デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

「恋人よ我に帰れ」の賞味期限

2007-08-26 08:10:04 | Weblog
 Jリーグに加盟するコンサドーレ札幌のメインスポンサーである札幌の製菓メーカー、石屋製菓が看板商品「白い恋人」の賞味期限を故意に本来の期限よりも1カ月先の日付に変えて出荷していたことが報道された。「白い恋人」は北海道を代表する土産品であり、観光客の人気商品になっている。北海道経済界の重鎮でもある社長の辞任会見は、他にも隠していることがあるのだろうかどうにも歯切れが悪い。判明したことは迅速に公表すべきで、膿を出し切らないことには社長交代だけで企業は蘇らないだろう。

 こちらは賞味期限がないどころか、年月が経てば経つほど風味が増す「Jazz For A Sunday Afternoon」である。ヴィレッジ・ヴァンガードでのジャム・セッションを収めたもので、ビ・バップの総帥、ディジー・ガレスピーをはじめペッパー・アダムス、レイ・ナンス、チック・コリア、リチャード・デイビス、メル・ルイス、そしてエルビン・ジョーンズ、凄いメンバーが集まったものだ。注目すべきはバリトン・サックスのアダムスと、バイオリンのナンスで、通常のジャム・セッションでは聴かれない絶対数の少ない楽器の参加に特徴があり、このアルバムの聴きどころでもある。

 20分近い「恋人よ我に帰れ」が白眉で、ガレスピーとナンスのおどけた掛け合いから、ガレスピーが変化をつけてテーマを吹き、ナンスのソロに移る。弦楽器とは思えないホーンライクなバイオリンが聴衆を包み込む。67年当時、新進気鋭のピアニスト、コリアがここぞとばかりに繰り広げる熱いテクニカルなソロは見事なもので、そのバックで楽しそうにガレスピーが声を張り上げている。絶好調のメンバーが展開する白熱のソロと、その演奏を楽しむお客さんが一体になった雰囲気が伝わってくるこのアルバムは、ジャム・セッションの魅力が詰まった賞味期限が長い缶詰のようだ。

 北海道ではミートホープの食肉偽装事件が起きたばかりであり、雪印食品や不二家も隠蔽体質により屋台骨がぐらついた。石屋製菓は、こうした事例から教訓を学んでいなかったのだろうか。土産店から「恋人よ我に帰れ」と叫ばれるには、信頼回復という長い時間が待っている。
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限りなく響くマックス・ローチのドラム

2007-08-19 07:33:24 | Weblog
 一、十、百から始まる数の単位は果てしなく続き、どなたが考えたのかは知らぬが、10の64乗が不可思議、68乗は無量大数という。せいぜい財布の中は万であり、その上の億、兆となると数字の上では理解できても現実的でないだけに、その単位に円が付いても桁違いというものだ。数は全く不可思議な世界で単位は無限に続いている。

 無限とは限りがないことだが、「限りなきドラム」というマックス・ローチのアルバムがある。ドラムはリズム楽器だと思っていたが、このアルバムの「ドラム・オルソー・ワルツ」という無伴奏ドラム・ソロではメロディ楽器の機能をも発揮しているのだ。時に優しく、時に激しく、起伏のある展開はコンボ演奏のドラムのソロパートで、素晴らしいものを幾つも聴いているが、それはアドリブとして発展したリズムであり、メロディまでは刻んでいない。この曲は実験的な作品なのだろうが確実にメロディックな響が聴こえる。

 モダンジャズ・ドラムの開祖とも言われるローチは、パーカーをはじめマイルス、クリフォード・ブラウンというビッグネイムが話題になる度必ずその名が挙がる。そして今でこそ珍しくないジャズワルツなのだが、最初に4分の3拍子でスウィングできることを示したのもローチであった。音楽に政治的主張を持ち込むのには異論があるものの、黒人開放運動に呼応する「ウィ・インシスト」でプロテスト・ジャズを拡大したのもまたローチである。限りないジャズの発展を実践した数少ないドラマーであろう。

 15日、ローチが83歳で亡くなった。嘗ての盟友ディジー・ガレスピー、バド・パウエル、チャーリー・ミンガス、そしてパーカーとまた限りないセッションをやるのだろうか。マッセイホールのように・・・合掌。
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ジョージ・ケイブルスのワインを味わってみよう

