デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

グラチャン・モンカー3世にみるジャズ・トロンボーンの進化

2022-07-24 07:51:26 | Weblog
 6月3日にグラチャン・モンカー3世が亡くなっていたことを最近知った。「グレイシャン」や「グレシャン」と表記されることもあるが、1960年代にジャズの洗礼を受けた世代は「グラチャン」が馴染んでいるだろう。フリー・ジャズ系のトロンボーン奏者なので敬遠される方も多いが、ジャズ喫茶に通った人なら何度か聴いているはずだ。

 デビュー間もない1962年にベニー・ゴルソンのマーキュリー盤「Here and Now」と「Another Git Together」に参加している。ソロは少ないものの王道を行くスタイルだ。個性が際立ってきたのは翌63年のジャッキー・マクリーンの「One Step Beyond」と「Destination Out」だろうか。幾何学的でメリハリがある。そして初リーダー作「Evolution」。サイド参加したあとリーダー作を吹き込むブルーノート・スタイルなのだが、注目すべきは全曲オリジナルだ。デビュー作の場合スタンダードを数曲入れるのが習わしなのだが、アルバム全体を構築するだけの曲作りと演奏に自信があったのかもしれない。

 当時のブルーノート・オールスターズが並んでいる。マクリーンは先の2作品同様、ネオ・ハードバップというスタイルだ。リー・モーガンは「サイドワインダー」を発表する前で一段と輝いているし、ボビー・ハッチャーソンのミステリアスなヴァイブ音が不思議な世界を醸し出す。ボブ・クランショウの変幻自在のベースにトニー・ウィリアムスのシンバルが刺さる。そしてモンカー3世。アルバムタイトルの如くジャズ・トロンボーンとその後の新主流派というスタイルの「進化」をみるようだ。

 その「進化」はビーヴァー・ハリスと組んだ「360 Degrees Experience」や、カーラ・ブレイが中心となった「Jazz Composers Orchestra Association」につながる。グレン・ミラーやJ.J.ジョンソンのようにジャズ・トロンボーン史に名を遺す奏者ではないが、シーンに刺激を与えたことは間違いない。享年85歳。亡くなったその日は誕生日でもあった。合掌。 
コメント (3)
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