かまくらdeたんか   鹿取 未放

「かりん」鎌倉支部による渡辺松男の歌・馬場あき子の外国詠などの鑑賞

 

馬場あき子の外国詠348(スイス)

2016年11月24日 | 短歌一首鑑賞

  馬場あき子旅の歌48(2012年2月実施)
     【アルプスの兎】『太鼓の空間』(2008年刊)175頁 
      参加者:N・I、井上久美子、崎尾廣子、曽我亮子、藤本満須子、渡部慧子、鹿取未放
      レポーター:渡部 慧子
      司会とまとめ:鹿取 未放

348 風疾(はや)きビルの谷間を行くときをアルプスの兎低く啼く声
 
       (レポート)
 「風疾きビルの谷間」とはビル風のはやいことを言い、鋭く長い音は、人の情念を呼び起こしたり、たとえられたりした。そういう類を抜けた掲出歌。4、5句の「アルプスの兎低く啼く声」とは、ビル風でありながら地球を大きく吹ききたった風のようで「啼く声」は風の落とし物のように思ってしまう。北海道に氷河期を生き残ったナキウサギが生棲しているので、アルプスのナキウサギを想定してのフレーズであろう。それによって一首を支えている。(慧子)


       (当日意見)
★もがり笛からの発想か、鳴かないものを聞いたというところが面白い。(N・I)
★レポーターの言う北海道のナキウサギからアルプスの兎を連想したというのはおかしい。一連の
 題が「アルプスの兎」なのだから、アルプスに兎がいないことはないはず。(藤本)
★ここは帰国して都会の殺伐としたビルの谷間を歩いている時、そのビル風をアルプスの兎が鳴い
 ているようだと感じたのだろう。旅の途中、アルプスの兎の鳴き声を聞いたかどうかは不明だが、
 ビル風の音を聞きながら、アルプスの兎が鳴いたらこんな哀しい声ではなかろうかと想像してい
 るのかもしれない。歴史について、人間について様々な苦を見てきたとは言え、風景自体は夢の
 ように美しかったスイスの旅、ここでは都会に戻ってきた現実の苦い感慨だろう。(鹿取)