通っている歯科医院への通りを歩いていたら、前から歩いてくる男性から声をかけられる。「Yさんじゃないね」。でも、僕はその方に見覚えがない。きょとんとしていると、「ほら、Tよ。何年ぶりね」。その人は完全に僕のことをYさんと思っているようだ。「すみません。お人違いじゃないでしょうか」。その人は、それでも一生懸命話しかけてくる。もしや、今流行りのオレオレ詐欺か。僕は体は冷静の態にしているけれど、頭の中では防御態勢をとっている。僕は平然さを装い、もう一度、その人に問い直す。その人はやっと人違いとわかったのか、顔を真っ赤にして「すみません!」。体を反転して必死な様子で角を曲って走り去った。僕はドキドキの余韻。ほっと胸をなで下ろす。世の中には自分に似ている人は最低でも三人くらいはいると言う。