デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

トニー・ウィリアムスの緊急事態宣言はいつ解除されるのか

2020-04-26 08:44:17 | Weblog
 北海道も桜が咲きはじめ、ここ札幌の満開日は5月1日だという。春の風は柔らかいものだが、今年はコロナ禍で景色が暗いせいか風さえも刺すように痛い。いつもの年ならこの時期は札幌ドームで贔屓のチームを応援した後、仲間とススキノに繰り出して宴会をするのだが、緊急事態宣言で一変した。営業自粛要請もあり馴染みのジャズバーや、根城にしている「DAY BY DAY」も臨時休業となれば外出を控えるしかない。

 こんな時は派手なジャズに限る。迫力のあるアンサンブルに度肝を抜かれるビッグバンドや、めくるめくソロに七転八倒するハードバップもいいが、うってつけの1枚があった。「Emergency!」だ。トニー・ウィリアムスがマイルス・バンドを脱退後、結成した「Lifetime」のファーストアルバムである。ドラム、ギター、オルガンのトリオ編成とは思えない重厚感のある音にまずやられる。そして、トニーのシンバルレガートのスピードに負けないジョン・マクラフリンの高速フレーズと、「オルガンのコルトレーン」と呼ばれたラリー・ヤングのモーダルな旋律を彩るまさに緊急事態を思わせる不気味な音色が強烈だ。密度の濃い3人、いわゆる「3密」である。

 発売された当時、ロックだのマイルスの呪縛から脱却できないだのという批判もあったが、ジャズシーンが混沌としていた時代に一つの方向を示唆した作品だ。このバンドに例えばロッド・スチュワートやロバート・プラント、イアン・ギランというヴォーカルが加わればハードロックの名盤になっていたかもしれない。録音は「Bitches Brew」と同じ1969年だが、マイルスは8月で、こちらは5月だ。トニー加入後のマイルスが、トニーのスピードに対抗する形で同じ曲でも年を追うごとにテンポが速くなったように、常に新しいスタイルを模索していたマイルスが、この作品から影響を受けた可能性もあるだろう。

 スポーツ、コンサート等のイベントは中止になり、居酒屋やバーも閉まっている。5月6日までの緊急事態宣言と営業自粛要請ではあるが、延長すべきとの声も上がっている。いつまで続くのか先が見えない不安と、行動を制限された日常でストレスはたまる一方だが、いつかはコロナが消え、気持ちのいい春風を感じる時がくるだろう。それまでの辛抱だ。トニーのブルーノート・リーダー作に「Spring」がある。
コメント (7)
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