デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

生誕100年を迎えたチャーリー・パーカーのアドリブに酔いしれる

2020-12-13 07:56:33 | Weblog
 上映時間169分。全編モノクローム。ヴェネツィア国際映画祭で上映された時には途中で席を立つ人が続出する一方、上映後はスタンディング・オベーションが起きたといういわく付きの作品だ。本当にポスターのようなシーンがあるのだろうか?怖いもの見たさで映画館に行った。主人公の少年が体験する暴力と不条理が次から次へと突き刺さる。「異端の鳥」は衝撃だ。

 どの芸術、どんな分野にも流れが大きく変わる時は必ずと言っていいほど異端児が登場する。ジャズ界も同じで異端のジャズマンと呼ばれた人は数多い。なかでも今年生誕100年を迎えたチャーリー・パーカーはジャズの概念を変えた人だ。小生と読者の多くはモダンジャズから入っているのでマイルスの「Kind of Blue」を聴いたあと、パーカーとマイルスが共演した1947年の「Milestones」を聴いても音が悪いという印象だけで演奏内容に大きなズレはないはずだ。またパーカー・ウィズ・ストリングスに続けてフィル・ウッズの「The Thrill Is Gone」をかけても何ら違和感はないだろう。

 ここでパーカーが登場した時代に戻ってみよう。ジェイ・マクシャン楽団のメンバーとして初録音した1940年というとジャズは踊るための音楽だった。サヴォイにリーダー作を吹き込んだ45年といえばファースト・ハードを結成したウディ・ハーマンや、ジューン・クリスティやクリス・コナーを起用したスタン・ケントン楽団が人気を博したスウィング全盛期である。この時代にコード進行に添いながらも瞬時の閃きで即興的なフレーズを吹いたのだから驚く。多くの人は踊る身体以前に頭が付いていかない。この時ジャズが踊る音楽から聴く音楽に変わった。

 正視に耐えられないシーンが続く「異端の鳥」は、「レッド・オクトーバーを追え!」の名演が光るステラン・スカルスガルドや、拙稿でも話題にした映画「スモーク」のハーヴェイ・カイテルといった名優が人間の悪を演じている。救いは「プライベート・ライアン」の狙撃が見事だったバリー・ペッパーの優しい眼差しである。「目には目を」と言ってピストルを渡すシーンは後の展開に見事につながる。久しぶりにもう一度観たい作品に出合った。
コメント (3)
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