馬場あき子の外国詠46(2011年12月実施)
【氷河鉄道で行く】『太鼓の空間』(2008年刊)167頁
参加者:K・I、N・I、崎尾廣子、曽我亮子、たみ、藤本満須子、渡部慧子
レポーター:崎尾 廣子
司会とまとめ:鹿取 未放
335 氷河渉るマンモスの足の重さもて佇めば襲ひくる白きアイガー
(まとめ)
マンモスは氷河時代に棲息していた哺乳類動物だが、作者は獲物を求めて氷河をさまよう巨大なマンモスを思っている。空想しているうちに、餓えて氷河をわたりながら重い足を一時休めて佇むマンモスに作者がなりきってしまったのだ。その時、アイガーが「襲ひくる」のは、獣の本能的な実感であろう。「白き」という何でもない形容が、ここでは山の魔の恐ろしさをあますなく伝えている。ちなみにアイガーは標高3,970メートルで、切り立った峻険な北壁を持つ。
レポーターがどこで切るか戸惑われた4句は、「佇めば/襲ひくる」というように10音が5音+5音の句割れとなっている。(鹿取)
(レポート)
この歌は自身をマンモスに重ねてアイガーと向き合った歌なのであろうか。あまりの高さに愕然として見つめたのであろうと想像する。
成り立ちをみてみる。6音で始まり、8・5とつづき4句は10音で結句は7音である。4句の切れがよく分からないが10音として読んでゆきたい。初句は1音字余りであるが「渉る」というのびやかなひびきのある表現がこの歌の心地よい幕開けとなっているように感じられる。2句の8音が3句へとかかるが氷の上を力強く踏んだであろうマンモスの足の力が1音の字余りでどっしりと3句へとかかっていると思う。結句の「白き」は初句ののびやかさ、3句から4句の重々しさを跳ね返しアイガーを屹立させていると思う。シャープなシルエットが特色であるアイガーをそしてその高さをこのようなスケールの大きいユニークな表現で1首としたのであろうと思う。「渉る」「白き」が印象に残る。(崎尾)
(当日意見)
★疲れ果てて作者は自分の足がマンモスの足のように感じられた。内なる思い。(N・I)
★作者は疲れてはいないが、自意識を出された。(慧子)
★雪崩が押し寄せて押しつぶされたマンモスが化石化している山。作者はマンモスと一体化してい
る。前半字余りでずっと続く部分(氷河渉るマンモスの足の重さもて~佇めば)には、足を引き
ずり引きずり息もたえだえにやっと登ってきた様子がよく伝わってくる。富士登山をしたときの
ことを思い出しました。(たみ)