャケットを作った鈴木由一さんです。太く低く唸るベースラインにゾクゾクします。そして店の管理は勿論のこと黒岩静枝さんのスケジュールまでこなすギタリストの志藤奨さんです。シンガーを盛り立てるさり気ないフレーズは見事です。私が隠れ家にしているジャズスポット「DAY BY DAY」の素敵なメンバーです。

 元のジャケットはジェリー・マリガン・カルテットのストーリーヴィル・ライブ盤です。ビル・エヴァンスとデュオ・アルバムを作るほどのピアノの名手でもあるバルブ・トロンボーンのボブ・ブルックマイヤー、ベースは「さよならバードランド」の著作もあるビル・クロウ、ドラムは飛行機のエンジニアとしても知られるデイヴ・ベイリー。低音楽器の組み合せで、しかもピアノレス。重量感のある変則編成ながら編曲の妙もあり、分厚いハーモニーから飛び出す迫力あるアドリブに酔いしれます。バリトン・サックスの音色の深さと流れるようなソロを存分に楽しめるアルバムです。

 ジャズは50年代にピークを迎え、モダンジャズで完成されたと言われますが、70年経った今も進化しているのは間違いないでしょう。才能ある若手も次から次へとデビューしています。そこから新しい形の音楽が生まれるかも知れません。今年は伝統を重んじるのは勿論ですが、新しいジャズに目を向けようと思っています。不定期の更新になりますが、時折アクセスしていただければ幸いです。
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