徒然なるままに…なんてね。

思いつくまま、気の向くままの備忘録。
ほとんど…小説…だったりも…します。

一番目の夢(第四十一話 BODYⅡ)

2005-06-29 12:05:31 | 夢の中のお話 『樹の御霊』
 祈祷所の天井近くから修は戦いの様子を見物していた。檻になった自分の身体が三左にいいように操作されても、また笙子や透たちの攻撃によって痛めつけられても、他人事のようでさほどの感慨も沸いてこなかった。

 忙しい仕事や雑事の合間をぬって長期戦を乗り切るために鍛えてきた身体ではあった。だからといって別段執着心があるわけでもなく、『死ぬときにはただの器だな。』と冷めたように呟いた。『まあ、心持細身ではあるけど、わりと頑丈な檻で三左にとってはよかったかもね。』

 修の意志を受けて三左への積極的な攻撃を開始した二人だが、三左相手に苦戦しているというよりは、自分たちの力のコントロールに苦戦を強いられていた。

 「愚か者めら!どこに向かって攻撃している?」

 三左は大笑い。このまま自滅してくれと言わんばかりだ。
逆に容赦なく二人を打ちのめし、片手間に笙子たちにも攻撃を仕掛ける。

 「魂だけ狙うってのも難しいもんだぜ。」

肩で息をしながら雅人が言った。

 「…雅人。逆でいってみないか? 合わせんじゃなくて弾く方…。 なんか前修行にあったみたいな…。」

 「おまえ。それ最初から言え!」

修がまたくすっと笑ったように感じた。

 三左が何やら手の平に念を集中し始めた。うねり飛ぶ塊のような衝撃波とは異なって、鋭い矢のような念の塊を作り出した。

 「さてと。雑魚と遊ぶのも面倒になってきた。一気にあの世へ送ってやろうかの。
切り殺す…刺し殺すどちらがお好みかの?」

 人を蔑んだような厭味な笑いを浮かべ二人荷狙いを定めた。いままでよりもさらに大きな力による念の波動が透にも雅人にもピリピリと感じてとれる。

 「似合わねえし…お爺言葉。」

 「誰が聞いても正体バレバレだぜっつうの。」

 辺りを包む空気を切り裂いて稲妻のような念の矢が二人を襲った。かろうじて喰い止めたものの三左の圧倒的なパワーの前に、二人の身体は祈祷所の壁に叩きつけられた。
二人が起き上がる間もなく次々と矢は放たれる。
矢は攻撃を避けようとする二人の皮膚を切り裂き、身体を貫こうとする。
 
 笙子が間に割って入り、間断なく放たれる矢を叩き落とし、二人が態勢を立て直すのを助けた。

 「馬鹿なこと考えてんじゃないわよ。
 あの身体はすでに三左に支配されているんだから、三左の魂を攻撃すれば、当然、修の身体はボロボロになるの。
 あなたたちが身体への攻撃を避けようとするのは無駄なことよ。」

 笙子としては自分がメインで戦った方がどれほど効率的かとも思うが、黒田と一左を護りながら、そして子どもたちの身体に結界を張りながらでは十分な動きが取れない。
不慣れな二人が戦う様子にはイライラ度も増してくるが、『これも修練のひとつだわ。』と自分に言い聞かせる。

 次郎左は勿論自分の身を護ることぐらいわけないことだ。笙子に護ってもらうまでもない。ただし、後見としてはこの戦いは同時に相伝でもあるため余計な手出しはするまいと考えている。
 
 笙子のおかげで態勢を立て直した二人だが、辛うじて避けてきた三左の攻撃のおかげですでに身体中傷だらけになっていた。

 「情けない姿よの。身の丈六尺を超えるでかい図体をした男が二人もいて、姫君の助けを借りねばならんとは。ほっほっ。」

三左は声を上げて笑い転げた。 
  
 「六尺って…何センチ?」

傷ついた肩を押さえながら雅人が訊いた。

 「1.8メートルってところ…。習ったろ。」
 
透はそう答えて顎の辺りを手で拭った。
 『あれは…修じゃない。』ふと、そんな言葉が透の脳裏をよぎった。
『そう…あれは修さんじゃない。見た目に惑わされるな。』

 「雅人。いくぜ。」

透の言葉に雅人が頷いた。

 笑いの止まらない三左めがけ、二人の身体から二重螺旋を描くように強烈な衝撃波が放たれた。
不意をつかれた三左は反対側の壁板まで吹き飛ばされた。身の丈六尺が紙のように宙を舞った。

