デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

春ソング、今年は Up Jumped Spring で跳ねる

2017-04-30 09:36:56 | Weblog
 ここ札幌も桜が咲き、ようやく春らしくなってきた。春の曲をと思い無料でダウンロードできる「春のスタンダード・ナンバー20曲」を見てみるとゲッツの「It Might As Well Be Spring」をトップにエヴァンス「Spring Is Here」、エラ&ルイの「April In Paris」、ベティ・カーター「Spring Can Really Hang You Up The Most」、ブラウニー「Joy Spring」と誰でもが知っている曲が並ぶ。メロディーが流れるだけで足取りが軽くなる。

 他にもブロッサム・ディアリーの「They Say It's Spring」やデクスター・ゴードン「 I'll Remember April」、ジャズテットの「Younger Than Springtime」、御大エリントンの「Springtime In Africa」という定番が並んだところで、どなたが選曲したのか知らないが、天国に近いスウィートな音楽と言われたガイ・ロンバードの「April Showers」にジャンゴ・ラインハルトの「Swingtime In Springtime」、グレン・ミラーと人気を二分したグレン・グレイの「Suddenly It's Spring」といった咄嗟にメロディーが出てこない地味な曲が入っている。なかなかに渋い。ところがだ、フレディ・ハバードのあれが抜けているではないか。

 そう、「Up Jumped Spring」だ。初演は3管JMの「Three Blind Mice」だが、ハバードのアトランティック移籍第1弾「Backlash」で有名な曲である。多くのカバーがあるが、JMで一緒にプレイしたカーティス・フラーがアルバムタイトルにして取り上げていた。2003年にシカゴ・ジャズ・フェスティヴァルのため滞在中に地元ミュージシャンと録音したものだ。地元といっても侮れない。シカゴに行くならトランぺッターは連れていかなくても大丈夫と言われたブラッド・グッドが参加している。おそらくフラーもグッドとセッションしたかったのだろう。ともにご機嫌なフレーズが飛び出てくる。

 20曲のなかにアート・テイタムが演奏した「Some Other Spring」もあった。アイリーン・キッチングスが書いた曲で、テディ・ウィルソンと離婚したショックも癒えない頃の作と言われている。また、アーサー・ハーゾグが付けた詞をビリー・ホリデイが歌ったことで、歌詞と相俟って暗いイメージがある曲だが、メロディーは意外にもは明るい。「Spring」という単語は知らず知らずのうちに人も空気も明るくする。
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軽音楽の総称がジャズだった時代、ペギー葉山がデビューした

2017-04-23 09:09:48 | Weblog
 昭和22年に創刊されたSJ誌で読者人気投票が始まったのは昭和26年のことだ。女性ボーカルを見てみると26、27年の上位は同じで、1位ナンシー梅木、2位加藤礼子、3位水島早苗と並ぶ。翌28年のトップもナンシー梅木が譲らないが、2位に選ばれたのは今月12日に亡くなったペギー葉山だ。当時、トップバンドの渡辺弘とスター・ダスターズの専属シンガーとして活躍していた。

 レコードデビューは昭和27年で、シャンソン王子と呼ばれたアンドレ・クラヴォーのヒット曲「ドミノ」のカバーである。B面は「Kiss of Fire」で、「火の接吻」という昭和の邦題が付けられていた。SP盤だがこれらの音源はCDで聴ける。当時若干19歳ながら声に伸びがあるし、カバー曲と感じさせない表現力、そして何よりもジャズフィーリングが豊かだ。「ペギー葉山」というのは芸名でなく本名で、アメリカ人の血を引いているのではないかと思ったほどだ。そのセンスの良さが民謡調の「南国土佐を後にして」や溌溂とした青春歌謡「学生時代」、楽しい「ドレミの歌」の大ヒットにつながったといっていい。

 「It's Been A Long Long Time」はデビュー40周年記念アルバムで、矍鑠としたハンク・ジョーンズと並んだペギーの立ち姿が美しい。日本のレスター・ヤングといわれた尾田悟と、ベニー・グッドマンの後継者と呼ばれるケン・ペプロウスキーが参加しているのでグッと厚みが出る。ビッグバンドよりもこの編成の方がノスタルジック感が醸し出されてペギーの声とのバランスがいい。タイトル曲をはじめ「Love Letters」、「All of Me」、「As Time Goes By」、「I'm Beginning To See The Light」というステージで何度も歌ってきたであろう曲はスタンダードというより持ち歌に聴こえる。深みを増した声と磨かれたフレージング、スウィング感、40年のキャリアが詰まっている。

