BOXING観戦日記

WOWOWエキサイトマッチなどの観戦記

IBFバンタム級タイトルマッチ

2009-12-09 20:01:55 | Boxing
王者 ジョセフ・アグベコ VS 挑戦者 ヨニー・ペレス

ペレス 判定勝利

考察 ~ペレス~

のらりくらりのボクシングに見えるが、
change of paceに長けている。
何をすれば危険か、どうすれば安全か前半をたっぷり使って見極めた。
打ち合いを仕掛け、打ち返してくるパンチに力があると見るや、
距離を毎ラウンド微調整し、相手のペースを崩させず、
自身のペースをコントロールした。
軽めのラウンドでも手数を減らさずに呼吸を整えられるのは、
スタミナがある証拠でもあり、スタミナ配分の上手さでもある。
スポーツでもビジネスでも、展開を自在に操れたときは疲労さえも心地よい。
持って生まれた筋肉のしなやかさ、強靭さでは相手に譲ったが、
型にハマったフォームから繰り出されるコンビネーションは
人種に特有の肉体の賜物であると同時に、
どこか日本人的な勤勉さも感じさせた。
メンタル面もクレバーというよりはスマート。
インテリジェントというよりもワイズ。
ここらへんの語彙を上手く説明するには時間も行数も足りない。
ううむ。
要するに、本人とすればしてやったりの勝利だということ。


考察 ~アグベコ~

ダルチニャン戦で見せたフィジカルの強さに依存しすぎたせいで、
相手との打ち合いに素直に応じてしまった。
打ち合いはこの選手にとっては望むところだが、
この試合ではどっちが先に音を上げるかの根性勝負ではなく、
どっちが的確に当てていくかのゲームメイク的な打ち合い。
ハンドスピードや連打、コンビネーションで相手の後塵を拝したが、
柳のように揺れながら相手のパンチの威力を流すとともに
それが自身のパンチの威力を増す布石となっている。
ぶつかってくる相手、額をこすり合わせてくる相手には滅法強いだろうが、
今回は相手の土俵に自信満々に上がってしまうというミスを犯した。
ボクシングはダメージを与えあう競技であるとともに、
観る者に技巧を堪能させる競技でもある。
分かりやすく相手を倒すのも華だが、
相手の長所を消し去り、自身をアピールするのも勝利への方程式。
フィジカルで勝つのは魅力的だが、フィジカルが空回りすると魅力は半減する。
それでもまだまだ闘い続けられるはず。
長谷川との激突を楽しみに待ちたい。

WBC世界ライト級暫定王座決定戦

2009-12-08 23:10:08 | Boxing
アントニオ・デマルコ VS ホセ・アルファロ

デマルコ 10ラウンドTKO勝利

考察 ~デマルコ~

アップライトの構えからジャブをビシビシと決め、カウンターの左も冴える。
距離の長さは身長、リーチだけでなく構えた際の膝のスタンスでも決まる。
この選手は常に下がる体勢を構築するべく、蹴り足を使わず、
さらにヒットポイントを遠くに置き、パンチの引きも速い。
つまりパンチ力はさほどない(というより力を込めていない)。
ただし、そのことを有効に作用させるようなメンタルと戦略を持っており、
高い勝率はキャリア構築のための綿密なマッチメークの賜物だろう。
しかし、この選手はチャンスを作ろうとせず、チャンスが転がり込んでくるまで待ちすぎる。
たとえばパッキャオやバレロのような問答無用で攻め立ててくる相手に対して
自身のボクシングを貫けるのだろうか。
また平均的なライト級相手ならば体格面の優位で思い通りのゲームメイクもできるだろうが、
アリ・フネカのような更なる長身選手に対しての引き出しはあるのだろうか。
また小堀からベルトを奪取し、嶋田を封じ込めたモーゼスには?
淡々と作業をこなすようなボクサーは嫌いではないが、
それは誰に対しても自身のボクシングを貫く哲学を持ち、
それを実行できるだけの精神力、体力、技術の裏打ちがあってこそだ。
このタイミングで暫定タイトルを獲ってバレロを喰おうというのは結構だが、
陣営は自信が過信になっていないだろうか?


考察 ~アルファロ~

小堀との激突では噛み合った末に逆転KO負け。
今回は自分のボクシングをさせてもらえずヘナヘナとKO負け。
悪いところしか目に付かなかったが、それはつまり数少ない長所だけで
勝ってきたことを意味している。
この選手は主導権支配に重きを置かない。
なぜなら主導権を握れないから。
左フックの切れ味と飛び込むような右だけでボクシングを構築し、
間違いなく噛み合うという理由で小堀に敗れ、
間違いなく噛み合わないという理由でデマルコに敗れた。
ガードを高く保てとか、脚を使えとか、頭を振れだとか、
言いたいことはいくらでもあるが、それができないというのは
指導者が無能だからではなく、ボクサー自身に適性がないからだ。
ボクシングは不思議なもので、世界の頂点とは証明というよりも称号なのだ。
相性で世界を獲り、相性で世界を空け渡し、相性で世界に拒まれる。
穴王者の出現とそれに呼ばれる幸運を待つ必要があるが、
この負け方では高級カマセ路線が関の山だろう。
リナレスがライトに上げる頃にまだ現役でやってるかねえ?