 『おやおや。軽々と…。六尺を持て余してない?』修は笑った。 

 思いがけず反撃を受けた三左は先ほどまでの上機嫌はどこへやら、一変して気が狂ったように二人への攻撃を再開した。
 しかし、修の身体へのこだわりを捨てた二人はそれまでとは打って変わって攻撃力を増した。自分たちがダメージを受けるばかりではなく、相手にダメージを与えることも頻繁になってきた。

 三左は焦った。やっと手に入れた修の身体なら最高のパワーが出せるはずだと思った。どこをどう間違っても子ども二人を相手に負けるわけが無い。
 三左は怒りに任せ、下手をすれば自分も消し飛ぶかもしれないほどの力を猛スピードで二人めがけて放出した。

 笙子はとっさに黒田と一左を庇った。次郎左も態勢を低くして衝撃に備えた。

 わずかに受け流したものの完全には避けられず、二人は骨も砕けんばかりに壁板や床に叩きつけられた。身体に受けた衝撃と激しい痛みとで二人は一瞬意識を失った。
混沌とする意識の中で修の声がこだました。『諦めるな…生き抜け。』

 気が付いた時には三左が透のすぐ傍まで来ていた。透は何とか動こうとしたが身体がいうことを利かない。 
 
 「楽にしてやろうの。」 

 その手に稲妻のような念の槍を持ち、透の胸の中央をめがけて振り下ろそうとした。 

 急ぎ笙子がその槍を打ち砕だいた。

 百も承知と言いたげに三左はにやりと笑った。槍は瞬時に元の姿に戻り、笙子の虚を突いてそのまま振り下ろされた。
 透が目を閉じた瞬間、雅人の大きな身体が透に覆いかぶさった。槍は透の心臓を逸れたものの、雅人の肩甲骨から肺を貫き、透の肺までを串刺しにした。

 「ま…雅人。」

 「…。」

 三左は動けなくなった二人を尻目に、笙子が庇う黒田たちの方へと向かった。
笙子が身構え、一左を呼び覚ましていた黒田が振り返った。  

 手始めに笙子めがけて矢を射ろうとした三左は背後に大きな波動の気配を感じてふと振り返った。

 透と雅人の傍らに修の姿があった。修は三左のことなど眼中に無いかのように、二人を串刺しにしている念の槍を消滅させた。

 三左は手にした矢を修に向けて射かけようとした。振り返ることも無く、修は片手でその矢もろとも三左を吹き飛ばした。

 修の手が二人に触れると、瞬く間に傷が癒え、二人は意識を取り戻した。何が起こったのか分からず、二人ともしばらくボーっとしていたが、やがてはっきり修の姿を捉えた。

 「がんばったな。」

そう言って修が微笑んだ。雅人が頭を掻き、透はしょげかえった。

 「ごめん。修さん…僕…。」

 「まあ…こんなもんだ。いまの所は…。」

 三左に勝てるほどの力はいまの二人にはまだ無いという事実。最初から分かりきっていたことだと言わんばかりに修は笑った。

 無視を喰らった三左は屈辱に猛り立った。
不思議な光景が皆の前に展開した。双子のように魂と身体が対峙している。

 悪鬼を宿す身体と祖霊の聖なる力を引き継ぐ魂と。

まるで人間の内面の葛藤を映像化して見ているようだ。

 「まずいわ。黒田さん。早く大伯父さまを起こして!」
 
 「御大!御大!」

黒田は焦った。
このまま一左が蘇らなければ大変なことになる。
『修の命がかかっているんだ。目覚めてくれ!』
祈る気持ちで一左に呼びかけた。




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