goo blog サービス終了のお知らせ 

BOXING観戦日記

WOWOWエキサイトマッチなどの観戦記

IBFウェルター級王座決定戦

2012-06-10 15:21:21 | Boxing
マイク・ジョーンズ VS ランドール・ベイリー

ベイリー 11ラウンドKO勝利

考察 ~ベイリー~

一発を打つのに必ず下準備を必要とし、
距離・角度の測定、前後のステップ、フェイントを毎回行うのは
律儀というよりも、それがルーティン・ワークだからだ。
本人としては手数が少ない意識はあまりなく、
必要なことを必要に応じて行なっているまでなので、
手数で劣っていても劣勢であるという認識もない。

ボディ攻撃をあからさまに嫌がる素振りも見せたが、
目のフェイントで追撃を免れるのがベテランの妙味。
相手のメンタルのひ弱さに助けられた面も大きいが。

効かされた次の瞬間にガードの隙間を突き刺すストレートに
攻勢に出る相手とのジャブの差し合いから、試合初めてのアッパーで止め。
デラホーヤがF・バルガスを仕留めたのも温存していた左ショートアッパー。
それを彷彿させた。
puncher's chanceという言葉の正しい意味を体現してくれたわけだ。

それにしてもオッサンの男泣きというのは、何故これほど胸を打つのやら。


考察 ~ジョーンズ~

カラス戦初戦はドロドロベタベタな試合だった。
再戦はタッチボクシング。
ジョー小泉の言うとおり、ここにturining pointがあったのだろう。

逆三角形の上半身にスラリと伸びた四肢。
ボクサーならずば陸上選手かと思わせるフィジカルには、
しかし、強靭なメンタルは宿っていなかった。

かといって敗因はメンタルだけに帰すことはできない。
2度のダウンはいずれもガードの間隙を破られたもので、
これはパワーではなくタイミングの問題。
もっと言えば目に映りにくい技術的・心理的な駆け引きの部分。
相手の一撃への恐怖心を過剰に抱きすぎていた。

ボクサーは一試合で飛躍することもあれば崩れることもある。
スター候補のまま終わると以前に予想させてもらったが、
残念ながらその通りになりそうだ。

WBA世界Sウェルター級タイトルマッチ

2012-05-06 20:23:07 | Boxing
王者 ミゲール・コット VS 挑戦者 フロイド・メイウェザー

メイウェザー 判定勝利

考察 ~メイウェザー~

スピードがやたらと強調されるが、単純な一瞬のクイックネスや
フットワークも含めた体全体のスピードということなら
全盛期のR・ジョーンズやS・マルチネスの方がありそうだ。
注目すべきはパンチングモーションにおける軸の美しさ。
この試合で最も象徴的だったのは右フック。
前に出ているコットの左腕によるフックよりも、
後ろに構えているメイウェザーの右フック方が着弾までが速いという実感。

前戦ではサウスポー相手に右を的確に当てていたが、
この試合ではオーソドックス相手にミドルレンジから右フックを当ててきた。
しかも右耳直撃コースに3連打を見舞うなど、
鼓膜ならびに平衡感覚に直接ダメージを与えることを企図していたかのようだ。
さらに左アッパーによる突き上げ。
ショートのアッパーもロングのアッパーも的確にガードの隙間を縫っていた。
元々コットの八の字ガードがアッパーに弱いことを差し引いても、
パンチのprecision & accuracyにおいてはコットのvsパッキャオ戦以上だったと言える。

また管理人がコット勝利のキーとして挙げていたプレッシャー。
ロープに追い詰められる場面を幾度となく作ったが、
自ら誘い込んでいるのかと錯覚させるほど、近距離での応酬でも正確さで上回った。
またL字ガードからショルダーブロックならぬ
ショルダーグレイズ(graze)とでも形容したくなるディフェンス技術。
インサイドで相手のプレッシャーをまともに受けながら
それでも最低限しか打たせないのは反射速度の差もさることながら、
下半身の安定と上体の軸のブレなさを高域で融合させているからだ。

