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徒然なるままに…なんてね。

思いつくまま、気の向くままの備忘録。
ほとんど…小説…だったりも…します。

続・現世太極伝(第十三話 狙われたノエルと謎のテレパス)

2006-05-29 21:19:36 | 夢の中のお話 『続・現世太極伝』
 ガラガラとシャッターを閉める音が響いて…今日のバイトも終わり。
遅番だったノエルはひとりマンションへ向かった。
 梅雨が明けたのにどんよりとした天気が続いて一向にからっとしない。
気温が高いだけに余計に鬱陶しい。肌に絡みつくような重たい空気が気味悪い。
 
 早くにあがった亮は今夜…悦子とデートらしく晩くなるのでマンションには寄らないと言っていた。

 悦ちゃんは…やっぱ亮の方が好みなわけね…。

 ある意味…何度もデートしていながら…悦子に同性としてしか見て貰えないノエルは少しばかりやきもちを焼く。

 別に…いいけどね…。 

 そんなことをぶつぶつと呟きながら歩いて…あと一歩でマンションの玄関というところで…ノエルはふいに背後に人の気配を感じた。

 振り返っても誰も居ない。
おかしいな…と首を傾げながら玄関に入ろうとした時、いきなり後ろから誰かが襲い掛かった。

 小柄で華奢なノエルを女の子と間違えたのか…?
それとも悪ガキだった頃の意趣返しか…?
ひょっとして強盗さんか…?

 「どちらにしろ何処のどいつだぁ! 」

 喧嘩ノエルの本領発揮。強烈な肘打ちを食らった相手は思わず声をあげた。
間髪居れず蹴りが飛ぶ。手強いノエルに相手は思わず怯んだ。
 違うひとりが何とかノエルに触れようと手を伸ばしたが、その手はいとも簡単に掌で払われた。

 相手はあまり喧嘩慣れしていないようだ。
小回りの利くノエルを両側から力任せに押さえつけようとしてふたり同時に拳と蹴りを食らった。

 「てめぇら…なめてんじゃねぇぞ! 」

 よく見ればどう見ても日本人とは思えないふたり組み。
唖然としてこちらを見ている。

はぁ…? 外人さんがなんで俺を襲ってくんのよ?

 そうこうしているうちに玄関の扉が開いて中から西沢と滝川が飛び出てきた。
外で何事か騒ぎが起こっていると感じ取ったらしい。
 
 「大丈夫か? ノエル! 」

 ふたり組みは慌てて立ち去ろうとした。
西沢がふたりの動きを止めた。ふたりの意識を読み出すと同時に滝川に合図した。
滝川がポケットから携帯を出して…はいチーズ…ふたりの顔を写した。

 ついでに自分たちに関する記憶を消去して…ふたりを解放した。
通りかかった車にクラクション鳴らされて、ふたり組みが我に帰った時には三人はマンションの中に消えていた。



 敵も然る者…西沢に動きを止められる瞬間に意識を閉ざし、自分たちの正体がばれないようにしていた。
 西沢が読み取ったのはその少し前の意識…先に店を出た男の子は大きくて扱いにくそうだった…とか…小柄なノエルなら捕まえやすそうだと思ったのに…というような内容…当てが外れたわけだ…。

 まあ…見た目で判断されたわけだな…。
あいつら…腕っ節はそれほどでもなさそうだったから…強そうに見える亮の方は避けたってことだ…。
携帯の画像データをパソコンに取り込みながら滝川が言った。

 読みが甘いねぇ…喧嘩なら僕の方が上だし…。
ノエルはふふんと鼻先で笑った。
 
 「けど…ノエル…決して油断できる相手じゃないんだよ…。
きみが予想外に強かったんで…やつら驚いて取り乱しただけで…あれで落ち着いていたらかなり手強いよ。
 自慢の拳だけじゃ勝てないぜ…。 
きみは本来戦闘タイプの能力者じゃないんだから…。 」

 西沢が天狗のノエルに釘を差した。
へぇ~そうなんだぁ…捕まんなくってラッキー! 
悪ガキノエル…何処吹く風…。

 こういうところは…どう見ても男なんだけどな…。
西沢は苦笑した。

 「捕まえて…連れて行こうとしたわけじゃ…ないみたいだ…。
何かを…ノエルの身体に仕掛けようとした。
やつらの力からすれば…すでに仕掛けられた可能性は…十分ある…。

 しばらくは要注意だな…。
ノエル…また当分…亮のところへは戻れないぞ…。
父さんが居ればいいが…何かあると亮だけでは対処できないからね…。 」

 それはいいけど…ま…いいかぁ…亮には悦ちゃんが付いてるんだし…ね。
そろそろノエルは恋人代理お払い箱ってことで…亮にとってはノエル離れのいい機会かもな…。
胸の内で…そう思った。
  
 「このふたりは警告書を送ってきた連中か…或いはその仲間じゃないかな…。」

 パソコンの画像を見ながら滝川が言った。
見た目で判断すると…片方は…西欧系…片方は…中東系かなぁ…。 
 こちらに対する悪意らしいものは…ほとんど感じられない。
閉じた意識では確実なことは分からないけれど…。

 「ノエルや亮を狙うくらいだから…僕の私生活について良くご存知のようだね。
調べたのか…感じ取ったのかは別として…僕なんかになぜ眼をつけたんだろう?」
 
 西沢は首を傾げた。イラストやエッセイで世間には知られていても、特殊能力者としての西沢は御使者の務めを果たしているだけで自ら打って出たことは無い。
できる限り…隠れているつもりなのに…。

 あれだ…と滝川は思った。
あの時…太極が能力者たちの頭の中に送り込んだ映像…。
 愛する家族や仲間たちの…そしてすべての人間の命を一分でも一秒でも長く存続させるために、自ら楯となった西沢の生きるための戦い…。
 もしも彼等が…それを見ていたとしたら…西沢を能力者の中でも特別な存在と思ったかもしれない。

 「ま…そのうち分かるんじゃないの? 多少なりとも動きを見せたんだから…。
このまま黙っているなんてことはないと思うよ…。 」

 滝川は軽く答えた。
西沢自身はあの時流れた映像のことはまったく知らない。
 だから…西沢紫苑が能力者の間では英雄的な存在になっているなんてことは夢にも思っていない。
 西沢の周りにはそんなことをいちいち本人に話して、頭痛の種を蒔いてやろうなんて考える者は居ないから何事か無ければ耳には届かない。
 身近にいる者たちにすれば、西沢は西沢らしく静かに穏やかに過ごしてくれればそれでいいし…西沢が心楽しく暮らしていれば…周りもなんとなく気分がいい…。

 紫苑が幸せなら…この鳥籠もそんなに悪くはないかもな…。
滝川は見慣れた部屋の中を見回した。



 それが起こったのは…真夜中過ぎのことだった。
西沢と滝川の間に挟まれて迷い猫ノエルは蹲るように眠っていた。
 亮なら絶対に他の部屋で眠るだろうに…ノエルは何の抵抗もなく…むしろできるだけふたりの傍に居たがる…特に西沢の傍に…。
 自分の居場所を見つけ出せないままでいるとひとりになるのが不安なのかも知れないな…と西沢は思っていた。
 
 それまで静かな寝息を立てていたノエルの呼吸が激しく乱れ始めた。
西沢が飛び起き、滝川も眼を覚ました。

 「ノエル…ノエル! どうしたんだ? どこか痛むのか? 」

 西沢の声に反応してかノエルは目を開けたが空を見つめるだけで意識がない。
やがてまたゆっくりと眼を閉じてしまった。
滝川がすぐに脈を取った。

 「紫苑…何かがノエルの中に居る。 気配が小さ過ぎて僕には分からない。
探ってくれ…。 」

 滝川に言われて西沢もノエルの手を取った。
確かにノエルの中に何かが居る。
それは西沢もよく知っている太極やその他の気たちとは違う気配だ。

 「かなり遠くからノエルの中に念を送っているようだ…。
送り主はノエルに受容能力があることを知ってるみたいだな…。 

 だが…遠過ぎる…。 ノエルだからかろうじて受け取れているが…。
恭介…こちらからもアクセスしてみる。 」

 滝川はノエルから手を放すと西沢の空いている方の手を取った。
西沢はノエルを通して念を送っている相手の居場所を探った。
居場所を探り当てるのは困難だったが…相手の思念とは何とかアクセスできた。

 『ヨカッタ…通ジタダナ…。 失敗ダ…カモ…言ッテタカラナ…。』 

 ひどく訛った日本語が聞こえてきた。
さっきのやつらの仲間か…? 

