デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

マンデル・ロウが世に出したピアニスト

2018-01-28 10:02:49 | Weblog
 先週、ジャンゴ・ラインハルトを話題にしたので、思い立ってギターの系譜を辿りながらレコードを聴き返してみた。ざっくり言うとチャーリー・クリスチャン以降、大きく流れが変わり、その影響を受けたギタリストがモダンジャズを面白くしたといっていい。速弾きで魅了したタル・ファーローに、名人芸に溜息がもれるバーニー・ケッセル、スウィンギーで歌心あふれるウエス・モンゴメリー・・・

 挙げたらきりがないが、聴き進むうちマンデル・ロウのリバーサイド盤が出てきた。最近、訃報を聞いたことを思い出す。12月2日に95歳で亡くなっている。クリスチャン系のよく歌うギタリストで、映画やテレビの作編曲家としても実績のある人だ。特に日本未公開の映画「Satan In High Heels」(主演は何と「Just Meg And Me」で知られる囁き系のシンガー、メグ・マイルス)のサウンドトラック盤は、後に妖しいジャケットに変更して「Blues For A Stripper」のタイトルで出たほどの傑作だった。映画を離れても通用するもので映画はB級でも音楽はA級と言っていいだろう。

 リバーサイドにはこの「Mundell Lowe Quartet」の他にも「Guitar Moods」、「New Music of Alec Wilder」、「A Grand Night for Swinging」があるが、1955年にリリースされたこれが一番いい。ギター、ピアノ、ベース、ドラムという編成なのでたっぷりソロを味わえる。スタンダード中心の選曲で、どのトラックも馴染みやすいが、マット・デニスの「The Night We Called It A Day」が面白い。詞をかみしめるように絃をふるわせ、ここではディック・ハイマンがチェレスタで失恋の涙を落としている。カーメン・マクレイやサラ・ヴォーンの歌伴に呼ばれるロウだけありブルーバラードの解釈は見事だ。

 おっと、大事なことを忘れていた。ミュージシャンは自身の音楽を高めるのが一番だが、才能ある新人を世に出すのも務めである。ルイジアナを訪れたロウはたまたま寄ったクラブでピアノを聴く。気に入ったそのピアニストをニューヨークに呼び、ロウと同じアパートに住んでいたトニー・スコットに紹介する。更にボスのオリン・キープニュースに「The Touch Of Tony Scott」を聴かせる。ビル・エヴァンスの登場である。
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永遠のジャンゴ・ラインハルト

2018-01-21 10:10:00 | Weblog
 偉大なギタリストであることはジャズファンなら誰しも知っている。ジプシーで左手に火傷を負っていること。ステファン・グラッペリとフランス・ホット・クラブ五重奏団を結成していたこと。では、ジャンゴ・ラインハルトの音源をどれほど聴いているのか?なかには千曲近い録音をコンプリートされているコレクターもおられるだろ。また、セルマーのマカフェリで奏法を研究されている人もいるかも知れない。

 一方、60年代から70年代のジャズ喫茶でファンキーの洗礼を受けた世代は、ほとんど聴く機会はなかったと思われる。ジャズ喫茶でかからないのは理由がある。まずLP単位でレコードがないこと。次にヴァイオリン、ギター、ベースという弦楽器だけによる編成はハード志向の本格的鑑賞店にそぐわない。そして、オーディオも売りにしているため録音が悪いものは敬遠された。この世代が名前を知るのはジョン・ルイスがラインハルトに捧げた珠玉のメロディー「Django」や、ジョー・パスのトリコロールのジャケットが印象的なアルバム「For Django」を聴いたからだ。

 そんな方々におすすめの映画がある。「永遠のジャンゴ」だ。映画なので脚色されているが、ジプシーであるがゆえナチスに迫害されながらも戦時下を生き抜いた音楽家の不屈の闘志が描かれていた。エピソードを断片的に切り取った編集なので分かりにくい部分もあるが、ジャンゴという人と音楽を知ることができる。圧巻はドイツ将校の晩餐会でブルースやブレイク、シンコペーション、ソロを制限されながらも、それを無視して自己のスタイルでドイツ兵たちをもスウィングさせるシーンだ。音楽に人種の壁はないことを改めて知る。

 ジャンゴはジョー・パスやジム・ホール、ラリー・コリエルというジャズギタリストばかりか、エリック・クラプトン、ジミー・ペイジ、ジェフ・ベック、ジミ・ヘンドリックス、B.B.キング、カルロス・サンタナ等々、多くのミュージシャンに影響を与えた。伴奏楽器のギターをソロ楽器として使用したジャンゴがいなければ、ギターの系譜は大きく変わっていただろう。それではギターの世界は寂しい。
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戊戌のSomething Else