課題として浮き彫りになったのはスタミナ。
L・マーチャントならずともメイの鼻血を見るのは久々で、
8ラウンド以降の失速と合わせて気になるところ。
年齢による衰えがついに顔を出したのか、
階級不適合か相手のプレッシャーが予想以上だったか。
これまでのメイウェザーは試合ごとに
「なぜこれほどの力量を持ちながらパッキャオを避けるのか」と疑念を抱かせたが、
この試合後に限って言えばパックと戦いたがらない理由が少し透けて見えた気がする。


考察 ~コット~

争点とすべきはconstant pressure。
battlefieldはコーナー、ロープ。
武器はボディーブロー。
ゲームプランに間違いはなく、自身でもそれを実行できたが、
相手のelusivenessが想定以上で、またパンチのprecisionも想像以上だった。

ループしてくる右フックに左耳あたりを数限りなく痛打されたことで
かなりのダメージを負ったと思われるが、vsパッキャオ時のように
バックペダルを踏み続けるばかりでなかったということは
メイウェザーのパンチもシャープには見えるが、
パッキャオのパンチほどにはmind breakさせないということか。
このあたりは今後のメディアのインタビューなどで明らかになるだろう。

Back on topic.
ボディは自身が予定していたほどには当たらず、
また顔面はさらに遠かったが、中盤のラウンド(6?)で、
リング上の巨大場内スクリーンでロープ際の攻防のリプレイを観たあたりから
急に生き生きとしてきたようだ。
拳に当たった感触はなくとも映像で当たっていることを確認できたからか。
ボクサーは思わぬことから調子を崩し、また調子を取り戻す。
試合中であれば尚のことで、長丁場を最初から意識していたコットにしてみれば、
逆にメイウェザーの失速に合わせて調子が上向いてきたのだろう。

序中盤にはボクサーとしての完成度の違いを見せつけられた観があるが、
デラホーヤ以来か、もしかするとそれ以上にメイウェザーの底(がどこにあるか)を
ある意味で我々に見せてくれたとも言える。
12ラウンドにはあわやというトラブルに陥ったが、
determinationとexperienceとboxing savvyで乗り切った。
マルガリート戦、そしてパッキャオ戦のKO負けは逆にコットを強くしたのか。
コット自身の口からパッキャオとメイウェザーの具体的な違いが何かを
早く聞きたくてならない。

WBC世界Sウェルター級タイトルマッチ

2012-05-06 16:58:04 | Boxing
王者 サウル・アルバレス VS 挑戦者 シェーン・モズリー

アルバレス 判定勝利

考察 ~アルバレス~

怖いもの知らずなボクシングをするのは、
未だ怖いものを経験していないからだろう。
すでに峠を転げ落ちたベテランではなく、
油の乗り切った試合巧者を向こうにまわしたとき、
ごまかされ続けてしまうという危うさも感じさせる。
構図としてわかりやすいのはパブリックvsマルチネス、
もしくはトリニダードvsホプキンス。
アルバレスにとっての最初の壁はまだ現れていない。
老獪な試合運びの裏にはどこかの島国のボクシング一家の
長男的な要素も実は潜んでいたりするのかもしれない。

パンチにしても絶賛されるほどの威力を持っているとは思えず、
野球の投手に喩えるなら横浜、読売のクルーンといった感じ。
速いが伸びがない。
またはミットにはめり込むが、バットを叩き折ることはない。

評価は着実に上昇してきているものの、ステージが上がるにつれ、
確実にexposeされてきてもいる。
パッキャオだメイウェザーだと騒ぐ前にクロッティと戦って欲しい。


考察 ~モズリー~

すっかり負け役が定着してしまったが、
素直に踏み台にならないところにこの男の執念を垣間見る。
ジャブを多用する立ち上がりから、一転してクリンチ作戦に行くのは、
スタミナへの不安、相手のプレッシャーの強さもあるのだろう。
バッティングを多発させる選手には共通点があり、
例えば徳山、30代後半以降のホプキンスなどは最初からパンチとヘッドが
見事に連動した体捌きを見せるものだが、
モズリーの場合は戦略的なバッティングとは言えないし、そうは見えない。
クリンチありきで頭から攻め込むスタイルは洗練されているとは言えない。
パンチを企図しながらクリンチ。
これをしないので何度も名指しでレフェリーに注意されてしまうのだ。

中盤以降はボディも顔面も利かされ苦しい展開だったが、
前戦のようなバックギア全開にならず、またロープを背負わせての
小パンチの高速回転連打(vsマルガリート)や叩きつける右フック(vsメイウェザー)など、
明らかにパッキャオ相手に見せた狼狽、さらに言えば恐怖を
この日は明らかに感じてはいなかった。

ということはリングで相対して初めて分かる何かが
やはりボクサーにはある、もしくは無いということか。
パッキャオにダウンを喫した時の表情を見るに、
「痛ったぁー」という感じだったが、アルバレス相手には
そんな表情・素振りはなかった。

There is something about Pacquiao's punches. ということなのだろう。

IBF世界フェザー級タイトルマッチ

2012-05-06 15:33:21 | Boxing
王者 ビリー・ディブ VS 挑戦者 エドゥアルド・エスコベド

ディブ 6ラウンド終了TKO勝利

考察 ~ディブ~

山口戦をYouTubeで観た日本のファンは多いはずで、
少々トチ狂った面があることは承知していたが、
これほどまでとは思わなかった。

ラフだとかワイルドという表現で済ませられないクレイジーさがある。
リングの中では人格が変貌するとかいうわけでもなく、
ナチュラルに精神に偏りがある(=人格円満ではない)のだろう。
精神的に成熟しなかった矢吹ジョーというのがこんな風になるのだろう。
あの漫画のハイライトは刑務所内でのボクシング大会だ。
ルール無用で生きてきた悪ガキが、自らルールに縛られたスポーツの世界に
飛び込んでいく、順番を守らないヤツは袋叩きにしてしまうという場面が
《あしたのジョー》における白眉だと思う。

山口戦以来、この選手の情報は積極的に取り入れてはいなかったが、
普段のリング外での言動が気になってきた。
トレーナーとの相性は?
奥さん、ガールフレンドはどうだ?
両親、兄弟姉妹との関係は有効か?
マスコミ受け、そしてボクシングファン受けは?
某島国の兄弟みたいな言動で対戦相手のレベルも
自身のボクシングスタイルもずっとこうならば、
人気『だけ』は地元では高いだろう。


考察 ~エスコベド~

ジャブで相手を止められないと見てからは常に受身の体勢だった。
王者の反則上等のスタイルゆえか、もしくは序盤のローブローが
実際に効いてダメージを引きずったのか、それともゴング直前の
グローブタッチの時点で精神的に呑まれたのか。
答えはそのいずれでもあり、またいずれも決定器な答えではないのだろう。
メキシカン特有のfighting spiritを披露してくれるのを期待したが、
イかれた奴が相手では歴戦の経験や技術も活かせない。
ジャブでは止められず、カウンターは要所でヒットし、
確実に効かせた瞬間も幾度もあったが、踏み込みの意志に最後まで欠けた。
長谷川の世界戦前のテストにちょうどいいぐらいの相手かもしれない。

コット VS メイウェザー 予想

2012-05-05 23:10:30 | Boxing
WBO世界Sウェルター級タイトルマッチ

王者 ミゲール・コット VS 挑戦者 フロイド・メイウェザー

予想:メイウェザーTKO勝利

判定勝ちが妥当なところだろうが、敢えてこう予想する。
コットのディフェンス意識の変化と実際のスタイルの変化、
そして必ずしも良いコンディションにはつながっていない
スーパーウェルター級という階級。
メイウェザーの的確なカウンターを浴び続け、
終盤に無念のストップ負けとなる可能性が高そうだ。

逆にコットの勝機があるとすれば、
階級への適応度の違いを主張するしかない。
具体的にはジャブの重さの違い、
耐久力の違い、プレッシャー、押し合いの強さなど。
ただ、コットはパッキャオ戦の初回にこれらの項目の
いずれの点でも明確に上回りながら、
続くラウンドから突然圧倒され出したという前科がある。

コットは嫌いな選手ではないが、管理人の評価はそこまで高くはない。
このマッチメーク成立を当てた感覚そのままに試合予想も的中させたい。

WBA世界バンタム級タイトルマッチ

2012-04-04 23:06:01 | Boxing
王者 亀田興毅 VS 挑戦者 ノルディー・マナカネ

興毅 判定勝利?

考察 ~亀田~

取ったラウンドとしては2、3、5、7、8、12と見たが……
ジャッジのスコアはある意味で予定調和。
次戦はアルセ?それともH・ルイス?
そんなものは実現しない。
バンタムは体に馴染まないという文句のつけようのない返上理由ができたし、
この試合を観る限り、そのことに異議申し立てを行いうるファン・関係者もいない。
これで興毅はバンタム返上を決意しただろう。

それにしてもこれはボクシングに密接不可分のホームタウンディシジョンなのか、
それとも亀田兄弟の試合で頻発する疑惑の判定なのか。
神ならぬ身の私には分からない。

技術、戦術レベルで語るべきポイントに乏しいことも寂しいが、
それ以上に終了ゴング直後のガッツポーズと安堵の表情に
もはや一掬の男泣きを禁じ得ない。
興毅のこういうアクションは、対戦相手とは違うなにかと戦っているように映る。
当ブログでは亀田興毅の試合面だけに極力注目し、
その器用さ(≠技術)も高く評価してきたが、
そろそろ興毅については見限ってもいいかもしれない。
どう考えてもフィリピンやメキシコの関係者に鍛えられているとは思えない。
あの親父が横から要らぬ嘴を入れていることは容易に想像できるが、
興毅自身もそのアドバイスが耳に心地よいのだろうか。
かつて我が父は「あの親父は興毅らの反抗期を潰した」と喝破したが、
男は反抗期を経ないと精神的なpatricideを達成できないのかもしれない。
心理学に詳しいブログ訪問者がいれば、反抗期とその後の心理的発達について
ぜひご教授をお願いしたいところだ。

当ブログは年間最低試合のノミネートはしていないが、
これは4月にして2012年最低試合に決定した。
(年末に受賞はさせない方向で考えてはいるが……)


考察 ~マナカネ~

おいおい、大学生相手にダウンを喫した負け役ではなかったのかい?
ジャッジのスコアで大差はついたが、世界王者を追い詰める実力の
持ち主であることは日本のファンが知った(褒めているわけではない)。
風貌やファイトスタイル、試合の拮抗ぶり(褒めてない)から
ファンマ・ロペス VS ロジャース・ムタガを連想した。

初回の大振り右フックの直撃に味をしめたか、
恐ろしいほど単調に右フックを振り回す序盤。
王者が余りにも慎重な立ち上がりを見せるところから
右のパンチだけはメガトン級なのかとも推測したが、
それなら初回のあの一発で打たれ弱い王者をノックアウトしているはず。

結論としてパンチは無いが、積極性があり、手数も豊富で、
王者が1発打つたびに3発を放っていた。
このaggressivenessとring generalshipは間違いなく「買い」だ(褒めてる)。
実際のpunch statsはとても映像を見返す気分になれないので、
感覚的に測るしかないが、昨今の世界戦のジャッジ基準で考えるならば、
何よりも手数が優先されている。
これは互いに有効打がある場合も無い場合も、だ。
また感覚的に90%の局面で挑戦者が先にパンチをガードの上とはいえ当てており、
ジャッジへのアピール度でも圧勝していた。
してみると挑戦者の僅差勝ちが妥当とも思えるが、
近年よくある疑惑の判定で片付けられるかもね。
再戦は別に不要だろう。
やるとするならインドネシアで開催すべきだ。
ムタガと同じく、この選手も次の試合を世界ランカーと戦えば
あっさり負けるものと予想される。
その理由はこんなブログを読む皆さんなら、
試合を見てきたままに分かるはず。

WBA世界Sフライ級王座統一戦

2012-04-04 22:31:10 | Boxing
休養王者 清水智信 VS 正規王者 テーパリット・ゴーキャットジム

テーパリット 9ラウンドTKO勝利

考察 ~テーパリット~

初回から自信に満ち溢れており、その内面はスタイルにも如実に顕れていた。
清水のジャブに対してガードを置くことは一切せず、
ウィービングもしくはスリッピングから左フックのカウンターを狙っていくのは
亀田大毅戦では見せなかった一面で、額と額を擦り合わせての打ち合いだけでなく、
ミドルレンジでの予想以上の上手さも披露した。
相手の右ストレートのカウンターに小半径の左フックのクリスクロスを数発放っており、
リーチの長さも効果的に使えていた。
また大毅戦でも要所で見せたアッパーはこの試合でも冴え、
清水の脚が止まって連打のチャンスが生まれる一瞬前には
必ずアッパーが相手の顔面にコツンとヒットしていた。
5~6ラウンドには敢えて休むラウンドを作っていたようにも見え、
その余裕の試合ぶりには20代前半ながら老獪さも垣間見える。
最後となった9ラウンド、相手が効いた瞬間に
これでもかとパンチを叩き込む様を見て、
休むラウンドを作ることの意義があらためてよくわかった。
これは長谷川バンタム政権の初期に時々見られた光景だ。

この調子なら大毅とのリマッチが実現しても、
結果・内容ともに第一戦と同じく問題なく撃退できそうだ。

考察 ~清水~

この結果、そして内容は完全に予想の範囲内で、
コアなファンにはどこか醒めた気持ちすらあるだろうと思う。
王者としては残念ながらあらゆる面から酷評せざるを得ない。

まずパンチが決定的に足りない。
Sフライというウェートに完全に馴染んでいないせいもあるが、
とにかくパンチに威力が乗っていない。
そのことはファーストコンタクトから明らかで、
タイ人王者は清水のジャブをもらいながらもアゴが微動だにせず、
逆に休養王者は小突かれたようなジャブで後頭部が前後に大きく動いてしまった。
ガードを固めるとかアゴを引くという話ではなく、
フィジカル面で優る部分が皆無で、4ラウンドのピンチを迎える前から
中盤以降のKO負けを予想したマニアは相当数に上ると考えられる。
何度でも書くが、出てくる相手を止めるパターンは

1.ジャブ連打で止める
2.ワン・ツーで止める
3.カウンターで止める

に大別することができ、清水はこれを主に上から順に試み、
その全てに成功を収めることができなかった。
大毅ならこの王者ほどの器用さはないので、
テクニック(≠スキル)で逃げ切ることも可能と思えるが、
一歩間違えれば内藤戦さながらにKO負けしそうだ。

フライ級にリターンするか、それとも引退も視野に入っているか。
いずれにせよ文字通りの意味で休養が必要だ。
あと2秒ストップが早ければ、ダメージ回復に要する日数が2日短くなり、
あと4秒早ければ(これがベストタイミング)さらに4日は回復が早くなったはず。
日本のリングでもメキシコ並みに早いストップが見たい。
我々ボクシングファンが渇望しているのはボクサーがバタンと倒れる光景ではなく、
「勝負あり!」と言える瞬間なのだ。

WBC世界ヘビー級タイトルマッチ

2012-02-19 18:49:05 | Boxing
王者 ビタリ・クリチコ VS 挑戦者 ディレック・チゾラ

クリチコ 判定勝利

考察 ~クリチコ~

左手にトラブルがあるというジョー小泉の観察はおそらく正しい。
なぜなら復帰後のビタリの哲学はpunishment first(ダメージ優先)だから。
ボクサーとしてスタイルが噛み合わないというのではなく、
もともとテンション高めで常にラップを口ずさんでいそうなタイプが
人間的に苦手なのだろうか。
(政治家を目指す上では克服すべき課題だと思うが)

それはさておき、左を使えないハンデは予想以上に大きく、
しかし決定的なハンデとはならなかった。
重厚なボクシングを展開することはできないまでも、
ディフェンス面でこれまで見られなかった(見せる必要のなかった)
フットワークを披露し、またショルダーブロックにスウェーバック、
打ち終わりにカウンターの右をショートで放ったりと、
まるでテクニックのショーケースのような試合になった。
とくにスウェーは毎回見せていながら、それらは反射神経だけで行なっていたが、
今回は相手をじっくり観察し、その中で軌道、タイミングを読みきった上で
文字通り鼻先で避けていた。
初めてコンディション不良のなか戦ったわけで、
言葉の本当の意味に置ける経験の勝利。
この王朝の支配は今年中はまだ続くことだろう。


考察 ~チゾラ~

軽量後のFace-Offでなんらかのアクションを取る場合、
おそらくpromotional purposesがある。
つまり、ある程度事前に示し合わせているのがほとんどだと考えられる。
なぜなら、素手によるパンチで相手を負傷させれば傷害罪が成立し、興行も不成立。
莫大なキャンセル料や承認団体からの罰金、コミッションからの制裁もある。
ゆえにバレラ-モラレスのような例外的な=突発的なパフォーマンスはあったにせよ、
この手のパフォーマンスはどこまでもパフォーマンスなのだ。
(日本にも例外的な=確信犯的なパフォーマー一家がいるけれど)

ではチゾラのビタリへのslapping、そしてウラディミールへのwater spitting。
21世紀随一のパフォーマーの名誉をこれだけで得たと思われるが、その効果も大きかった。
ひとつにはナチュラルに威嚇的なオーラを放つビタリ相手に
まったくビビっていないということを本人に印象づけたこと。
これで王者の心理的な優位がいくぶん崩れたようだ。
ふたつに、カムバックからこれまで、相手をじっくりと痛めつけ、
後半にトドメを差すというペース配分に狂いを生じさせたこと。
最も警戒すべきは打ち落としの右ではなく、その前に突き上げられる左ジャブ。
その手数を減らせるのならば罰金もなんのそのだろう。
そして最後にウラディミールへの挑発。
勝っても負けてもクリチコ兄弟に絡めるという、
lucrativeな将来を見据えた行為だろう。
(たどり着くのに時間はかかるだろうが)

のしのしと前進し、頭を振り、左フックをワイルドにぶん回すさまは
かつてサミュエル・ピーターがウラディミール相手に初回だけ実行したプランと同じ。
そのフックは中盤には早くも見切られ、ここから二の矢三の矢があるかと
観る者に期待を抱かせたが、結局はワンパターンに終わってしまった。
L・ルイスの警告ほど一方的にはならなかったものの、
終わってみれば前に出てくるK・ジョンソンとでも言おうか、
テンションだけ高いクレイジーなボクサーという印象だ。
D・ヘイよりは楽しませてくれたが、それでもクリチコ王朝は揺るがない。

WBO世界Sバンタム級王座決定戦

2012-02-19 14:28:47 | Boxing
ノニト・ドネア VS ウィルフレド・バスケスJr

ドネア 判定勝ち

考察 ~ドネア~

前戦に続き世界レベルのコンテンダーがKOされないことを一義に戦ったわけで、
これはパッキャオにおけるvsコットやvsクロッティと同じ構図。
ここまで積み上げてきた旋律のKOシーンを思えば、それもある意味当然。

カウンターの左フックが持ち味であることは言うまでもないが、
対オーソドックスにおけるリードたる左ジャブも冴えわたる。
中間距離での主導権争いはジャブで決まるが、
ドネアのジャブはそのスピードと初動モーションの小ささ、
だらりと下げた位置からビシッと鞭のごとくしなる。
もしこれを間断なく撃たれたら、バンタム、Sバンタムでは
全選手が完封されてしまうのではないかと思わせる。
ただしドネア本人の哲学は判定ではなくノックアウト。
決め手は言わずもがなの左フックで、そのことはなにより対戦相手が分かっている。
実際に左フックを狙う局面は多かったが、相手があれだけ右グローブを
顔面から離さなければ、一発KOは難しい。
しかし、左アッパーは中間距離からスマッシュ的な角度でアゴにカツーンとヒットし、
実際にそこからの左フックでダウンも奪った。
barrage of punchesで決めきれなかったのは、敢えてそうしなかったから。
ドネア自身がカウンターの怖さを誰よりも知っているのだ。
最終ラウンドは倒しきれなかったことを観客に詫びるかのように
ロープアドープで華麗に捌き、避け、的確に打った。
ショーマンシップも旺盛だ。

試合後のバンデージの血の滲み方と人差し指の腫れからして、
骨折している可能性が高いと思ったが、皮膚が裂けただけらしい。
ただ今春の西岡戦がずれこむ可能性はある。



考察 ~バスケスJr~

下から上がってきたものの、自分よりも大きい相手。
パンチもスピードも上と考えられる相手に対して、
まず取るべき戦略が、倒されないこととなると、
これはO・ナルバエスと同じ心理。
おそらくシドレンコもそうだったが、
対策不十分でなぎ倒されてしまった。

アルセ戦よりもさらに高く、さらにアゴにピタリとついたグローブを見ると、
以下のことが考えられる。

1.ドネアのパンチへの警戒
2.自分のアゴの弱さの自覚

1への対策はガードの高さと位置。
2は悪夢のアルセ戦の大逆転KO負け。
アゴが弱いというよりも、ダメージがなかなか抜けないというか
効いてしまった時に心理的なダメージが尾を引くというか、
試合終了のゴングと同時に万歳していたが、
勝利がテーマだったのではなく倒されないことがテーマだったようだ。

もともと左フックに強さもスピードも宿り、自信も抱いていたようだが、
左を交錯させる場面もなく、またフックで展開を作るでもなかった。
ジャブが意外にもヒットし、中盤はそこから盛り返せるかもという期待が生じたが、
やはりディフェンス一義で練習してきたのだろうか、
ボディワークの冴えを随所に見せ、特にドネアの隠れたサンデーパンチである
右ストレートに対して細やかなスリッピングアウェイで対応した。
負けはしたものの善戦したと言っていい内容。
ただ下落した商品価値は上がっていない。

WBC世界ミドル級タイトルマッチ

2012-02-09 14:21:21 | Boxing
王者 フリオ・セサール・チャベスJr VS 挑戦者 マルコ・アントニオ・ルビオ

チャベスJr 判定勝利

考察 ~チャベスJr~

現ミドル級のラインナップの中では体格に恵まれており、
反則ギリギリの肘使いもあり、バッティングを厭わない前傾姿勢も手伝って、
インサイドでは抜群の強さを見せる。
その距離から繰り出す左フック、左アッパーは元々の威力に加え、
ボディの弱点(レバー、ストマック)にグサリと突き刺さる軌道で、
打ち合いの中では絶対的な武器だと言える。
反面、打ち合いにならなかった際に何か武器があるのかという
攻撃のバリエーションの乏しさを見せてしまったとも解釈できる。
これまでは若さゆえにムキになって露骨な打ち合いに持ち込んでいるのかと思っていたが、
もしかすると無骨に殴り合うスタイルでしかボクシングができないのかもしれない。
父親譲りと言ってしまうことに抵抗があるのはこの点。
SrはJrほど身長がなく、その代わりに下半身の強靭さと広すぎない肩幅、
厚すぎない胸板から繰り打されるパンチの回転力が武器だった。
Jrはその点で攻防のつなぎがスムーズでなく、
打たせるのではなく、打たれる瞬間があまりにも多い(ように見える)。
まるで亀田大毅を観ているようだ、と表現すると流石に言い過ぎだろうか。
世界王者となってからも少しずつではあるが着実に成長してきているのだが、
その分、試合ごとにボクシングの自由度を狭めているように思える。
”ジュニア”という名前が重石になっているのだろうか。
限界を超えるべく、本物のマッチメークが必要だ。
セルヒオ・マルチネスと戦わない限り、
本物の(≠本当の)評価は得られない。


考察 ~ルビオ~

パッと見て特徴に乏しく、じーっと見てもはやり特徴に乏しい。
D・レミュー戦と何か変わっているかと思ったが、何も変わっていない。
つまり、それだけ完成度が高い選手というか、
バランスの取れた選手ということだったのか。
タフネスと精神力もメキシコの世界ランカーなら当然といったレベルで、
体格に優る相手のラッシュに防戦一方とならず、
適度に打ち返すのもポイントを渡しても流れは渡さないという意思表示だ。
こういう選手は誰に対しても善戦してボロ負けすることは滅多にないのだろうが、
その代わりスカっとした勝ち方をするのも珍しいはず。
今後もミドル級戦線で王者から安全牌として招かれることも多いだろう。
そしてそのチャンスをものにできずにキャリアを締めくくる。
そんな気がしてならない。