 2014年に「大人の歌ネット」のインタビューで、「今の夢」を聞かれて、「これは、叶えられないとは思いますけど、外国の人とデュエットしたいの。以前、今は亡きハンク・ジョーンズとはね、ジャズのアルバムを出したけれど、向こうの歌い手さんとね…、トニー・ベネットさんなんていいわね(笑)。これは夢よ、そんなことあり得ないんだけど、トニーさんが日本に来た時に、一緒にレコーディングできたらいいなぁってね 」と。夢のデュエットを聴きたかった。享年83歳。合掌。

敬称略
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暴れる女ドロシー・ドネガン

2017-04-16 09:32:50 | Weblog
 以前、「騒ぐ女ヘイゼル・スコット」のタイトルで女流ピアニストを話題にした。どれほど賑やかなのかは拙稿をご覧いただきたい。今週は彼女の上をいくドロシー・ドネガンだ。唸り声は勿論のこと、ピアノを弾きながら不敵な笑みを浮かべるわ、足はバタバタやるわ、踊るわのアクション系だ。日本にも派手なパフォーマンスをみせる人気ピアニストがいるようだが、そのスタイルの元祖と言っていい。

 エヴァンスのリリシズムやパウエルの閃き、モンクの間こそがジャズピアノの王道であり、わざとらしい奇声を上げたり、軟体動物のようにくねくね動くのはジャズにあらずという風潮が強い日本ではこの手のスタイルは歓迎されない。また、レコード時代に国内盤が出たこともなければ、ビッグネイムとの共演もないので知名度は低い。ところがエンターテイメント性が重要視されるアメリカでは絶賛されているのだ。日本で話題を呼んだのはビル・クリントン大統領が、ドロシーをホワイトハウスに招いたことが伝わった時だ。さすがにペンシルバニア通り1600番地ではマンハッタン52丁目ほど暴れないものの、奇抜であることに変わりない。

 本国の評価を裏付けるように多くの作品がリリースされている。1枚挙げろと言われれば57年の「At The Embers」だ。オスカー・ペティフォードのクレジットもあるトリオで、選曲がいい。「That Old Black Magic」に始まり「Over The Rainbow」、「Sweet Georgia Brown」、「My Funny Valentine」、「Autumn Leaves」、「Lullaby Of Birdland」等、誰もが知っている曲を喜怒哀楽豊かに弾いている。全体にアップテンポで音数も多いが、エロール・ガーナーを思わせるタッチで、バラードもなかなかに聴かせる。パフォーマンスも面白いが、ピアニストとして音だけ聴いても理屈抜きで楽しい。それもジャズなのである。

 このアルバムを選んだのは内容は勿論だがジャケットにある。写真は今年1月20日に亡くなったチャック・スチュワートによるものだ。コルトレーンやドルフィーのジャケットで有名な写真家である。バーカウンターの止まり木にはドラマがある。揃えた靴と脱ぎ捨てた靴。口説く男。そういえば精神分析学者のジークムント・フロイトは靴は女性器の象徴としている。靴を脱ぐという行為は・・・
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アーサー・ブライスとその時代

2017-04-09 09:46:50 | Weblog
 先月27日に亡くなったアーサー・ブライスを初めて聴いたのはジュリアス・ヘンフィルのフリーダム盤だった。70年代前半のことで、泣く子も黙る攻撃型のフリージャズだ。次がチコ・ハミルトンで、何とこちらは乗ってけサーフィンではなく、翔んでけフュージョンである。混沌としたジャズシーンを生き抜こうとするなら節操、いや幅広くプレイできることが条件だ。ともにジャズ喫茶で1,2度聴いただけだが綺麗なアルトと記憶している。