2018-01-14 09:30:17 | Weblog
 子牛寅・・・自分の干支はわかるものの十二支となるとスラスラ出てこない。年賀状の印刷見本やいただいた年賀で今年は戌年と知る。干支は10種類の「干」と、12種類の「支」が組み合わされたもので、その組み合わせは60種類あるそうだ。正確に言うと今年は60年に一回の戊戌(つちのえいぬ)になる。干支は年月日や時間、方位を表しているもので、60歳を還暦というのは干支の60種類が一回りしたことを意味するという。

 この前振りなら本題は犬のジャケットしかないが、どのアルバムが浮かぶだろう。まずデッカの動物ジャケットからメロフォーン奏者ドン・エリオットの「The Mello Sound」。このレコードを買う人は犬好きか、ビル・エヴァンスのコレクターだ。ブルーノート盤のエルモ・ホープ・クインテットVol.2もある。全曲オリジナルで臨んだ意欲作で、ジャケットにヴァン・ゲルダーの愛犬が写っている。同レーベルにはジミー・スミスの「Back At The Chicken Shack」もあった。ディズニー映画「101匹わんちゃん」や、グレゴリーのだまし絵に出てくるダルメシアンが行儀よく座っている。

 比較的新しいものからデンマークの歌姫、カトリーヌ・レガーの「Gorgeous Creature」を選んだ。映画のワンシーンを切り取ったような物語のあるジャケットである。2007年の録音でバックはギター、ピアノ、ベースという編成だ。このドラムレスがカトリーヌのややスモーキーな声を際立たせているし、時がゆっくり過ぎる北欧の空気感を醸し出している。どの曲も工夫があるが、特にいいのは「My Ideal」で、ギターのイントロからヴァース抜きでやんわりとコーラスに入るあたりは十八番にしているマーガレット・ホワイティングを手本にしているようで微笑ましい。

 60年前の戊戌、1958年はどんなことがあったのだろう。昭和でいうと33年で東京タワーが完成し、ロカビリーがブームだった。オーネット・コールマンが「Something Else!!! 」を引っ提げてデビューしている。名盤に数えられるキャノンボール・アダレイの「Somethin' Else」もこの年だ。アルバムタイトルの如く60年ぶりの戊戌は何かが起こる素晴らしい年になるかも知れない。
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DBD JAZZ MESSENGERS 2018

2018-01-07 09:35:30 | Weblog
 明けましておめでとうございます。モダンジャズを中心にディキシー、スウィングからフリージャズ、ヴォーカルまで幅広く話題にしてきた当ブログも13年目に入ります。名盤、名曲、名プレイヤーはほぼ紹介しましたので、ここ数年ジャズ指南書に載っていないアルバム、忘れらている曲、人名辞典にも掲載されていないミュージシャンの話題が多くなりました。そんなマイナーなネタにもかかわらず毎日多くのアクセスをいただき感謝しております。

 正月恒例の福笑いジャケット、今年もベーシストの鈴木由一さんに作っていただきました。強靭なビートは五臓六腑に響きます。隣は色彩豊かなピッキングで虹色のフレーズを編むギタリストの志藤奨さんです。トランペットを抱えているのはシンガーの平部健吉さんで、黒岩静枝さんの指導のもと日毎に歌が大きくなる逸材です。変幻自在のリズムでシンガーとメンバーを鼓舞するのはドラマーの佐々木慶一さんです。ギャンブラーが愛用したといわれるチロリアンハットがよく似合いますね。私がこよなく愛するジャズスポット「DAY BY DAY」の素敵な仲間です。

 拝借したジャケットは「THE JAZZ MESSENGERS」で、グループ名がそのままアルバムタイトルになっていることから混同を避けるため「CBSのJM」とか、「Nica's Dream」の初演が収められているので「ニカのメッセンジャーズ」と呼ばれているレコードです。JM最後になるホレス・シルバーにドナルド・バード、ハンク・モブレーのフロント、ダグ・ワトキンス、そして親分のアート・ブレイキーという1956年当時最高にホットなメンバーによるホットなセッションです。ビ・バップからハード・バップに流れが変わるジャズ史にとって重要な時代を捉えた名盤といっていいでしょう。

 今年も名盤から珍盤まで幅広くジャズの魅力をお伝えしますので、昨年同様ご覧いただければ幸いです。コメント欄はベスト3が中心ですが、お気に入りの1枚でもかまいませんのでお寄せください。ジャズに関するご質問、ご感想もお待ちしております。アクセス数は勿論ですが、コメント欄が賑わうことで成立するブログですので、今年も皆様のコメントをお待ちしております。
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