デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ミルキー・ウェイ

2007-01-28 07:59:06 | Weblog
 左党には洋菓子や飴は縁がないが、子どもの頃はシュークリームはご馳走であり、飴は手軽なおやつの一つだった。飴といえばカンロ飴で、「ミルキー」でキャンディという名を知ったと思う。不二家の事件でもなければミルキーの名も忘れかけていたが、キャラクターのペコちゃんのパッケージが子ども心に夢を与えていた。そのミルキーもペコちゃんも店頭から姿を消しつつある。

70年代初頭からリアルタイムでジャズ体験のある方が、最初にウェザー・リポートの音を聴いたのは71年のデビューアルバム1曲目「ミルキー・ウェイ」であったに違いない。ジョー・ザヴィヌルとウェイン・ショーターが組み、当時驚異のテクニックといわれたミロスラフ・ヴィトウスも参加したスーパーバンドだけに発売前から大きな話題を呼んでいたのを思い出す。最初のアルバム、そして最初の曲「ミルキー・ウェイ」はメンバーが練りに練り上げ、聴く側も相当の期待を寄せたであろう。70年代のジャズシーンを予見した宇宙的広がりを持った作品で、35年経った今聴いても新鮮な輝きを持っている。

 69年のマイルス・デイヴィス「ビッチェズ・ブリュー」以降、急速に電化が進み、あのビル・エヴァンスまでもが70年にエレキピアノのアルバムを作っている。耳ざわりがよく聴いて心地よいポップ志向のフュージョンが主流になるのは72年以降のことだ。ウェザー・リポートがデビューした71年は片や電化したクロスオーバー、片や主流から外れかけた伝統スタイル、そしてフリージャズをも混在する過渡期といえる。そんな混沌とした時期にマイルス門下生のウェザー・リポートが目指したものは、即興演奏と編曲性の融合であった。ザヴィヌルとショーターの音楽的コンセプションの相違が良い意味で調和していたのであろう。これが続くのは数年であり、その後ザヴィヌル独裁期になるとファンク一色になり、ウェザー・リポートという冠は同じでも全く違う作品群が並ぶ。冠は取って見なければ中身は分からない。

 企業モラルが問われる今、老舗の冠だけでは生き残れない。日本ハムしかり、パロマ工業しかり、そして今回の不二家しかり、同族企業の不祥事が相次ぐ。「売り家と唐様で書く三代目」と言う江戸川柳が示すように体質が甘い同族企業は衰退に向かうことが多い。どうやら甘い飴ではなく鞭も必要なようだ。
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マイケル・ブレッカー

2007-01-21 08:36:01 | Weblog
 シンセサイザーは70年代にキース・エマーソンが使用したことからロック界に広がり、いつの間にか音楽界全体に波及した。今ではレコーディングに欠かせない楽器だという。ジャズ界で最初に使ったのは誰なのか分からないが、ジョー・ザヴィヌル、ハービー・ハンコックあたりが魁だろうか。アナログ世代にとって電子加工された音というのは感覚的に受け入れ難く、耳に馴染むのには時間がかかる。

 87年のマイケル・ブレッカーの初リーダー作品を聴いたとき、パット・メセニー、ジャック・デジョネット、チャーリー・へイデン等、当時の一流が揃っているのにシンセサイザーの機械化された音のせいか緊張の欠く散漫な印象を受けた。そのサウンド、アルバム全体は80年代の先端であり、全米ジャズチャートで19週連続一位を記録したのも肯ける。ジャズの新しい方向性を示唆した所謂新主流派の代表的な音なのだろうが、一時的に売れたものはブームで終わるきらいがある。ジャズはベストセラーよりロングセラーの作品こそが評価に値する。

 そんなブレッカーに対する評価を大きく変えたのは01年のマッセイ・ホールのライブ盤だった。ハンコック、ロイ・ハーグローヴと組んだセッションでマイルス・デイヴィスとジョン・コルトレーンにちなんだ曲を演奏している。マッセイ・ホールといえば53年にチャーリー・パーカー、ディジー・ガレスピー等バップ・ジャイアンツが歴史的なセッションを行った場所である。ブレッカーも一段と熱が入ったのであろうか、気魄あるソロが随所に聴かれ今までのイメージを払拭した。アレンジは今様だが、フレーズは伝統に則ったもので、実力のあるブレッカーのアコースティックなジャズは、新主流派から新を消し去った内容に仕上がっている。

