デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

自由か?無料か?The Best Things In Life Are Free

2015-01-25 09:33:44 | Weblog
 「The Best Things In Life Are Free」という曲がある。デシルヴァ、ブラウン&ヘンダーソンのソングライターチームが、1927年のミュージカル「Good News」のために書いた曲だ。ビング・クロスビーやジョー・スタッフォードの名唱よりも、ハンク・モブレイの「Workout」や、ソニー・スティットの「With The New Yorkers」というジャズ喫茶人気盤でハードバップ・ナンバーとしての印象が強い。

 このタイトルだが、歌詞を味わうこともなくインスト曲として聴いていたせいか、「自由ほど素敵なものはない」という意味だと思っていた。恥ずかしながら、これはアメリカの格言で、「人生の中で一番素晴らしいものにお金は不要」ということだと最近知った。この「Free」は自由ではなく、無料というわけだ。金銭至上の考えを戒める格言らしい。「地獄の沙汰も金次第」、「先立つものは金」、「金で面を張る」、「金が言わせる旦那」、「阿弥陀も銭で光る」、「千金は死せず百金は刑せられず」等、金を優先することわざが多い日本とは考え方が違うようだ。

 ややノスタルジックなメロディのせいか最近は取り上げられないが、比較的新しいところでベニー・ウォレスが1993年録音の「The Talk Of The Town」でこの曲をトップに持ってきている。白人のテナーマンだが、音は黒くてフレーズも太い。無伴奏ソロで始まるのだが、ロリンズのような起伏のあるフレーズでグイグイ押してくる。バックはジェリー・ハーンのギターにベースのビル・ハンティントン、アルヴィン・クイーンのドラムというトリオで、ニューロック色の強いギターを入れることで曲を新しくしている。映画音楽を手掛けているウォレスならではのカラフル・サウンドだ。

 タイトルの意味を間違って覚えたのは中学生のころと思う。ビートルズのナンバーに「Money」がある。オリジナルはR&Bシンガーのバレット・ストロングだが、ビートルズのほうが馴染み深い。この曲の歌い出しが「The best things in life are free」で、60年代の音楽雑誌に「人生で最高なのは、なんといっても自由」という訳が紹介されていた。50年間この誤訳を信じていたのだから、どこかで恥をかいていたに違いない。
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エルヴィン・ジョーンズと顔のないジャケット

2015-01-18 09:02:09 | Weblog
 今月8日に2014年公開の映画を対象としたキネマ旬報ベスト・テンが発表された。今年で第88回というから大正13年に始まった歴史ある賞だ。外国映画のトップは、当ブログでも話題にした「ジャージー・ボーイズ」で、ベストに入ると思っていたが、トップは意外な結果である。小生が一番に選んだ作品は入っていないので、札幌映画サークルのベストを見ると、こちらは投票中で結果はまだ出ていない。

 もしやと思い札幌の2013年のベストを調べると6位にランクされていた。観たのは昨年で、春まで長期間上映されていたので2014年の作品と思っていたが、公開は2013年の暮れなので2014年の対象にならないようだ。その映画とは、「鑑定人と顔のない依頼人」で、監督は傑作「ニュー・シネマ・パラダイス」で知られるジュゼッペ・トルナトーレである。衝撃の結末を観たあとで、様々に張られた伏線を楽しむ意味から、「半券で2回目1000円で見れるキャンペーン」が行われたほど手が込んでいた。二度目の方が楽しめる映画は久しぶりのことだ。

 さて、こちらは顔のない依頼人ならぬ、顔のないジャケットである。エルヴィン・ジョーンズの「Mr. Jones」だ。デイヴ・リーブマンをはじめスティーヴ・グロスマン、ヤン・ハマーという1972年録音当時、シーンをリードする若手に加え、実兄のサドやペッパー・アダムスというベテランが参加したアルバムで、当時主流のモーダルな方向ながら各人のストレートなソロは小気味いい。なかでもタッド・ダメロン作の「Soultrane」は、盟友コルトレーンとセッションを重ねた熱い日々を回想するが如くスリリングなドラムを堪能できる。映画同様スリル満点だ。

 札幌映画サークルの投票用紙には、2014年札幌公開の全作品が載っている。観た作品をチェックしてみると50本以上あった。毎年、投票しようと思いながらも話題作を見逃しているのでためらっていたが、昨年は評判になった作品をほとんど観ているので今年は参加したい。トップは「ストックホルムでワルツを」と決めた。投票締め切りは今月25日、来月7日の発表が楽しみである。
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肉食系女子モニカ・ゼタールンドに魅せられて

