徒然なるままに…なんてね。

思いつくまま、気の向くままの備忘録。
ほとんど…小説…だったりも…します。

続・現世太極伝(第百六話 紫苑…暴走開始)

2006-12-26 17:52:00 | 夢の中のお話 『続・現世太極伝』
 耳を劈くばかりの鋭い叫び声とともに部屋の窓という窓…ガラスというガラスが砕け散った…。
輝は思わず絢人に覆い被さった。

 部屋中が地震のようにガタガタと揺れている…。
これだけの現象が起きていながら…北殿も子安さまものんびりと構え…吾蘭の様子を観察している…。

 よくよく落ち着いてみれば…来人も絢人もちゃんと気のプロテクターで防護されていて…ガラスや物が当たっても怪我をしないようにしてある…。
北殿も子安さまも用意周到だ…。

吾蘭が気を放出している…。 あちらこちらで物が砕け…辺りに飛び散っている。
その威力はとても二歳の子供とは思えない…。

 「紫苑に比べれば…少し…劣るかしら…? 」

北殿は周りで起きていることなどまったく意に介さないようで…ゆったりとした口調で子安さまに話しかけた…。

 「紫苑さまと比べてはアランが気の毒ですよ…。
紫苑さまは宗主と並んで遜色ない方ですもの…。 」

そう言って子安さまは微笑んだ…。

 そうね…紫苑なら…わたしたちもこんなにのんびりしていられないわね…。
北殿もそう言って笑った…。

 これが…笑っていられる状況なの…?
輝は驚くより呆れた…。
 
 揺れが激しくなり…椅子やサイドボードが動き始めた…。
物が弾け飛ぶたびに反射的に絢人を庇うために身を屈める…。

 いい加減にして頂戴…。
アラン…もうたくさんだわ…。

輝がそう呟いた時…来人が眼を覚ました…。
しばらく…ぼんやりと辺りを見回していたが…急に立ち上がるとちょこちょこと吾蘭の方へ駆け寄った…。

だめよ…クルト…!

 輝が止めるのも聞かず…来人は吾蘭のすぐ傍まで駆けて行った。
何を思ったのか…吾蘭の背中にぴたっと張り付くようにして負ぶさった…。

 「ア…ン…。 」

吾蘭…と呼んでいるつもりらしいが…輝にはよく分からなかった…。

 来人の声を聞くと…それまで作り物のように固まっていた吾蘭がもそもそっと動き出した…。
辺りは何事も無かったかのように静けさを取り戻した。

 「あら…羽が消えちゃったわ…。 うふふ…これは思わぬ効果ね…。 」

面白そうに北殿が言った。

 「そうですね…。 それほど悪いことばかりではないかもしれませんね…。 」

子安さまも安心したように頷いた…。

 吾蘭は大きく息を吐くとその場にごろんと寝転がった…。
来人もすぐ脇に転がった…。
相当に疲れたらしく…片手で眠そうに目を擦りながらもう片方の手で来人の頭を撫で撫でした。

 やがて…ふたりとも寄り添ったまま眠ってしまった…。
ふたりが寝息を立て始めると…輝はようよう…ほっと肩の力を抜いた…。


 
 「空間が…歪んだな…。 」

少し眉を顰めながら有は呟いた…。

 「紫苑の力が強過ぎるんだ…。
時間無制限ってことで…こちらもかなりセーブしているからな…。 」

相庭が相槌を打った。

 「宗主…我々で空間を修正しますか…?
それとも…能力者たちの出力レベルを上げさせますか…? 」

有に問われて宗主は瞬時…考えた…。

 「我々の力は温存しておいた方が良かろう…。
恭介が抑えに失敗すれば…暴走紫苑を止めなきゃいけなくなるかもしれんし…。
外部から少しずつ空間の維持力をアップさせた方が正解かも知れん…。 」

