松村の指示で組まれたセットの傍で滝川は椅子の背にもたれながらぼんやりと天井を仰いでいた…。
松村が滝川に代わって…采配を振るっている…。
周りが慌しく動き回っているのに…滝川はここで静かに時を待つしかない…。
これから何日も…或いは何ヶ月もかけて行う撮影は…もしかすると滝川にとって最後の仕事になるかもしれない…。
最後の作品…ではなく…。
仲根の目を通して滝川の脳に送り込まれてくる画像は…仲根の見たままを捉えたものではあるが…如何に正確であっても滝川自身の眼で見た被写体の様相とは異なる…。
仲根の視点で撮られた写真は滝川の作品とは言えない…。
最早…この撮影は松村にすべてを移譲するための儀式に過ぎないのだ…。
そう考えると後継者松村の出来さえ良ければ…滝川自身はそれほど真剣に撮らなくてもよさそうなものだが…被写体が西沢となればどうしたって真摯にならざるを得ない…。
滝川にとって被写体…西沢…はフォトグラファとしての原点…。
永久に失われたあの写真…。 その男の人生を永遠のテーマと決めた第一歩…。
出来るなら死ぬまで…西沢を…その内面を撮り続けていきたかった…。
これが最後になるのなら…たとえ…作品として世に出せずとも…手元に残す一枚を撮りたい…。
けれども…他人の眼を通して送り込まれる画像では…西沢の与えてくれる一瞬のチャンスを見極めることができない。
せっかくの被写体を前にして…涙が出るほど口惜しい…。
今回のテーマはラビリンス…人間の内面の迷宮を描く…。
初日は『胎内で夢見る男』…保護され閉鎖された環境の中でしか安心と安息を得られない人間の姿…。
メイクを終えた西沢がセットの前に立つと…スタッフが思わずどよめいた…。
すげぇ…西沢紫苑…全然…衰えてねぇ…。
バーチャル世界の住人を撮った時とまったく変わってねぇじゃん…。
スタッフの声だけが足場の上の滝川の耳に響く…。
滝川の心臓が激しく鼓動する…。
変わっていない…?
西沢の居る方へ眼を向けるが…悲しいかな…その姿は人体模型にしか見えない…。
身体を作り直す…とは言っていたが…あの写真集からは何年も経っている…。
西沢はもう…若くはない…。
仲根が間に入って画像を送る…。
滝川の脳に映し出される現在の西沢の姿…。
心臓が爆発しそうになる…。
同じ足場に立つ松村が母胎をイメージしたセットに横たわるように西沢に指示を出す…。
西沢先生…もう少し身体を丸めてください…赤ちゃんのように…。
違う…と滝川は思う…。
そこは胎内であっても…男はすでに胎児ではない…。
松村が次々に指示を出す…。
言われたとおりにモデルが動く…松村の指示を受ける西沢は唯の被写体…。
そこには何の意思も窺えない…。
違う…違う…違う!
紫苑はそんな単純な奴じゃないんだ…!
松村がどんな指示を出しても滝川はまったくカメラを構えようとはしない…。
微動だにしない滝川に松村は不安げな目を向けた。
明らかに不満なのだ…。
表情を変えてはいないものの何年もアシを務めていれば分かる…。
何もかもが気に入らない…に違いない…。
「紫苑…すまん…。 」
突然…滝川が足場を降りた…。
そのまま足早に部屋を出て行った…。
松村が慌ててスタッフに休止を告げた…。
「先生が戻るまで…待って…。
申しわけありません…西沢先生…仲根さん…。 」
飛び降りんばかりの勢いで足場を下り…松村は西沢に詫びた…。
万が一…西沢に臍を曲げられたら…この計画はおじゃんだ。
いいさ…ガウンを羽織ながら西沢は穏やかに答えた。
あいつが…その気になるまで…待とうよ…。
特別な部屋…のドアを叩き付けるように閉じて…ソファに身を沈めるなり頭を抱えた…。
これは松村の仕事なんだ…と何度も自分に言い聞かせながら…どうにも納得できない自分が居た…。
他のモデルなら…どうにでもしてくれ…。
紫苑はだめだ…。
あんなふうに…ただ指示通りに動かすだけじゃ…だめなんだ…。
悔しい!