 13日にブレッカーが白血病のため亡くなった。グラミー賞11回、日本人アーティストとも共演が多く、参加作品は1000枚以上ともいわれる。ジャズロックと呼ばれたブレッカー・ブラザーズ時代から今日に至るまで多くのジャズファンを増やした違いない。57歳という早すぎる死が惜しまれる。ご冥福をお祈りします。
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ヴィレッジ・ヴァンガード

2007-01-14 08:34:01 | Weblog
 全国にフランチャイズ展開している書店「ヴィレッジ・ヴァンガード」が昨年、当地にオープンした。サブカルチャー系の本をはじめCD、レコード、玩具、あらゆるグッズが空間を埋めている。設立者の菊地敬一さんはジャズが好きで、店名はアメリカのジャズクラブに由来し、店名のロゴはソニー・クラークの「クール・ストラッティン」に倣っている。ジャズファンなら一度は訪れてみたい本屋だ。菊地さんが道東出身ということもあり陰ながら応援している。

 数々の名演を生んだジャズクラブ「ヴィレッジ・ヴァンガード」は35年にオープンした。オーナーのマックス・ゴードンは、彼が声を掛ければ大物ジャズメンも出演したという顔役で、自伝的な著書「ライブ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード」にはジャズ界の裏話が書かれていて興味深い。みんなが休む月曜日もオープンし、多くのジャズメンに演奏の機会を与えた功績は大きい。サド・ジョーンズとメル・ルイスの双頭バンドを誕生させたのもゴードンのアイデアによる。多くのジャズクラブが閉鎖される中、長きに亘って経営を存続できたのはジャズを愛し、プレイヤーを信頼し、ユダヤ商法的経営手腕によるものだろう。

 ゴードンお気に入りのソニー・ロリンズやビル・エヴァンスのヴァンガード・ライブ盤は名盤の呼び声が高いが、ジュニア・マンスのライブ盤も見逃せない一枚だ。ファンキーでソウルフルなピアノと形容されるマンスだが、初めて耳にしたとき感じたのは黒っぽさだった。ダラー・ブランドやホーレス・パーランも黒っぽいピアノだが、ブランドの黒さはアフリカ的であり、パーランはゴスペル、そしてマンスはブルースの黒さだと思う。ライブならではの乗りのいいブルースで自然に体が揺れたとき少しばかり黒っぽい感覚に近づいたような気がした。

 子どもの頃、お菓子やオモチャが所狭しと並ぶ駄菓子屋は、少ない小遣いで楽しめる夢宇宙であった。そんな夢空間を見るような書店「ヴィレッジ・ヴァンガード」で忘れかけていた童心を探すのも楽しい。菊地さんの著書のタイトルは、「ヴィレッジ・ヴァンガードで休日を」だ。
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世界は日の出を待っている

2007-01-07 07:51:32 | Weblog
 あけましておめでとうございます。昨年は多くの方にご覧頂き、またコメントも多数お寄せ頂き楽しい1年でした。2年目に入ったアドリブ帖ですが、今年も毎週日曜日更新を目標にしておりますので引き続きご覧頂ければ幸いです。

 ここ数十年、年明けの音出しは「世界は日の出を待っている」に決めている。レス・ポール&メリー・フォードのヒットで知られるこの曲の決定的名演は、ジョージ・ルイスの「ジャズ・アット・オハイオ・ユニオン」に収められていて、「マレロのサンライズ」と呼ばれているものだ。ニュー・オーリンズ・ジャズに欠かせないバンジョーをそう多くは聴いていないが、ローレンス・マレロの6分を超えるバンジョーソロを上回る演奏には出会ったことがない。2枚組のアルバムとはいえ、この一曲、いやこのソロを聴くだけでも傍に置いておく価値がある。

 このアルバムは54年のオハイオ州立大学のライブ盤で、ディスク・ジョッキーという海賊まがいのレーベルで発売された。真偽は定かではないが、隠し録りされたとも云われ、何らかのトラブルで発売後2ヶ月でシュワンのカタログから消えている。当然発売枚数は少なく、100セットを超すと税金の対象になることからオリジナル・プレスは100セット以下ともいわれている超が付く幻の名盤である。日本に入ってきている枚数は僅かで、コレクター間では誰が持っているかに就いては詳細な情報が交換されていたという。

 ニュー・オーリンズ・ジャズに造詣が深い河野隆次さんの尽力によって徳間音楽工業から再発されたのは74年のことであった。再発のニュースが流れたとき制作部に、発売したら会社を灰にするぞという脅迫紛いの電話もあったという。オリジナル盤所有者のコレクター心理も分からぬわけではないが、名演は広く聴かれて初めて名盤になる。20年間、マレロのサンライズは陽の目を待っていた。
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