では…そのように致しましょう…と有は頷いた。



 宗主の意思を伝え聞いた祥を始め各部の責任者は一斉に、控えていた能力者たちに指示を出した…。
各部に配属されている媒介能力者に力を集中させる。
媒介能力者がどこに力を送っているのかは伏せられていた…。

 本部に向かっていた須藤と田辺は本部に到着してすぐに滝川家の家長に連れられて別の場所に移動させられた…。
そこには正道・鬼道を問わず…何人かの高名な業使いが集まっていた。

 勿論…田辺の実父…倉橋久継の姿もあった。
業使いたちはそれぞれの流儀に従って行動しているようにも見受けられるが…目的は同じ…。
異なった業を用いながらもお互いに協力し合ってひとつのものを作り上げているようだった。
田辺も須藤も即座にその中に加わった。



 玲人が添田の屋敷跡へ続く坂の入り口辺りに来た時…ちょうど相庭から連絡が入った…。
相庭は…できるだけ周りに居る御使者や能力者を集めて捻じ曲がった空間の補修に力を貸すように…と伝えてきた…。

 添田と磯見…お伽さまの行方を捜してエージェントたちが町中をつぶさに調べて回っている…。
御使者もHISTORIANを追い払うために町のあちこちに散らばっているはずだ…。

集めようと思えば…集まるかも知れないが…場所が…なぁ…。

 瞬間的に力を放出するだけならその場でもできるが、持続的にというのであれば、それなりに集まれる場所が必要だ…。
玲人は辺りを見回した…。

 少し下ったところに池がある…。 
周りは…どうやら…公園のようだ…。
池の端に少し大きめの東屋が目に付いた…。

あそこに…するか…。

 今来た道を取って返し…玲人は公園に向かった。
途中…加勢するためにこちらへ向かっていた紅村と花木が合流し、公園の近くで仲根と亮に出会った…。

 玲人から宗主の意思を伝え聞いた仲根は、即座に仲間たちに向けて送信し、町中に散らばっていた御使者やエージェントが続々と公園に集まってきた…。
亮はともかく仲根でさえも、これまで直接会ったことのない他の地域の御使者たち…そしてエージェントたち…。
普段はこの地域を担当していない者も幾人か派遣されて来ているようだった…。



 足元が再びぐらぐらと動き出し…捻じ曲がった空間が正常な位置に戻った…。
地べたに這い蹲るようにしていた者たちも紫苑の哄笑の中でようよう顔をあげた…。 

 「あははは…面白いだろう…? 
空間を補正するのに何人の能力者を使ったのかな…。
坊や…どう思う…? 」

 坊や…とあからさまに相手を見下した言葉を投げかける…。
滝川がそう呼ぶのとは明らかにニュアンスが異なる…。
普段の西沢では絶対に考えられない…。

 少年は度重なる屈辱で完全に冷静さを失った…。
完全に血が上っている少年の様子を見て老人はもはや限界か…と思った。
戦いに出すにはまだ幼過ぎたか…と後悔した…。

 突如…はるか天空からエナジーの巨大な塊が西沢を目掛けて襲い掛かった。
西沢はそれをまともに受けたが…塊は西沢に触れるや否や分裂して四方八方へ飛び散った…。
細かく砕かれたエナジーの塊はそのまま空間に激突しエナジーの壁を破壊した。

 「オロカ…モノ…! 
少ナイヒト…相手ニ…何遊ンデイル…!
マワリ…気付カ…ナイカ…。 」

聞いたことのあるような男の怒鳴り声が当たりに響いた…。

 これだ!…と滝川は思った。
あの時…ノエルを媒介に使った男の声だ…。

 「弟ヨ…オマエ…ツイテ…ナガラ…何トイウ…失態!
ソコハ…ツクラレタ…空間ダ…。
ヨク…ミロ…。 
オマエタチ…スデニ…敵ノ…手ノ内ニ…オチタ…。 」

怒りの声とともにエナジーの塊が雨霰と降り注いだ。

 「もう…! 何! 避けるの忙しくて動けないじゃん! 」

ノエルは苛々した口調で怒鳴った。

 「ノエル…障壁を張るんだ…。 砕けたエナジーくらいは弾き返せるから…。
でかいやつにだけ注意して…。 」

金井に言われて…あっ…そうかぁ…とノエルは頷いた。

 西沢は表情ひとつ変えることもなく…半ば…退屈そうに町中を逃げ惑うHISTORIANたちを見つめていた。
HISTORIANたちの持つ力は…どうやらレベルが一定しないようだ…。

