デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

エイプリル・スティーブンス、4月に静かに眠る

2023-09-24 08:25:09 | Weblog
 中古レコード店のバーゲン箱にニノ・テンポのCD「Nino」があった。たまに掘り出し物がある。「'round Midnight」や「Stella By Starlight」といったスタンダードが入っている。ニノは前稿で触れたレッキング・クルー出身でジャズ畑のテナー奏者ではないが、MJQ結成40周年記念盤「& Friends」のゲストに呼ばれ「Darn That Dream」を夢見心地で吹いていた。

 90年代の録音と思われる Atlantic Jazz 盤はメンバーの豪華さに驚く。ピート・ジョリーにマイク・ラング、ジョン・ピサノ、テリ・リン・キャリントン・・・交友の広さからキャリアを改めて調べてみると1963年に、「Deep Purple」という曲でビルボード1位を獲得している。「夢のディープ・パープル」という邦題がついているので、日本でも流行ったのだろうか。60年代のポップスも多少は聴いているものの残念ながら記憶にない。何と姉のエイプリル・スティーブンスとデュオという。ジャケ買いした「Teach Me Tiger」のあの妖艶なシンガーがニノの姉とは知らなかった。

 「Nino」に数曲の自作ナンバーが収められていてスタン・ゲッツを甘くしたような音色で悠々と吹いている。姉のアルバムのタイトル曲もニノの作品だ。更にメイナード・ファーガソンがビッグバンドを組む前のコンボ作品「Dimensions」や、75年にジョン・レノンがオールディーズをカバーした「Rock 'n' Roll」、AORのカリスマであるケニー・ランキンの「愛の序奏」に参加し、クルーのスタジオ要員ではなくテナー奏者としてクレジットされている。曲を書き、歌い、テナーを吹き、時にはキーボードも弾く。多才な音楽家だ。

 エイプリルは今年4月17日に亡くなっていた。初耳だ。ジャズ誌の訃報欄はチェックしているが、見落としたのかも知れない。ジャケットを眺めてはうっとりして、聴いてはマリリン・モンローが歌っているのかと錯覚するほどのセクシーさで要らぬ妄想をする。享年は伏せておこう。レコードを買い、壁に飾った時から彼女は歳を取らないのだから・・・
コメント (11)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

バディ・チルダーズの膨大な録音数

2023-09-03 08:33:17 | Weblog
 先週、馴染みのジャズ喫茶「GROOVY」でリバティ―盤「Buddy Childers Quartet」を聴いた。ジャケットに見覚えがあるものの買ったことさえ忘れていたレコードだ。バディ・チルダーズの傑作というとフォー・ブラザーズのハービー・スチュワードが参加した「Sam Songs」があるが、アーノルド・ロスとツーショットのこの作品も忘れがたい。B面ラストの「Bernie's Tune」はワンホーンの名演だ。

 この機会にチルダーズの足跡を追った。スタン・ケントン楽団で活躍したのは知っていたが、その後トミー・ドーシーをはじめレス・ブラウン、ウディ・ハーマン、チャーリー・バーネット、ダン・テリー、ベニー・カーター、ジョージ・オールド、秋吉敏子とルー・タバキン等々、名立たるビッグバンドに参加している。単発のミルト・ジャクソン「Memphis Jackson」や、クレア・フィッシャー「Thesaurus」、ジーン・アモンズ「Free Again」にも呼ばれているので重厚なアンサンブルに欠かせないファーストコール・トランペッターなのだろう。

 「Wikipedia」によるとシナトラをはじめディーン・マーティン、ナット・キング・コールにエラ・フィッツジェラルド、サラ・ヴォーン、カーメン・マクレイの三大女性シンガー、そしてアニタ・オデイ、ジューン・クリスティ、クリス・コナーのケントンガールズ、更にパティ・ペイジ、ペギー・リー、テレサ・ブリュワー、驚くべきはモンキーズ、キャプテン&テニール、カーペンターズ等のポップシンガーのレコーディングにもクレジットされている。3万5千曲以上の録音に参加したドラマーのハル・ブレインや、米大統領よりも稼いでいたと言われるベーシストのキャロル・ケイというレッキング・クルーのメンバー並みの録音数だ。

 久しく聴いていないアルバムや忘れかけていた名演に耳を傾け、スウィングのエッセンス溢れるジャケットを眺めながら薫り高き珈琲を味わう。至福のひと時である。半世紀以上ジャズに浸っていても、火を吹くアドリブの熱度は聴くたび増すばかりだ。だからジャズはやめられない。ジャズ喫茶の扉を開けると広くて深いジャズの景色が広がっている。そこはあまりにも美しい。
コメント (7)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする