BOXING観戦日記

WOWOWエキサイトマッチなどの観戦記

ミドル級12回戦

2011-05-02 21:34:52 | Boxing
セルヒオ・マルチネス VS セルゲイ・ジンジルク

マルチネス 8ラウンドTKO勝利

考察 ~マルチネス~

変則的とも正統派とも称されるボクシングをするが、
それらを分けるのはボクサーではなく観る側。
さらにもう一つの要素は対戦相手。
P・ウィリアムスのような規格外のリーチの持ち主や
ミドル級でも群を抜く上背かつパンチャーのパブリックを
向こうに回して披露したボクシングは変則的でもあり、正統派でもあった。
なぜなら前者に対しては反時計回りを見せつつ、インファイトで打ち勝ち、
後者に対してはスピードで煽りながら、終盤にストロングフィニッシュを決めたから。
出来そうで出来ず、しかしそう出来ればいいという。

観る側は上の前提と先入観を持ってこの組み合わせを観るとき、
火花散る打ち合いではなく、冷たいジャブの差し合いを予想するが、
その期待は見事に裏切られた。
スピードが違う。
パンチングパワーが違う。
勝負勘が違う。
実質的に試合を決めた3度目のノックダウンは、
かつてシントロンに叩き込んだいわくつきの一撃を彷彿させる。
その際にはジャブの返りにワン・ツーを撃ち込んだが、
今回は右フックのカウンターに後の先でワン・ツー。

ディフェンスにおいては2ラウンドにしてジャバー相手にノーガードを構築(?)したが、
反時計回りのサークリングはこの選手にとってのサウスポー対策か。
相手の右フックよりも自身の左の方が鋭角で速いという見切り、そして自信の表れだ。
ノーガードは打たせない自信があると同時に、打たせるための挑発でもあり、
打ち込むための布石になっている。
インタビューではこれまでに効かされたのはマルガリート戦、ウィリアムス戦Ⅰ、パブリック戦のみだと
語っていた通り、打たれずに(≠打たせずに)打つを実践する教科書的ボクサーだ。
帝拳の田中トレーナーが「全てのサウスポーが手本にすべき」と語っているそうだが、
手本ではなく理想にすべきか。


考察 ~ジンジルク~

無機質に右を繰り出すそのボクシングは高いディフェンス技術とも相俟って
D・サントスやJ・フリオらをほぼ完封してきたが、
どこかメカ的というかロボットっぽい雰囲気があった。
(イワン・ドラゴのようだ、と言っているわけではない)
打つに際して必ず布石を打ち、パンチの効果と意味を問う。
ボクシング哲学者とでも言おうか。

将棋をある程度指す方なら分かってもらえると思うが、
実力者同士の対局では自分の一手が強ければ強いほど相手の返しの一手も強くなる。
羽生名人はかつてTV番組のインタビューで「反撃を喰わずに攻撃する最善手を目指す」
という旨を語っていたが、ジンジルクのボクシングもそれに通じる。
それを突き詰めたのが右のジャブとカウンターのショートフック。
ただし、それを可能にするのはガード技術。
そのガードの隙間を縫うほどのprecisionとaccuracyを持つジャブが
相手から飛んでくるのは「想定外の事態」か。
ジャブ自体の精度やスピード以外にも、相手の巧みなフットワークとサークリングにより
じっくり見ざるを得なくなり、相手は動くのでじっくり見える、
自分は動かないのでよく見えない、というどこか矛盾した状況に陥ってしまったようだ。
ただし、セミで出てきたリーやマクイワンなら完封できるだけの力量はまだ保持している。
相手が悪すぎたということに尽きる。