WBA世界女子ミニマム&WBC世界女子Lフライ級統一戦

2009-12-07 00:55:37 | Boxing
WBA王者 多田悦子 VS WBC王者 富樫直美

両者スプリットドローで防衛

考察 ~多田~

サウスポーでジャブをヒョイヒョイ突くわりに、
インサイドでのムーブの方が相対的にさまになっているように見えた。
接近戦での左フックが軽めではあるが的確に当たっていた。
ただ、相手の距離を潰すボクシングを自身の目指すダンサブルなボクシングでは
コントロールできず、カウンターの右ショートフックは4割程度当たったが、
ロングのスイングは的中率0%。
これは間合いのコントロールの主導権を相手に握られていたということ。
前者は相撃ち、後者は相手の出入りに翻弄されていたということで、
リング中でオープンスタンスで打ち合いを挑む相手に、
スクエアスタンスで鋭角的にパンチを繰り出しても効果の面では一枚落ちる。
スタミナと手数で最終ラウンドこそポイントは取ったが、
管理人採点では富樫の勝ち。
来年はチャンピオンロードではなく、堅実なマッチメークが求められる。


考察 ~富樫~

助産師か。
日本ではなぜか男がなれない職業だ。
助産師であるということは看護師でもあるわけで、
医療に関する確たる知識や技術を持っている証明だ。
さらにプロボクサーでチャンピオンであることに尊敬の念を禁じ得ない。

サウスポーに苦手意識が全くないね。
左との連戦のキャリアの賜物か、あるいはキャリア自体の浅さによるのか。
右を面白いように相手の顔面にヒットさせたが、
これは相撃ち上等で潜り込んでいった結果。
誤算があるとすれば相手のアゴとスタミナか。
ゴリゴリのインファイターだが、ボディ打ちはスラップ気味で、
前半の出入りの激しさと後半の泥ボクシングの落差は、
スタミナ配分のミスだろう。
しかし、額をこすり合わせての右のアッパーは当たりはしなかったものの、
インサイドでの勝負勘を証明した。
Lフライで再戦すれば体力勝負で明白に封じ込められる。
「男前度」では多田のマスクに譲ったかもしれないが、
スカーフェイスこそボクサーの「顔」。
私的に日本版マイケル・カチディスの称号を贈る。

WBC世界Sミドル級&スーパーシックスSTAGE1

2009-12-01 00:38:44 | Boxing
王者 カール・フロッチ VS 挑戦者 アンドレ・ディレル

フロッチ SDで勝利

考察 ~フロッチ~

途中までは内藤-興毅にそっくりだったが、
この男のruthless aggressionには感心する。
苛立ちからくるダーティーな闘いは時に嫌悪感を催すが、
自身も観客も視聴者も野蛮な殴り合いを望んでいるのに
相手に一方的に拒否されてはストレスも溜まろうというものだ。
一見すると前進あるのみのパワーファイターだが、
斜に構えての右グローブの置き所はガードにも作用し、
相手への威嚇にも作用した。
パンチのフォームがどれもawkwardだが、
ロボット的なムーブこそフロッチのボディメカニクスの真骨頂。
左は振り回すが、右は最短距離を走り、かつ伸びる。
上半身と下半身は連動せずバラバラだが、
両の腕のパンチングパワーが前進力と融合しており、
もらうパンチは全てカウンター気味となるが、
当たるパンチは全てpower shotとなる。
ノーガードに見えるが、アゴを引き、ショルダーブロックを活用するところなど、
この男なりのディフェンスポリシーはあるようだ。
実際にかなり機能していた。
しかし、あの左フックは効いた。
ストレートに対する防御はハマったが、
フックに無防備になる瞬間があり、
それはすなわち、この男の望む距離は実は近距離ではなく
中距離であることを物語る。
案外ケスラーとはバチバチに噛み合うのかもしれない。

考察 ~ディレル~

ハンドスピードは出色でフットワークもクイック。
パンチのキレも素晴らしく、solidではないがsharp as a knife。
だが、そのファイトマインドは打たせずに打つではなく、
打たれたくない一心に染まっており、
あれだけクリンチ、ホールドを多用すればそりゃ減点もされるわ。
ボクシングにおける魅せる要素は必ずしも勝つ要素とは一致しない。
だが、勝利に資するスタイルはマニアの目には魅力的に映るもの。
それがないということは管理人の見る目が悪いか、
この男のボクシングマインドに華がないかのどちらかだ。
スピンクスやテイラーには派手さはないが、
マニアを引きつける要素は試合のいたるところに散りばめられている。
MATRIXをニックネームに持つのなら、
ネオのような超絶攻撃バリエーションを持て、とは思わないが、
このままではスーパーシックスという絶好の舞台で
名前を上げることはできない。
アブラハムにぶっ飛ばされてしまえ!
けど、案外ディレルみたいなのがアブラハムを攻略しちゃうんだよなあ。
それもまたボクシング。
いや、それはやはり認めがたい。