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デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

リー・コニッツのユーモアとエスプリ

2025-03-30 08:30:10 | Weblog
 「ミュージック・フォー・ブラック・ピジョン Music for Black Pigeons」。映画のタイトルである。黒い鳩のイラストが大きく描かれたポスターからはミステリーか、鳩の生態のドキュメンタリーを思わせるが副題が付いていた。「ジャズが生まれる瞬間」とある。デンマークの作曲家ヤコブ・ブロが世代や国境を越えて音楽家と交流した記録を捉えた作品だ。

 出演者はビル・エヴァンスをサポートしたポール・モチアンに、セシル・テイラーの理解ある相棒アンドリュー・シリル。菊地雅章との録音で知られるトーマス・モーガン。モチアン・バンドのビル・フリゼールにジョー・ロヴァーノ。ECMのドラマー、ヨン・クリステンセンに、マイルスが演奏した「Aura」を作編曲したパレ・ミッケルボルグ。現代ジャズ・テナー・サックス界を牽引するマーク・ターナー。アバンギャルドなパーカッショニストとして知られる高田みどりもいる。このメンバーとなれば中心にいるのはマンフレート・アイヒャーだ。

 そしてリー・コニッツ。ウネウネした長い旋律や抑えたトーンのトリスターノ派は苦手な方が多いようだが、1949年にマイルスと共演した「Birth Of The Cool」から2015年の「Frescalalto」まで閃きのあるアドリブは変わらない。その音楽性から堅いイメージがあるものの会話はウィットに富んでいる。この映画では100歳まで生きたユービー・ブレイクのことや1945年に初めて150ドルで買ったサックス等、ユーモア溢れる話に笑ってしまうし、インタビュー集「ジャズ・インプロヴァイザーの軌跡」のエスプリに富んだ応えを知ると聴き方が変わるかも知れない。

 タイトルの意味はラストでコニッツが明かす。犬にクラシック音楽やソフトロックを聴かせると穏やかな表情になり、猫に鳥のさえずりや川のせせらぎの自然音を流すと飼い猫が大人しくなると言われている。ネタバレになるので詳しく書けないが、心地よい音楽は鳩をも窓辺に引き寄せる力を持つようだ。そして、その黒い鳩は演奏が終わると飛んでいったという。


急進的なスタンスを保持したスタン・ケントンは絶賛されても謙遜した

2025-03-09 08:33:14 | Weblog
 ジャズ誌「Jaz.in」に岡崎正通氏が「Close Up ! Jazz Composer’s」を連載している。2月26日発売の017号は「スタン・ケントン楽団を再評価しよう」だ。アート・ペッパーやケントン・ガールズを追いかけた時にかなり聴きこんだ。ジャズ喫茶に置いていないし、国内盤は数枚しか出ていない、輸入盤も多くはない頃だったので音源を探すのに苦労した。

 「Discogs」によるとリイシューを含めてだがアメリカでは500以上のタイトルが並ぶ。一方日本はCD時代でも国内プレスは10枚にも満たないのだ。これほど本国と日本の評価と人気が著しく違うのは珍しい。岡崎氏が指摘している通り、難解さが付きまとっているからだ。エリントンやベイシーのように身体で感じるスウィング・バンドではなく、コンサートホールで厳かに鑑賞する音楽だ。ジャズ喫茶向きでもなければビッグバンドが手本にするスタイルでもないから現在まで大きく取り上げられたことがないのだろう。

 これから聴いてみようという方にお勧めは1955年録音の「Contemporary Concepts」でスタンダードに魔法をかけた演奏だ。前後するがペッパーを始めメイナード・ファーガソンやシェリー・マンの名を曲名にしている50年の「Stan Kenton Presents」は、縦横無尽なソロと耳に鮮やかなアレンジを満喫できる。そしてタイトルからして新しい「New Concepts Of Artistry In Rhythm」は何と52年だ。46年から51年までの音源をまとめたアルバムは「A Presentation of Progressive Jazz」である。常に急進的なスタンスを保っていたのだ。

 斬新な音楽を創造し続けたことが一番に評価されるが、誕生しては消えていく大所帯のビッグバンドを長年に亘り安定経営したのが凄い。ジューン・クリスティとデュエット・アルバムを作るほどのピアニストとしての感性も見逃せない。そしてジャズ史を彩る多くのソロイストやヴォーカリストを育てた。その功績を絶賛されても「彼らの実力です」とケントンは謙遜したという。