デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ジェリー・マリガンを尊敬しているとアストル・ピアソラは言った

2018-12-16 09:16:04 | Weblog
 上映中やこれから封切予定の作品にシンガーやミュージシャンのドキュメンタリーと彼らを題材にしたものが並んでいる。狂気の天才と呼ばれたチリー・ゴンザレスの「黙ってピアノを弾いてくれ」、クイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」、「エリック・クラプトン 12小節の人生」、レディー・ガガ主演の「アリー スター誕生」、ホイットニー・ヒューストンの素顔に迫る「オールウェイズ・ラヴ・ユー」、スキャンダルとバッシングの「私はマリア・カラス」、チケット完売神話の「バルバラ セーヌの黒いバラ」・・・

 そして、「ピアソラ 永遠のリベルタンゴ」。タンゴ界の革命児アストル・ピアソラの生の声が聞ける。タンゴといえば「ラ・クンパルシータ」、ピアソラというとバンドネオンの知識しかなかったが、ジェリー・マリガンとの共演盤「Summit」でピアソラをじっくりと聴いた。哀愁漂うバンドネオンの音色が渇いたバリトンの低音とほど良くマッチして夜の巷を徘徊するような自由と孤独に浸れる。タンゴの情熱や色気と、ジャズの即興と興奮を期待すると手も足もリズムのバランスを崩してしまうが、それぞれの分野で活躍し、楽器を極めた二人のセッションはジャンルを超えた一つの音楽として立派に成立している。

 劇中二人の演奏シーンもあって興味深い。ここでピアソラは尊敬するマリガンと共演できて嬉しい、そして何よりも自分の曲をマリガンが演奏してくれたことに感謝していると語った。ニューポート・ジャズ・フェスティバルの創設者ジョージ・ウェインに言わせると、マリガンは相当な目立ちたがり屋なので、「Line For Lyons」や「Walkin' Shoes」を持ち込みそうにみえるが、この「Summit」にしてもマリガンのは1曲だけで他のトラックはピアソラの曲で占められている。そういえばモンクとの共演でもモンクの曲が中心だった。マリガンは相手に華を持たせる控え目な男だったのかも知れない。

 踊るタンゴを聴くタンゴに変えたピアソラは保守的なファンからバッシングを浴びる。フロアで踊るスウィングジャズから客席で聴くビバップに変わった時と同じだ。その前衛的なタンゴも即興演奏が主体のビバップもやがて主流になる時代がくる。ピアソラがタンゴ革命の可能性を探り、エレキギターを取り入れた楽団を結成したのは1955年のことだ。奇しくもチャーリー・パーカーが亡くなった年である。
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前田憲男さんがウエスト・ライナーズで活躍したころ

2018-12-02 09:24:47 | Weblog
 先月25日に亡くなられた前田憲男さんがジャズ界で注目されのは、昭和32年に「西条孝之介とウエスト・ライナーズ」に参加してからだ。「日本のジャズ史」(スイングジャーナル社刊)から当時の様子を抜粋してみよう。「メンバーは五十嵐兄弟=武要(ドラムス)、明要(アルト・サックス)、原田忠幸(バリトン・サックス)、前田憲男(ピアノ)、今泉俊明(トランペット)、金井英人(ベース)の七名で・・・」錚々たるメンバーだ。

 そして、「このバンドを支えたのは、スタン・ゲッツ、リー・コニッツら白人サックス奏者を専門に研究していた西条の知的なプレイと、その「お殿様」のような風貌にあらわれた人柄の良さだったが、もうひとつ、前田憲男のペンに負うところが大きかった」と。当時の音源は「20世紀日本ジャズ大系」にまとめられているので聴くことができるが、三管編成を活かした編曲は見事なものだ。とかく日本ジャズの黎明期は云々と批判する輩がいるが、とんでもない。阿吽のアンサンブルといい、斬新なハーモニーといい、各人の溌溂としたソロといい、アメリカのジャズに劣らない高い水準を満たしている。

 ウィンド・ブレイカーズは前田さんが1980年に日本のトッププレーヤーを集めて結成したバンドだ。ウエスト・ライナーズ時代からの旧友西条孝之介と原田忠幸をはじめ、テナーサックスの稲垣次郎、トランペットの数原晋、伏見哲夫、トロンボーンの原田靖、ギターの沢田駿吾にベースの荒川康男、ドラムスは猪俣猛という、言うなれば重鎮オールスターズである。ジャズが普及していない時代にジャズの楽しさと面白さを伝えてきた人たちばかりなので理屈抜きに楽しめる。タイトル曲をはじめ「Bag’s Groove」、「Satin Doll」、「My Funny Valentine」という耳馴染みのメロディーが輝いているのは、いぶし銀の光沢を放っているからだろう。

 前田さんは、「11PM」や「題名のない音楽会」といったテレビ番組に出演したり、「女心のタンゴ」や「冬のリヴィエラ」という歌謡曲のアレンジも手掛けているので、ポップス畑に見えるが、れっきとしたジャズピアニストである。後に渡辺貞夫も加わったウエスト・ライナーズをトップコンボに成長させたセンスのいいピアニストがいなければ今の日本ジャズの発展はなかったかも知れない。享年83歳。合掌。 
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