滝川の心が血を吐いた。
抑え切れない感情が胸の中で渦巻いた…。
未練は断ち切ったはず…覚悟していたはずなんだ…。
写真家滝川恭介は…もう…終わりだと…。
紫苑の心と引き換えに失ったのだから…惜しくはない…。
そう思っていたのに…。
撮りたい…。
この眼で…その一瞬を捉えたい…。
誰の力も借りず…。
焦燥に駆られて遣る方なく…背凭れに身を任せ…天を仰いだ…。
不意に…誰かが椅子から立ち上がる気配がして…滝川は部屋の奥に眼を向けた…。
「誰だ…? 」
その気配には覚えがある…。
まだ最近知り合ったばかりの…それも決して友好的な相手ではない…。
「おまえか…。 何の用だ…? 」
滝川は気配に向かって訊ねた…。
「僕を…助けたのは何故…? 」
気配の主はそう答えた…。
おまえを…助けた…?
「違う…おまえじゃないよ…。 僕が助けたかったのは…紫苑の方だ…。
おまえを殺せば…紫苑の心はズタズタ…きっと壊れてしまう…。
さんざ…酷い思いをしてきたあいつに…これ以上の痛みを与えたくなかっただけだ…。 」
まあ…結果的には…おまえを助けたことにも…なるかも知れんが…。
今のいままで…気付きもしなかった…と滝川は可笑しそうに笑った…。
「仲間を裏切ることには…ならないのか…?
僕を殺すことは…魔物…西沢に課せられた使命だろう…?
おまえは…それを妨害した…。 」
西沢の使命を妨害したというのに周囲から手厚く優遇されている滝川の状況…声の主は納得できない様子だった…。
「背負っているものが違うんだよ…。 僕と紫苑では…。
紫苑は全体を…僕は紫苑だけを…見ていればいいのさ…。
戦うのが紫苑の使命なら…戦いを終わらせるのが僕の使命だ…。
誰も紫苑の暴走を望んではいない…。
万が一…紫苑の暴走を止められなければ…おまえたちの命だけでは済まないんだ。
地球が吹っ飛ぶ…。 」
エナジーたちもそれを望まなかった…。
心の中で滝川はそう呟いた…。
「地球が…? ふんっ! 人間にそんなことができるものか…。
僕が西沢に眼をつけたのは…都市ひとつくらいはぶっ潰せると踏んだからだ…。
地球なんて大それたこと…。 」
有り得ないさ…声の主は嘲笑った。
「その…見込みの甘さがおまえたちの失敗の原因だ…。
紫苑の一族は…誰も本気で力を使わない…。 使うところも滅多に見せない…。
にも拘らず…この国の能力者たちが彼等を畏れ敬っているのは何故なのか…。
よく考えてみろ…。 」
みんな知ってるからさ…。
裁きの一族を敵に回して勝てるものは居ないんだ…。
滝川の心が呟いた…。
「何故…彼等は…その力を以って世界を牛耳ろうとしない…?
自分たちの理想の国を築こうとしないのだ…?
我々にとって建国は時を越えた悲願でさえあるものを…。 」
齢に似合わないことを言う…と滝川は思った。
刷り込まれた組織の思想は容易には消えず…まだ育ちきらない子供の心を支配し続ける…。
「世界を支配するなど意味のないことだ…。
宗主の一族は財界を牛耳っているようなところは確かにあるけれど…人間を支配しようなどとは考えていない…。
みんな今の生活を楽しんでいるのさ…。
お前たちのしていることは建国ではない…侵略だ…。
どんな綺麗ごと並べても言い分けにはならない。
そんなことをすれば…終わりのない報復の連鎖が始まるだけだぞ…。
何故…分からない…? 何故…気付かない…?
今…すでにそこに存在する者たちを殲滅して…その国を自分たちの思うままにしようなどという身勝手さに…。
殲滅されないまでも、おまえたちに力で支配された者たちが、或いは、追われた者たちが真に幸せになれる道理がない…。 」
黙れ!
声の主は大声を上げた。
天爵さまとの対話で少しは落ち着いたものの、未だ、否定されることに敏感だ。
「宗主の…西沢の一族とはいったい何者なんだ…?
空間壁を護ったあの強大なエナジーはどこから来ている…?
人間のものでは有り得ない…西沢の中の魔物をはるかに上回るエナジーは…?