 「あなたは…誰です? 」

西沢の問いに声の主は少し考えるように間をおいた。
 
 『悪イガ…国ヤ…名前ハ…答エハ…デキナイ。 
日本ノ…偉大ナ…サイキッカー…。 聞イテ…欲シイ…。 
警告送ッタガ…誰モ動カナイ…言ッテタ。 』

 ああ…例の…ね。
まあ…そうだろうね…ほとんど誰も信じてないんだから…。

 「突然…誰とも名乗らずに送っても悪戯と思われるだけですよ。 」

相手が僅かに頷いたような気がした。 

 「我々ハ…アカシックレコードニ…アクセスシテ…情報ヲ得ル研究シテイル。
少シ前…トンデモナイ…記録…ミタ。 
 黙ッテルハ…世界中大変ナコトニナル…ソレデ…警告シタ。
我々ガ…アカシックレコードニ手ヲ出セルコト…知レバ…悪用スル人…必ズイル。
ダカラ…名前出セナイ…申シワケナイガ…。 」

 アカシックレコード…まさか…。
西沢は思わず眼を見張った。 
 それはこの世界の出来上がった段階から現在…そして未来に至るまでのすべてのことが記録されていると言われる場所…。
 場所と言ってもそこに何か建物みたいなものがあるわけではなく…記録空間とでも言うべきか…。

 そこから情報を取り出すことができれば…分からないことなど何もなくなる。
彼が言うように悪用すれば世界中に大混乱を巻き起こすこともできるし…巨万の富を築くことも可能だ。
それが事実なら…彼が名乗れないのも頷ける。

 「まあ…それは良しとしましょう。
ですが…あの文書では分かりにくくて…追放された罪人とは誰のことです?
この世界に何が起こると言うのですか? 」

西沢はこの際…疑問に思ったことなどを訊ねてみることにした。

 『人間ハ何度モ滅ビタイウ話…聞イタコトアルカ? 
超古代ニハ現代以上ニ発達シタ文明ガアッタ…ガ…失敗ダッタ。 
 ヒドイコトニナッテ…滅ンダ。 少シダケ生キ残ッタ人類ハ最初カラ始メタ。 
滅ビノ原因ヲ作ッタ者…何人カハ逃ゲタ…。 居ラレナカッタカラ…。 』

 不意に滝川が西沢から手を離した。ノエルの体力が持ちそうにない。
慌ててノエルの脈を取り…心音を聞く。

 「申し訳ないが…媒介が限界に来ている。
できれば…今度は僕と直接コンタクトして貰いたい…。 」

 ワカッタ…という答えを聞くか聞かないうちに西沢はノエルの中から相手の思念をシャットアウトした。
  
 緊張していたノエルの身体から力が抜けてふにゃっとベッドに沈んだ。
滝川が体力を回復させる治療を始めた。

 「大丈夫か…? 」

 西沢が心配そうに訊いた。
ああ大丈夫…大事ない…と滝川は言った。

 「ノエルは…媒介としての適切な訓練を受けていないから…体力の調節がうまくできないんだ…ちゃんと教えとく必要があるな…。 」

 再びノエルの脈を確認しながら…滝川はこれでよし…と治療を終えた。
薄目を開けたノエルは何が起こったのか分からずにぼんやりと西沢を見た。

 「疲れたろう…ノエル…。 
いま…きみの中に別の人の意識が入り込んでいたんだ…太極とは別の…。
もう帰ってしまったけどね…。 」

 そう…とだけ答えてノエルは眼を閉じた。
眠くてとても起きてはいられないようだった。

 「ゆっくり…お休み…。 」

 西沢は愛しげに微笑んで小さな子どもにするようにノエルの髪を優しく撫でた。
起きてりゃ小生意気なことを言うけど…寝顔の可愛いやつだ…と滝川が笑いながら呟いた。

しばらくするとまた…ノエルは静かに寝息を立て始めた…。







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