 広く名前が知られるようになったのはギル・エヴァンスの楽団やジャック・デジョネットのスペシャル・エディションに参加したころだろうか。どちらのバンドでも一際異彩を放っていたが、レコード会社が余程の宣伝費をかけたとみえてジャズジャーナリズムの扱いも大きい。キャノンボール・アダレイが75年に亡くなったので、「キャノンボールの再来」とか、「次代を担う新鋭」等と持ち上げられた。また、メジャーレーベルのCBSと契約したことも人気に拍車をかける。実力は証明済みのアーサーといえど、宣伝力がなければ無名のまま終わったかも知れない。実際、そういうミュージシャンが多いのがジャズ界の現実だ。

 数あるリーダー作からCBS第一弾「In the Tradition」を選んだ。この時30代後半で、それまでのキャリア全てが詰まっている。スタンリー・カウエルとフレッド・ホプキンス、スティーヴ・マッコールのトリオをバックにしたワンホーンなので音色やフレーズが浮き出てくる。ファッツ・ウォーラーの「Jitterbug Waltz」にエリントンの「In A Sentimental Mood」、「Caravan」というアルバムタイトルの如く伝統を重んじた選曲だ。注目すべきは「Naima」である。録音した78年当時、まだ発表されてから20年も経っていない曲だが、コルトレーン以降のサックス奏者にとっては古典という存在なのかも知れない。

 改めてフリージャズからフュージョンまでこなすブライスが共演したミュージシャンや参加したアルバムを調べてみた。先に挙げた他にデヴィッド・マレイ、ジョン・ヒックス、レスター・ボウイ、チコ・フリーマン、ウディ・ショウ、マッコイ・タイナー、ワールド・サキソフォン・カルテット等々、70年代から90年代にかけてシーンを彩った人ばかりだ。下積みが長かったアルト奏者はデビューしてから一度も止まることはなかった。享年76歳。合掌。
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セ・パ両リーグ開幕、負けるなマッケンナ、ハミルトン、ハナ

2017-04-02 09:35:44 | Weblog
 プロ野球ファンが待ちに待った開幕だ。我が贔屓のファイターズは昨年、日本シリーズを制しているので今年は球団初となる連覇が期待される。31日の開幕戦、そして昨日の第2戦とも札幌ドームは満席だった。初戦は落としたものの、昨日はいい勝ち方をしている。栗山監督は、「昨年と同じことをやっていたら連覇なんて無理。進まないといけない」と語っていたが、勝ちにこだわる采配が楽しみだ。

 この時期は野球に因んだ曲やジャケットを話題にするのが恒例で、今年は「No Bass Hit」を選んだ。ガレスピーの「One Bass Hit」やジョン・ルイスの「Two Bass Hit」にヒントを得ているが、これは曲名ではない。メンバーはボールにサインのあるデイヴ・マッケンナとスコット・ハミルトン、ジェイク・ハナの3人である。ジャズファンはそれぞれの楽器を知っているのでピーンとくるが、野球ファンのために説明しておこう。「Bass」は「Base」にかけたもので、このアルバムはベース奏者がいないことからこのタイトルになっている。大先輩の曲にあやかった粋なネーミングである。

 プレイボールは直球ど真ん中勝負の「But Not For Me」だ。スタンダードの玉手箱ともいうべきミュージカル「Girl Crazy」の曲で、他にも「I Got Rhythm」や「Embraceable You」も同ミュージカルで発表されている。1930年当時のガーシュウイン兄弟は泉の如くアイデアが湧き出てきたのだろう。マッケンナの一音に促されるようにゆったりとしたテンポでハミルトンがメロディーを乗せ、倍にテンポを変えるタイミングでハナのブラシが重なる。コンコード・レーベルというと寛ぎの演奏というイメージがあるが、このテーマは緊張感があるし、徐々に熱を帯びてくるアドリブはジャズの王道を行くものである。内容はホームランと言っていい。

 オリジナル・スコアには「悲観的に、やや遅く」とジョージの指示があるように、この曲はタイトルの如くいじけた歌ではあるが、ヴァースに「Dreams come true!」という前向きな歌詞がある。栗山監督の座右の銘は「夢は正夢」だ。ファンの熱い声援がなければ優勝を呼び込むことはできないし、夢が叶うこともない。週末は野球を観ることとジャズを聴く以外、何もしないシーズンが始まった。
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