あれが居なければ…我々が敗退することなど有る筈がなかったんだ…! 」
苛立ちと不安で次第に激昂してくるのが手に取るように分かる…。
声の主の内部で葛藤が始まっている…。
「あれは…この宇宙の意思だ…。 宇宙は…紛争を望んではいない…。
宇宙の大いなるエナジーは…紛争によって地球上のすべての生命バランスが崩れ去るのを…黙って見ていられなくなったのだ…。 」
滝川は努めて冷静に…そして…穏やかに答えた…。
瞬時…相手は言葉を失った…。
滝川の返答が…まったく理解を超えていたから…。
アカシックレコードにアクセスできる…その能力を以ってしても…。
「おい…母さんから呼び出しだぞ…。 アランが変なんだと…。
そこは俺がやっとくから…行って来いや…。 」
倉庫の中で届いたばかりの商品を、いつもどおりに検品していたノエルに、店の方から突然、智哉が声をかけた。
風邪でも引いたんじゃないか…と孫の具合を気にした…。
慌てて実家へ戻ってみると…吾蘭がなにやらうわごとのように呟いている…。
少し前からずっとこんな調子で…時々…倫に何かを頼むのだが…倫には何のことだか良く分からないらしい…。
西沢さんところへ行きたがってる…ってことだけは…何とか分かったんだけどねぇ…。
倫は困り果てた顔でそう話した。
「アラン…どうしたの…? 」
ノエルが声をかけると吾蘭は待ってましたとばかりに飛んできた。
来人もちょこちょこ後をついてきた。
「おとうたんとこ…行くの…。 おとうたんとこ…行くの…。 」
紫苑さんのところへ…?
だって…今日は写真の仕事だから…家には居ないのに…。
「アラン…おとうたんとこ…行くの…。
おてちゅだい…しゅるの…。 」
吾蘭はノエルの服を掴んで必死に訴えた…。
不意に…お伽さまと吾蘭との会話の映像がノエルの脳裏をかすめた。
「分かったよ…アラン…。 ノエルと一緒に行こう…。
母さん…クルトを頼む…。
紫苑さんに何かあったのかも知れないから…アランと行ってくる…。 」
それを聞いて吾蘭の目が輝いた。
吾蘭には…何か思うところがあるのだろう…。
幼いとはいえ…特殊な記憶を持っている…。
心配する倫と、留守番になって残念そうなクルトを実家に残し、ノエルは吾蘭を連れて、滝川のスタジオへと向かった…。
次回へ
松村が滝川に代わって…采配を振るっている…。
周りが慌しく動き回っているのに…滝川はここで静かに時を待つしかない…。
これから何日も…或いは何ヶ月もかけて行う撮影は…もしかすると滝川にとって最後の仕事になるかもしれない…。
最後の作品…ではなく…。
仲根の目を通して滝川の脳に送り込まれてくる画像は…仲根の見たままを捉えたものではあるが…如何に正確であっても滝川自身の眼で見た被写体の様相とは異なる…。
仲根の視点で撮られた写真は滝川の作品とは言えない…。
最早…この撮影は松村にすべてを移譲するための儀式に過ぎないのだ…。
そう考えると後継者松村の出来さえ良ければ…滝川自身はそれほど真剣に撮らなくてもよさそうなものだが…被写体が西沢となればどうしたって真摯にならざるを得ない…。
滝川にとって被写体…西沢…はフォトグラファとしての原点…。
永久に失われたあの写真…。 その男の人生を永遠のテーマと決めた第一歩…。
出来るなら死ぬまで…西沢を…その内面を撮り続けていきたかった…。
これが最後になるのなら…たとえ…作品として世に出せずとも…手元に残す一枚を撮りたい…。
けれども…他人の眼を通して送り込まれる画像では…西沢の与えてくれる一瞬のチャンスを見極めることができない。
せっかくの被写体を前にして…涙が出るほど口惜しい…。
今回のテーマはラビリンス…人間の内面の迷宮を描く…。
初日は『胎内で夢見る男』…保護され閉鎖された環境の中でしか安心と安息を得られない人間の姿…。
メイクを終えた西沢がセットの前に立つと…スタッフが思わずどよめいた…。
すげぇ…西沢紫苑…全然…衰えてねぇ…。
バーチャル世界の住人を撮った時とまったく変わってねぇじゃん…。
スタッフの声だけが足場の上の滝川の耳に響く…。
滝川の心臓が激しく鼓動する…。
変わっていない…?
西沢の居る方へ眼を向けるが…悲しいかな…その姿は人体模型にしか見えない…。
身体を作り直す…とは言っていたが…あの写真集からは何年も経っている…。
西沢はもう…若くはない…。
仲根が間に入って画像を送る…。
滝川の脳に映し出される現在の西沢の姿…。
心臓が爆発しそうになる…。
同じ足場に立つ松村が母胎をイメージしたセットに横たわるように西沢に指示を出す…。
西沢先生…もう少し身体を丸めてください…赤ちゃんのように…。
違う…と滝川は思う…。
そこは胎内であっても…男はすでに胎児ではない…。
松村が次々に指示を出す…。
言われたとおりにモデルが動く…松村の指示を受ける西沢は唯の被写体…。
そこには何の意思も窺えない…。
違う…違う…違う!
紫苑はそんな単純な奴じゃないんだ…!
松村がどんな指示を出しても滝川はまったくカメラを構えようとはしない…。
微動だにしない滝川に松村は不安げな目を向けた。
明らかに不満なのだ…。
表情を変えてはいないものの何年もアシを務めていれば分かる…。
何もかもが気に入らない…に違いない…。
「紫苑…すまん…。 」
突然…滝川が足場を降りた…。
そのまま足早に部屋を出て行った…。
松村が慌ててスタッフに休止を告げた…。
「先生が戻るまで…待って…。
申しわけありません…西沢先生…仲根さん…。 」
飛び降りんばかりの勢いで足場を下り…松村は西沢に詫びた…。
万が一…西沢に臍を曲げられたら…この計画はおじゃんだ。
いいさ…ガウンを羽織ながら西沢は穏やかに答えた。
あいつが…その気になるまで…待とうよ…。
特別な部屋…のドアを叩き付けるように閉じて…ソファに身を沈めるなり頭を抱えた…。
これは松村の仕事なんだ…と何度も自分に言い聞かせながら…どうにも納得できない自分が居た…。
他のモデルなら…どうにでもしてくれ…。
紫苑はだめだ…。
あんなふうに…ただ指示通りに動かすだけじゃ…だめなんだ…。
悔しい!
滝川の心が血を吐いた。
抑え切れない感情が胸の中で渦巻いた…。
未練は断ち切ったはず…覚悟していたはずなんだ…。
写真家滝川恭介は…もう…終わりだと…。
紫苑の心と引き換えに失ったのだから…惜しくはない…。
そう思っていたのに…。
撮りたい…。
この眼で…その一瞬を捉えたい…。
誰の力も借りず…。
焦燥に駆られて遣る方なく…背凭れに身を任せ…天を仰いだ…。
不意に…誰かが椅子から立ち上がる気配がして…滝川は部屋の奥に眼を向けた…。
「誰だ…? 」
その気配には覚えがある…。
まだ最近知り合ったばかりの…それも決して友好的な相手ではない…。
「おまえか…。 何の用だ…? 」
滝川は気配に向かって訊ねた…。
「僕を…助けたのは何故…? 」
気配の主はそう答えた…。
おまえを…助けた…?
「違う…おまえじゃないよ…。 僕が助けたかったのは…紫苑の方だ…。
おまえを殺せば…紫苑の心はズタズタ…きっと壊れてしまう…。
さんざ…酷い思いをしてきたあいつに…これ以上の痛みを与えたくなかっただけだ…。 」
まあ…結果的には…おまえを助けたことにも…なるかも知れんが…。
今のいままで…気付きもしなかった…と滝川は可笑しそうに笑った…。
「仲間を裏切ることには…ならないのか…?
僕を殺すことは…魔物…西沢に課せられた使命だろう…?
おまえは…それを妨害した…。 」
西沢の使命を妨害したというのに周囲から手厚く優遇されている滝川の状況…声の主は納得できない様子だった…。
「背負っているものが違うんだよ…。 僕と紫苑では…。
紫苑は全体を…僕は紫苑だけを…見ていればいいのさ…。
戦うのが紫苑の使命なら…戦いを終わらせるのが僕の使命だ…。
誰も紫苑の暴走を望んではいない…。
万が一…紫苑の暴走を止められなければ…おまえたちの命だけでは済まないんだ。
地球が吹っ飛ぶ…。 」
エナジーたちもそれを望まなかった…。
心の中で滝川はそう呟いた…。
「地球が…? ふんっ! 人間にそんなことができるものか…。
僕が西沢に眼をつけたのは…都市ひとつくらいはぶっ潰せると踏んだからだ…。
地球なんて大それたこと…。 」
有り得ないさ…声の主は嘲笑った。
「その…見込みの甘さがおまえたちの失敗の原因だ…。
紫苑の一族は…誰も本気で力を使わない…。 使うところも滅多に見せない…。
にも拘らず…この国の能力者たちが彼等を畏れ敬っているのは何故なのか…。
よく考えてみろ…。 」
みんな知ってるからさ…。
裁きの一族を敵に回して勝てるものは居ないんだ…。
滝川の心が呟いた…。
「何故…彼等は…その力を以って世界を牛耳ろうとしない…?
