かまくらdeたんか   鹿取 未放

「かりん」鎌倉支部による渡辺松男の歌・馬場あき子の外国詠などの鑑賞

 

馬場あき子の外国詠346(スイス)

2016年11月21日 | 短歌の鑑賞

   馬場あき子旅の歌48(2012年2月実施)
       【アルプスの兎】『太鼓の空間』(2008年刊)174頁 
        参加者:N・I、井上久美子、崎尾廣子、曽我亮子、藤本満須子、渡部慧子、鹿取未放
        レポーター:渡部 慧子
        司会とまとめ:鹿取 未放


346 飴一つ含みて深く見下ろせばあな大氷河かそけく吹雪く

       (レポート)
 大氷河を見るべく立っていて、なんとなくなのか、自身をいとしむようになのか、いずれにせよ「飴一つ含みて」いる。そして「深く見下ろせば」という行為につづき、さらに大氷河をスケッチしようとするが、かなわなかったのであろう。「大氷河」は「かそけく吹雪く」状態だった。どれほどの深さだったのか、「かそけく吹雪く」とは塵がまうようだったのだろうか、想像が及ばない。(慧子) 


     (当日意見)
★標高差があって飴を嘗めたか?(藤本)
★いや、恐怖から飴を嘗めたのだ。(N・I)
★飴一つということで、大氷河の大きさが出る。(曽我)
★飴一つしか口の中に入っていない物足りなさに、かえって大氷河の広がりが感じられる。(鈴木)
★峠のてっぺんに立っていて遙か下の方に大氷河が見えているのでしょうね。遠いから吹雪いてい
 てもかそかな気配しか感じられない。その茫漠感でしょうか、飴一含んでいると安堵感が生まれ
 ますよね。(鹿取)


馬場あき子の外国詠345(スイス)

2016年11月21日 | 短歌一首鑑賞

   馬場あき子旅の歌48(2012年2月実施)
       【アルプスの兎】『太鼓の空間』(2008年刊)173頁 
        参加者:N・I、井上久美子、崎尾廣子、曽我亮子、藤本満須子、渡部慧子、鹿取未放
        レポーター:渡部 慧子
        司会とまとめ:鹿取 未放


345 戦争を逃がれてスイスに棲まんとせし強き肩弱き足思ふ雪の峠に

        (レポート)
 ヨーロッパ中央に位置するスイスは、他民族・他国との利害、野望の中の歴史であった。それにともなう人、物の動きは、地理的にアルプス山脈(すなわち峠)を越え、繰り広げられた。ハンニバルのアルプス越え、ローマ皇帝カエサルの峠越え、ナポレオンの第2次イタリア遠征の為のサルベルナール峠越えなどは歴史に名高い。この他にも闘いが多く、そのたびに峠は戦略的に重要になり、また「戦争を逃がれてスイスに棲まんとせし」人々が峠を越えたと思われる。
 作者の旅は、その地の負う歴史に心を寄せるものであるが、掲出歌は闘いのどれとは特定せず、現代風に言えば難民であろう「強き肩弱き足」の民を「雪の峠に」「思ふ」のである。峠とは逃避、野望、憧憬など様々な想念の行き交うところ、そこへ「雪の」と形容する作者の思いは、遙かな過去に及んで抒情を添えている。(慧子)

       (当日意見)
★雪の深さを感じる。(N・I)
★強い人間の意志の強さ、それでも大変である。(崎尾)
★老若男女では動きが出ない。大人、女人、子どもを思わせ、具体を詠むことで実感が出ている。
    (鈴木)
★そうですね、強い肩を持った男性も、弱い足を持った女性や子どもも難儀をして峠を越え、スイ
 スに逃げてゆこうとしているのを思いやっている。確かにどの戦争と特定していませんけど、割
 と近い時代のことをいっているのでしょう。現代は鉄道やバスで比較的簡単に国境の峠を越えら
 れるけど。作者は今立っている峠の雪の深さに驚き、難民達はこんな雪深い峠を徒歩で越えたの
 かと言葉を失っている感じがします。(鹿取)