 『時の輪』のように障壁を作れる者もあれば…攻撃はできるが防御がまるでだめなものも居る…。
歴史の長い組織にしては…内情がたがたじゃないの…。

 「くそぉ! まやかしの空間なんか作って…僕らを閉じ込めるつもりか…? 」

少年は怒りの声をあげた。

 「とんでもない…。 おまえら如きを相手に空間なんぞ要るか…。
これは…多分…町の防御のためだ…。 紫苑に町を壊滅させないように…さ。 」

滝川はそう言って肩を竦めた。

 「坊や…おまえが最高指導者なら…あの声の主は誰なんだ…? 
まだ…上が居るのか…? 」

滝川が訊ねると少年は少し言葉に詰まった…。

 「おまえと声の主は非常に気配が似通っている…。
それに…弟というのはあんたのことか…じいさん…? 」

さらに老人にも問うた…。

 「さよう…私は選ばれし人の弟だ…。
選ばれし人はアカシックレコードの情報を読み取ることができる…。

 代々…その力を受け継いだ者は選ばれし人の後継候補として幼いうちに他国に派遣され…その国を護りながら修行をすることになっている…。
実の子とは限らない…が…。

 その中でもこの子は…選ばれし人の情報を最も多く受け継いだ…。
功績をあげれば間違いなく後継となる素材…。  」

老人の答えを聞いて…なるほど…と滝川は胸のうちで頷いた。

 それで…功を焦って失敗を重ねたってことか…。
当たり前だな…この国の能力者のことをまるっきり理解してないんだから…。

 「アトカラ加勢マデ…送ッテヤッタノニ…ナンタルザマダ…! 
オマエナド…モハヤ…必要デハナクナッタ…! 」

声の主は容赦なく少年に罵倒を浴びせる…。
少年の顔はさらに蒼白になった…。

 「お許し下さい…! 必ずこいつを捕まえてご覧に入れます…! 」

少年は天に向かって叫んだ…。

 「おい黒幕…こいつはまだ子供なのになんだってそんな無理難題を押し付けるんだ…?
やりたきゃ…てめぇで勝手にやりゃいいじゃないか…! 」

そう怒鳴った瞬間…エナジーの塊が滝川を狙い撃ちした。
滝川は高く片手を掲げると軽々とそのエナジーを受け止めた…。

 「すげえ! 先生が動くのを初めて見た…。 」

ノエルは少なからず…驚いた。
滝川は戦う姿を…これまでほとんど見せたことがなかった。
大概…動くのは西沢の方だったから…。

 「おや…そうだったけ…ノエル…。 
昔は暴れ者だったんだって…聞いてないかい…? 」

にっこり笑って滝川は言った。
お返しするぜ…と攻撃者の気配に向かってエナジーを投げ返した…。

 「先生…危ない! 」

間髪をいれず…少年と老人の放ったエナジーが滝川を襲った…。
金井とノエルが慌ててエナジーを弾き飛ばした。

 不意に背後で異様な雰囲気を感じた。
やばい…っと滝川は西沢を振り返った…。
黒い翼は今や…飛び立たんばかりに広げられ…大きく羽ばたいていた…。

滝川が打ち返したことで相手も逆上したのか…さらに間断なく激しくエナジーの塊が降りしきる中…西沢はゆっくりと力を放出し始めた…。







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