自分たちの理想の国を築こうとしないのだ…?
我々にとって建国は時を越えた悲願でさえあるものを…。 」
齢に似合わないことを言う…と滝川は思った。
刷り込まれた組織の思想は容易には消えず…まだ育ちきらない子供の心を支配し続ける…。
「世界を支配するなど意味のないことだ…。
宗主の一族は財界を牛耳っているようなところは確かにあるけれど…人間を支配しようなどとは考えていない…。
みんな今の生活を楽しんでいるのさ…。
お前たちのしていることは建国ではない…侵略だ…。
どんな綺麗ごと並べても言い分けにはならない。
そんなことをすれば…終わりのない報復の連鎖が始まるだけだぞ…。
何故…分からない…? 何故…気付かない…?
今…すでにそこに存在する者たちを殲滅して…その国を自分たちの思うままにしようなどという身勝手さに…。
殲滅されないまでも、おまえたちに力で支配された者たちが、或いは、追われた者たちが真に幸せになれる道理がない…。 」
黙れ!
声の主は大声を上げた。
天爵さまとの対話で少しは落ち着いたものの、未だ、否定されることに敏感だ。
「宗主の…西沢の一族とはいったい何者なんだ…?
空間壁を護ったあの強大なエナジーはどこから来ている…?
人間のものでは有り得ない…西沢の中の魔物をはるかに上回るエナジーは…?
あれが居なければ…我々が敗退することなど有る筈がなかったんだ…! 」
苛立ちと不安で次第に激昂してくるのが手に取るように分かる…。
声の主の内部で葛藤が始まっている…。
「あれは…この宇宙の意思だ…。 宇宙は…紛争を望んではいない…。
宇宙の大いなるエナジーは…紛争によって地球上のすべての生命バランスが崩れ去るのを…黙って見ていられなくなったのだ…。 」
滝川は努めて冷静に…そして…穏やかに答えた…。
瞬時…相手は言葉を失った…。
滝川の返答が…まったく理解を超えていたから…。
アカシックレコードにアクセスできる…その能力を以ってしても…。
「おい…母さんから呼び出しだぞ…。 アランが変なんだと…。
そこは俺がやっとくから…行って来いや…。 」
倉庫の中で届いたばかりの商品を、いつもどおりに検品していたノエルに、店の方から突然、智哉が声をかけた。
風邪でも引いたんじゃないか…と孫の具合を気にした…。
慌てて実家へ戻ってみると…吾蘭がなにやらうわごとのように呟いている…。
少し前からずっとこんな調子で…時々…倫に何かを頼むのだが…倫には何のことだか良く分からないらしい…。
西沢さんところへ行きたがってる…ってことだけは…何とか分かったんだけどねぇ…。
倫は困り果てた顔でそう話した。
「アラン…どうしたの…? 」
ノエルが声をかけると吾蘭は待ってましたとばかりに飛んできた。
来人もちょこちょこ後をついてきた。
「おとうたんとこ…行くの…。 おとうたんとこ…行くの…。 」
紫苑さんのところへ…?
だって…今日は写真の仕事だから…家には居ないのに…。
「アラン…おとうたんとこ…行くの…。
おてちゅだい…しゅるの…。 」
吾蘭はノエルの服を掴んで必死に訴えた…。
不意に…お伽さまと吾蘭との会話の映像がノエルの脳裏をかすめた。
「分かったよ…アラン…。 ノエルと一緒に行こう…。
母さん…クルトを頼む…。
紫苑さんに何かあったのかも知れないから…アランと行ってくる…。 」
それを聞いて吾蘭の目が輝いた。
吾蘭には…何か思うところがあるのだろう…。
幼いとはいえ…特殊な記憶を持っている…。
心配する倫と、留守番になって残念そうなクルトを実家に残し、ノエルは吾蘭を連れて、滝川のスタジオへと向かった…。
次回へ
僕自身「母胎回帰」願望の強い人間ですから。
>おっかさん、お願いだから/俺をもう一度妊娠してくれ~こんな詩がありました。
母…よりも…お袋…のイメージが温かいのは…案外…そんなところに理由があるのかも知れませんね。
30代に書いた「月~LUNA」という詩をいつかブログにUPします。
先程…メールを送らせて頂きました。
詩は…やっぱり難しいです…。
doveには評論はできないなぁ…。