かまくらdeたんか   鹿取 未放

「かりん」鎌倉支部による渡辺松男の歌・馬場あき子の外国詠などの鑑賞

 

渡辺松男の一首鑑賞  19

2013年08月24日 | 短歌1首鑑賞
   
                   『寒気氾濫』(1997年)地下に還せり18頁
                   司会と記録:鹿取 未放

37 榛の木に花咲き春はきたるらし木に向かい吾(あ)はすこしく吃る

(レポート)2013年4月
 「榛の木に花咲き春は」きぬではない。「きたるらし」とは、3回続く「は」の明るさの上に、作者の広くものを見通すゆったりした息吹や、やさしさが感じられる。「榛の木に花咲き」に「向かい」「すこしく吃る」という。佐保姫に向かって、ういういしい喜びがあるのだろう。(渡部慧子)  


(記録)2013年4月
 ★渡辺さんは慣用語をほとんど用いていない。用いるときはひねっている。この歌も結句が魅力
  的で、榛の木に向かってたじたじとなりながら嬉しがっている気分がよく出ている。(鹿取)
 ★木に花咲きの歌を思い出した。(鈴木良明)
 ★前田夕暮の「木に花咲き君わが妻とならむ日の四月なかなか遠くもあるかな」ですよね。私も
  あの歌ういういしくて大好きですけど。夕暮は後にこの妻と離婚しているんですよね。歌った
  時は心からこう思っていたろうに。哀しいですね。私は百人一首の天の香具山の歌を思い出し
  ました。渡辺さんのこの歌結句がほんとうにいいですね。いかにも春が来たのを喜んでいて、
  樹を愛している気分が伝わってくる。(鹿取)
 ★なんか恋みたいですね。(曽我亮子)
 ★でも榛の木ってそんなにきれいじゃないんだよね。春早く咲くらしいから群馬で育った人はこ
  の樹に花が咲くと春が来たんだって嬉しいんだろうねえ。(鈴木良明)

渡辺松男の一首鑑賞  18

2013年08月24日 | 短歌1首鑑賞
   
                   『寒気氾濫』(1997年)地下に還せり18頁
                   司会と記録:鹿取 未放

36 吹きつくる風のかたちとなりはてし岳樺(だけかんば)なお生きて風受く

(レポート)2013年4月
 風にしいたげられる、とか風にあらがうとは詠んでいない。「風のかたちとなりはてし」と、とらえる。「岳樺」の完璧な受容のかたちだと思う。さらにそれは「なお生きて風受く」なのだ。なりはてて絶えてしまわない「岳樺」を作者は心に印す。見方を変えれば「受く」とは、実にしたたかな生の力にみえてくる。(渡部慧子)


(記録)2013年4月
 ★レポーターの受容というのがいいですよね。負けてる訳でもないし、受け入れているというと
  ころが。そういう形にされてしまったというと辛いものにるけど。ニーチェなんかも結局は病
  気を受容したのだと思う。(鈴木良明)