2007-08-12 06:59:52 | Weblog
 先日、知人宅でヴィンテージ・ワインをご馳走になった。シャトー何とかいう一度や二度聞いたくらいでは覚えきれぬ銘柄で、香りは貴婦人の如く高貴で、味は熟女のようにキメ細かい云々と説明してくれる。熟れ過ぎた女性なら近くにいるが・・・熟女の味となると想像も付かないものの、美味しいワインであった。年代物となれば値段が気になるが聞くのは野暮というものだ。

 ジョージ・ケイブルスに「オールド・ワイン、ニュー・ボトル」というタイトル通り古いスタンダードを新しい感覚で録音したアルバムがある。アート・ペッパーがお気に入りのピアニストで、ペッパーが来日したときにケイブルスの生の音に接した方も多いであろう。小生も一度聴いているが、ブルースが上手くモード手法も得意のようだ。ペッパーのブルース感覚はパーカーの持つそれに近いもので、後年モード手法も取り入れている。その二つを併せ持つケイブルスはペッパーの良き伴侶であった。

 このアルバムではロリンズの「アルフィー」、エヴァンスの「ワルツ・フォー・デビー」といったビッグネイムの十八番に果敢に挑戦している。中でもバド・パウエルの決定的名演で知られる「イット・クッド・ハプン・トゥ・ユー」が素晴らしい。緩急自在のテクニカルなもので、サイドメンではなくジャズ・ピアニストとしてのケイブルスが聴ける。過去に名演が残されていると奇を衒った目先だけ新しい演奏スタイルになる傾向があるが、ケイブルスはその名演を踏まえたうえで独自の新しい解釈をみせてくれる。オールド・ワイン、ニュー・ボトル、なるほど温故知新である。

 古いワインほど美味しいとは限らないが、貯蔵の過程で生まれた香りとまろやかな風味を楽しむなら寝かせたほうがワインの真価を発揮する。このアルバムも早いもので録音されてから25年経つ。ワインのように寝かせられ芳香を放ちはじめたのではなかろうか。
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チャーリー・マリアーノは大鵬ファン

2007-08-05 07:29:50 | Weblog
 大相撲地方巡業が始まり、当地でも場所が開かれる。17年ぶりのことで前売り券の売れ行きは好調のようだが、朝青龍の休場を知った勧進元のため息が聞こえてきそうだ。怪我なら仕方がないと思えど、モンゴルで元気にサッカーに興じる姿をみれば仮病と疑われても仕方がない。強さ以上に横綱に求められるのは、土俵にファンを惹きつける品格であろう。

 「巨人大鵬卵焼き」という流行語を生み出した昭和の大横綱大鵬は、実力、人気、品格、どれをとっても申し分なかった。ファンも多く、アルト奏者のチャーリー・マリアーノもその一人だ。「A Jazz Portrait of Charlie Mariano」というアルバムで、「To Taiho」という大鵬に捧げた曲を吹き込んでいる。厳粛な横綱の土俵入りを思わせるイントロから力強い変化に富んだソロは、千秋楽の柏戸との大一番の展開をみるようでゾクゾクする。品格のある美しいマリアーノの音色が印象的だ。

 ジャズファンには周知のマリアーノだが、Jポップのファンにも知名度は高いようだ。あるCD店のポップに「マンディ満ちるのお父さん」と書かれていた。なるほどこの手があったか。もしやと思い、秋吉敏子のCDをみると「マンディ満ちるのお母さん」とある。(笑)このキャッチコピーを見てマリアーノや秋吉敏子を、何人かのマンディ満ちるファンが購入したかもしれないし、マンディ満ちるを知ったジャズファンもいるであろう。他のジャンルの音楽に触れるのもまた愉しである。

 相撲協会が朝青龍に下した処分は2場所出場停止という重いもので、引退勧告ともいえる。横綱昇進のときの口上は「横綱として相撲道発展のため一生懸命頑張ります」であった。髷を切るにしても、屈辱の処分を受け入れるにしても、品格という綱を編まなければ何事も発展しない。
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