2015-01-11 09:06:31 | Weblog
 昨年暮れに公開された映画「ストックホルムでワルツを」をご覧になっただろうか。小生は上映2日目の日曜日に観たが、意外にも客席は埋まっていた。モニカ・ゼタールンドの半生を描いた作品なので、ジャズファンだけかと思っていたが、「あんなシンガーがいたんだぁ」とか「いい曲だわねぇ」という声も終了後に聞えたので、モニカもワルツ・フォー・デビーも知らない映画ファンが多いようだ。

 実話に基づいているので、ミュージシャンが実名で出てくる。しかもそれとなく本人に近い雰囲気を持った俳優を起用しているのが面白い。まず登場するのが評論家のレナード・フェーザーで、モニカが初めてアメリカのクラブで歌うときのバックはトミー・フラナガン、ダグ・ワトキンス、デンジル・ベストのトリオだ。更に的確なアドバイスを与えるエラ・フィッツジェラルド、そしてクライマックスでお待ちかねのビル・エヴァンス、チャック・イスラエル、ラリー・バンカーのトリオ、客席にはマイルスやサミー・デイヴィスJr.の姿もみえる。一流のプレイヤーに支えられたモニカがそこにいた。

 映画ではモニカの私生活が描かれていて興味深い。ジャケット写真や声、歌い方からは清楚なイメージしかないが、驚いたことに我儘でアルコール中毒、そして男との付き合い方も自由奔放だ。「私は好奇心の強い女」で知られる映画監督のヴィルゴット・シェーマンとの出会いから別れまでにモニカの生き方が顕著に表れている。今流の言葉で言うなら肉食系女子といったところか。その積極性がエヴァンスとの共演につながったのだろう。モニカの生き方を知って改めて彼女の歌を聴くと、今までに感じ取れなかった匂いをも聴きとれる。それは魅力的な女の匂いである。

 おそらくこの映画を観終わったあと、CD店でモニカの「ワルツ・フォー・デビー」を買い求めた人がいるだろう。この1枚のアルバムからモニカの他の作品、さらにビル・エヴァンスのアルバムへとライブラリーが広がるかもしれない。いい映画とはもう一度観たくなる作品と言われるが、鑑賞後、パンフレットやサウンドトラック盤、このモニカのCD等、何かを形で残したくなる作品もいい映画だろう。
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ブログ10年目に突入、今年も「舌」好調     

2015-01-04 08:42:04 | Weblog
 明けましておめでとうございます。モダン・ジャズを中心にディキシーからスウィング・ジャズ、フリー・ジャズ、ヴォーカルまで幅広く話題にしてきた拙ブログも早いもので今年は10年目を迎えます。ブログ開設当初はアクセス数も少なく、これだけ長く続けられると思いませんでしたが、次第に訪問される方も増え、多くのコメントをいただけるようになりました。

 さて、正月といえば福笑いです。今年初めはそんなジャケットをアップしました。マフィアのボスのようなスタイルは札幌で一番正確なリズムをたたき出すドラマー、佐々木慶一さんです。帽子が似合いますね。その隣で私が肩に手をまわしているのは斬新なフレーズで琴線を揺らすギタリストの志藤奨さんです。私が難曲ばかりリクエストするので困っているようです。そして私の横にいるのはエロティックなビートを刻むベーシストで、この福笑いジャケットを制作した鈴木由一さんです。眼鏡を外すと怖いお兄さんに間違えられるそうです。ともに私がこよなく愛するススキノのジャズスポット「デイ・バイ・デイ」の素敵な面々です。

 このジャケットの元はオスカー・ピーターソンとハーブ・エリスの再会セッション「Hello Herbie」です。録音は1969年で、私がジャズしか頭になかった高校生のときに夢中で聴いたレコードです。エリスは1953年から58年まで、ピーターソン・トリオで活躍しておりましたので気心の知れた仲ですが、久しぶりの共演となると張りつめたものがあるようです。ジャズの楽しさはこのアルバムのように和気藹々のなかにも緊張感があり、旧知の友を称えあう姿勢なのかもしれません。「Naptown Blues」や「Exactly Like You」等、どの曲も素晴らしい内容ですが、一番は勿論「Day By Day」です。

 今年もそんなジャズの楽しさが詰まった作品を紹介していきますので、昨年同様ご愛読いただければ幸いです。ベスト3企画が中心のコメント欄ですが、「Hello Duke」と気軽に声をかけるつもりで、ベストにかかわらずこの1枚でもかまいませんのでコメントをお寄せください。ジャズに関するご質問、ご感想もお待ちしております。今年もよろしくお願いします。
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