デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ステイホームでシルヴィ・ヴァルタンの「Comin' Home Baby」を聴く

2020-05-24 08:11:22 | Weblog
 ステイホームに従い自宅で過ごしている。本を読みジャズを聴く毎日だが、いつになくテレビを観るようになった。ロケもスタジオ収録もできないことから再放送や編集番組が多い。これはこれで普段テレビを観ないので逆に新鮮なのだが、繰り返し入るCMに閉口する。しゃべる犬に、眼鏡を置いたソファーに座るホステスに、気持ち悪いダンスを踊る少年に、ぐるぐる回転する画面に、上から目線の自動車保険・・・

 テレビを消したくなるが、昭和の時代は番組よりもCMが待ち遠しいものがあった。先日破綻したアパレル大手レナウンが、シルヴィ・ヴァルタンを起用したワンサカ娘は今でも脳裏に焼き付いている。シンプルな背景で歌って踊るだけなのだが、これが魅力的だ。流れたのは1965年で、前年発売された「アイドルを探せ」が大ヒットしていた頃だった。思春期ということもあり色っぽい流し目に、欧米では歯の隙間から福が舞い込んでくると言われているキュートなすきっ歯、そして何より艶っぽいブロンドのボブ・カットに強く惹かれた。大人になったらこんな素敵な女性と付き合いたいと思ったものだ。

 今でも現役のヴァルタンは多くのアルバムをリリースしているが、ジャズファンにお薦めの1枚といえば「Twiste Et Chante」だろうか。タイトルのビートルズ・ナンバー「Twist And Shout」をはじめ、カスケーズの大ヒット曲「悲しき雨音」やポール・アンカがヴァルタンのために作った「I'm Watching」等、お馴染みのナンバーばかりだ。バックは兄のエディ・ヴァルタン率いるオーケストラで、イエイエの女王の魅力を余すところなく引き出している。なかでも「Comin' Home Baby」が素晴らしい。メル・トーメの歌唱スタイルがスタンダードになっているが、エディの粋なアレンジで作者のベン・タッカーも驚くだろう。

 レナウンのCMといえば70年代にアラン・ドロンを起用している。最近のCMではトミー・リー・ジョーンズやオーランド・ブルーム、ロバート・デ・ニーロ、ブルース・ウィリスと外国の俳優が登場するのは珍しくないが、当時は驚きだった。大人になってダーバンのスーツを着て、「D’urban, c’est l’élégance de l’homme moderne」と気取ってみても終ぞシルヴィ・ヴァルタンのようなブロンドのいい女と付き合ったことがない。
コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする