かねて一度行ってみたいと思っていた美術館にやっと行くことが出来た。 「黒い森美術館」だ。なんだか謎めいた館名だが、そこは札幌中心街から 車で約1時間の北広島市のうっそうと森林が広がる木立の中にコテージ風の 小さな美術館である。
ここにはエッチングや金属などで制作する彫刻家・渋谷栄一さんの作品を 所蔵しているユニークな美術館である。いかにも北海道そのもののイメージが 漂う。広大な自然はダテカンバが幾重にも天に向かって伸びていて、木の間を 抜ける風はまるで囁いているように優しい。そして時折、どこかから鶯が呼び かける。そんな自然に包まれた美術館は、まさに知る人ぞ知るといった場所で、 やや不便ではあるが、心洗われる思いにさせてくれることは間違いない。
都会にある美術館のような無機質な感じはまったくしない。この美術館は 週3日しか開館していない。また11月に冬眠に入り、次の年の4月までは閉館 という、のんびりした美術館だ。だが取り仕切る女性の館長さんは、「実はここ、 私が建てた自宅なんです」と笑顔で紹介いただく。「だからこれだけは自慢でき るのです」と明るく語ってくださった。
それにしても実によく練られた室内でどこからでも外の重厚な自然が見える ようになっていて、緑濃い季節にはきっと癒されるだろうなあと想像して聞いて いた。おそらく全国にはこんな美術館はないのではないか。参観したのは口で 詩画を書く星野富弘さんの聖句展であった。
星野さんは群馬県出身の元中学校教員だった人で指導中に誤って体を損傷し、 それ以後四肢が使えずに壮絶な人生を余儀なくされるが、不自由さを強いられ つつも、屈することなく信仰に裏打ちされた人生観に基づき、口で詩や絵を描く ことで多くの人々に深い感銘を与えた人である。
水彩画を描く仲間たちとちょっとした遠足気分で見てきた。北海道の風は今、 最も癒される季節になったのである。
やさしいタイガー